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第4章 西南戦争の勃発
第7話
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海兵局は、本多幸七郎の帰京報告に基づき、万が一に備えた出動準備に動くことになった。
2月8日、長崎に駐屯する第1海兵中隊及び砲兵中隊に対して、出動準備命令が発せられ、全員の休暇が取り消され、いつでも出動可能な状態で待機することが命ぜられた。
横須賀に駐屯している残りの3個海兵中隊にも同様の命令が発せられると共に、三菱等に長崎へ移動するための船舶の依頼が行われた。
更に重大な問題があった。
それは北海道の屯田兵中隊に対する出動準備である。
この点に、荒井郁之助海兵局長以下の面々は頭を痛めることになった。
どこまで動員を掛けて、どのように編成するのか。
毎年、仮の試案を立ててはいたが、台湾出兵後の明治8年に、屯田兵からの請願に折れた形で、海兵隊が屯田兵を管轄して動員等も行う、ということになったばかりなのである。
しかも、薩摩士族が挙兵し、それに全国の不平士族等が呼応するかもしれないという事態である以上、速やかなるほぼ総動員という形を取らざるを得ない。
かといって、北海道を空にするわけにもいかない。
荒井たちは頭を痛める羽目になった。
「現在、動員可能な屯田兵中隊は何個ある」
荒井は、大鳥圭介らに声をかけた。
「明治3年に第1屯田兵中隊が編成され、明治4年に第2屯田兵中隊が編成され、それ以降は2個屯田兵中隊が毎年編成された結果、12個中隊が動員可能だな。
しかし、昨年編成されたばかりの2個中隊については、動員は不可能と考えるべきだ。
この2個中隊は北海道警備の任務を与えて、駐屯地に残しておくしかない。
開拓作業もまだの状況下で、動員はかけられん」
大鳥が答えた。
「となると、全部で10個屯田兵中隊が動員可能か」
「それに4個海兵中隊に1個砲兵中隊が常設状態にあるな。
後、予備役兵や志願兵を募れば、2個中隊程度は少なくとも増加させられる」
「これをどう組み合わせて部隊を編成するかだな」
「試案だが、4個海兵大隊を臨時編成し、それで海兵旅団にするというのはどうだろうか」
荒井と大鳥は、更に突っ込んだ会話を始めた。
「どう組み合わせるつもりだ」
「第1海兵中隊と第2海兵中隊は、ほぼ同じ練度にある。
また、第1屯田兵中隊と第2屯田兵中隊は、台湾での実戦経験もある」
「台湾での実戦経験というが、マラリアに罹りに行っただけの気もするが」
「その一方、第3海兵中隊と第4海兵中隊は編成完結から時間が経っておらず、練度が明らかに不足している」
「ふむ」
荒井は、大鳥の考えが何となく推察できだした。
「そこで、第1海兵大隊と第2海兵大隊は、第1海兵中隊と第2海兵中隊をそれぞれ基幹とし、第5屯田兵中隊から第10屯田兵中隊を組み合わせて編成する。
第3海兵大隊は、第1屯田兵中隊と第2屯田兵中隊を基幹とし、志願兵等から新編成された2個中隊をこれに組み合わせて編成する。
第4海兵大隊は、第3海兵中隊と第4海兵中隊を基幹とし、第3屯田兵中隊と第4屯田兵中隊を組み合わせる。
これによって、各海兵大隊にそれほど実力差は生まれないかと考えるがな」
大鳥は、荒井に具体的な編制を示して、説得に取り掛かった。
「砲兵中隊は?」
「旅団司令部直隷扱いにするが、状況に応じて各大隊に事実上直属させる。どうだ」
荒井の疑問に、大鳥は即答した。
「とりあえず、それで各海兵大隊を編成して、更に海兵旅団を編制することにするしかないか」
荒井は、大鳥の言葉に同意した。
実際、大鳥の言葉は、その場にいる海兵局幹部の多くも同意しているようで肯く者が多い。
大雑把な海兵隊の動員、編制方針は決まった。
問題は、それをどのように実戦に投入していくかだ。
荒井以下、この場にいる面々は更に考えを進めた。
2月8日、長崎に駐屯する第1海兵中隊及び砲兵中隊に対して、出動準備命令が発せられ、全員の休暇が取り消され、いつでも出動可能な状態で待機することが命ぜられた。
横須賀に駐屯している残りの3個海兵中隊にも同様の命令が発せられると共に、三菱等に長崎へ移動するための船舶の依頼が行われた。
更に重大な問題があった。
それは北海道の屯田兵中隊に対する出動準備である。
この点に、荒井郁之助海兵局長以下の面々は頭を痛めることになった。
どこまで動員を掛けて、どのように編成するのか。
毎年、仮の試案を立ててはいたが、台湾出兵後の明治8年に、屯田兵からの請願に折れた形で、海兵隊が屯田兵を管轄して動員等も行う、ということになったばかりなのである。
しかも、薩摩士族が挙兵し、それに全国の不平士族等が呼応するかもしれないという事態である以上、速やかなるほぼ総動員という形を取らざるを得ない。
かといって、北海道を空にするわけにもいかない。
荒井たちは頭を痛める羽目になった。
「現在、動員可能な屯田兵中隊は何個ある」
荒井は、大鳥圭介らに声をかけた。
「明治3年に第1屯田兵中隊が編成され、明治4年に第2屯田兵中隊が編成され、それ以降は2個屯田兵中隊が毎年編成された結果、12個中隊が動員可能だな。
しかし、昨年編成されたばかりの2個中隊については、動員は不可能と考えるべきだ。
この2個中隊は北海道警備の任務を与えて、駐屯地に残しておくしかない。
開拓作業もまだの状況下で、動員はかけられん」
大鳥が答えた。
「となると、全部で10個屯田兵中隊が動員可能か」
「それに4個海兵中隊に1個砲兵中隊が常設状態にあるな。
後、予備役兵や志願兵を募れば、2個中隊程度は少なくとも増加させられる」
「これをどう組み合わせて部隊を編成するかだな」
「試案だが、4個海兵大隊を臨時編成し、それで海兵旅団にするというのはどうだろうか」
荒井と大鳥は、更に突っ込んだ会話を始めた。
「どう組み合わせるつもりだ」
「第1海兵中隊と第2海兵中隊は、ほぼ同じ練度にある。
また、第1屯田兵中隊と第2屯田兵中隊は、台湾での実戦経験もある」
「台湾での実戦経験というが、マラリアに罹りに行っただけの気もするが」
「その一方、第3海兵中隊と第4海兵中隊は編成完結から時間が経っておらず、練度が明らかに不足している」
「ふむ」
荒井は、大鳥の考えが何となく推察できだした。
「そこで、第1海兵大隊と第2海兵大隊は、第1海兵中隊と第2海兵中隊をそれぞれ基幹とし、第5屯田兵中隊から第10屯田兵中隊を組み合わせて編成する。
第3海兵大隊は、第1屯田兵中隊と第2屯田兵中隊を基幹とし、志願兵等から新編成された2個中隊をこれに組み合わせて編成する。
第4海兵大隊は、第3海兵中隊と第4海兵中隊を基幹とし、第3屯田兵中隊と第4屯田兵中隊を組み合わせる。
これによって、各海兵大隊にそれほど実力差は生まれないかと考えるがな」
大鳥は、荒井に具体的な編制を示して、説得に取り掛かった。
「砲兵中隊は?」
「旅団司令部直隷扱いにするが、状況に応じて各大隊に事実上直属させる。どうだ」
荒井の疑問に、大鳥は即答した。
「とりあえず、それで各海兵大隊を編成して、更に海兵旅団を編制することにするしかないか」
荒井は、大鳥の言葉に同意した。
実際、大鳥の言葉は、その場にいる海兵局幹部の多くも同意しているようで肯く者が多い。
大雑把な海兵隊の動員、編制方針は決まった。
問題は、それをどのように実戦に投入していくかだ。
荒井以下、この場にいる面々は更に考えを進めた。
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