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第4章 西南戦争の勃発
第6話
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川村純義海軍大輔は、自分がしてしまったことに対し、臍をかむ思いを、鹿児島から離れる船上でしていた。
まさか、こう何もかも悪い方向に転がってしまうとは思わなかった。
自分が私学校党の挙兵への最後の一押しをしてしまうとは、更に西郷隆盛さんまで、それに加担する決断をさせてしまうとは、悔やんでも悔やみきれない。
私は一生この後悔の念を抱いて生きていくことになるだろう。
川村は2月9日に鹿児島港に到着し、早速、鹿児島県令の大山綱良に面会を申し込んだ。
大山県令に、川村は西郷さんへの仲介を依頼するつもりだったのだ。
だが、大山は面会はしてくれたものの、川村への態度は、極めて厳しいというか冷たいものだった。
「海兵隊を派遣して西郷さんを暗殺しようとしておきながら、発覚すると白を切って西郷さんと面会してなだめてしまおうとは、厚顔無恥にも程があるのではないですか」
「えん罪もいいところだ。
私は西郷さんを敬愛している。
暗殺しようなどと考えたこともない。
天地神明に誓って潔白だ」
会って早々に、大山は喧嘩腰に、川村に言い、それに川村は反論する有様だった。
「口でなら何とでもいえます。
海兵隊を派遣した川村さんをここに送ってきたことで、大久保利通の魂胆は見えました。
最早、引き返せないところまで追い込まれたようです」
「同郷の出身者でもあり、政府高官でもある大久保さんを呼び捨てにするのか」
「川村さんが来ることが分かった時点で、大久保の腹の底は見えました。
話し合いの余地はないということです。
陸軍大将として、西郷さんが挙兵して上京することを認めてもらうことが、唯一の条件です」
「大久保さんは、いろいろと薩摩のために配慮してきたではないか。
それを忘れたのか。
薩摩がどれだけ特例を認められてきたか、分からないのか」
大山の怒りを、川村は懸命に宥めようとしたが。
「散々、薩摩の士族をいじめてきておいて、そんなことをいうのですか。
維新のために、どれだけ薩摩の士族が尽くしてきたことか。
それなのに恩を仇で返すようなことをして、薩摩の士族の特権をさんざん剥奪しておいて、恩を着せるようなことをいうなんて、もっと薩摩の士族には、特例を認められてしかるべきです」
大山の反論に、これはダメだ、と川村は内心でため息を吐くしかなかった。
薩摩の中にいると、ここまで見識が狭くなってしまうのか。
薩摩にだけの特例を認めるな、というのは長州出身者を筆頭に、全国津々浦々にいると言っても過言ではない。
それなのに、薩摩にだけの特例をもっと認めろ、というのでは交渉の余地がなく、どうにもならない。
川村は、頭を抱え込むしかなかった。
「せめて、一度だけでいいから、西郷さんと面会の機会を作ってほしい」
「分かりました。交渉はします。
でも、西郷さんが会ってくれるとは限りませんよ」
川村の要求に、大山は最後には応じたが。
「桐野利秋さんから言われました。
最早、ここに至って会う必要はない、と。西郷さんも同意見とのことです」
「西郷さんに直接は聞いていないのか」
「直接、私も会いましたが、周囲は完全に私学校党の生徒らに固められていました。
西郷さんは、一言、最早むつかしきこと、とだけ諦めたように言われました」
交渉から帰ってきた大山は、川村にそう言った。
その返答に、川村は絶望した。
完全に西郷さんは私学校党に取り込まれている。
とうとう、川村は2月11日早朝、船で鹿児島を出発せざるを得なかった。
私は、二度と心を安らがせて、鹿児島の地を訪れることは無いだろう。
西郷さんを思いつめさせて挙兵させ、故郷の人々にあのように思われる事態に至るとは。
川村は号泣しながら、そう想わざるを得なかった。
まさか、こう何もかも悪い方向に転がってしまうとは思わなかった。
自分が私学校党の挙兵への最後の一押しをしてしまうとは、更に西郷隆盛さんまで、それに加担する決断をさせてしまうとは、悔やんでも悔やみきれない。
私は一生この後悔の念を抱いて生きていくことになるだろう。
川村は2月9日に鹿児島港に到着し、早速、鹿児島県令の大山綱良に面会を申し込んだ。
大山県令に、川村は西郷さんへの仲介を依頼するつもりだったのだ。
だが、大山は面会はしてくれたものの、川村への態度は、極めて厳しいというか冷たいものだった。
「海兵隊を派遣して西郷さんを暗殺しようとしておきながら、発覚すると白を切って西郷さんと面会してなだめてしまおうとは、厚顔無恥にも程があるのではないですか」
「えん罪もいいところだ。
私は西郷さんを敬愛している。
暗殺しようなどと考えたこともない。
天地神明に誓って潔白だ」
会って早々に、大山は喧嘩腰に、川村に言い、それに川村は反論する有様だった。
「口でなら何とでもいえます。
海兵隊を派遣した川村さんをここに送ってきたことで、大久保利通の魂胆は見えました。
最早、引き返せないところまで追い込まれたようです」
「同郷の出身者でもあり、政府高官でもある大久保さんを呼び捨てにするのか」
「川村さんが来ることが分かった時点で、大久保の腹の底は見えました。
話し合いの余地はないということです。
陸軍大将として、西郷さんが挙兵して上京することを認めてもらうことが、唯一の条件です」
「大久保さんは、いろいろと薩摩のために配慮してきたではないか。
それを忘れたのか。
薩摩がどれだけ特例を認められてきたか、分からないのか」
大山の怒りを、川村は懸命に宥めようとしたが。
「散々、薩摩の士族をいじめてきておいて、そんなことをいうのですか。
維新のために、どれだけ薩摩の士族が尽くしてきたことか。
それなのに恩を仇で返すようなことをして、薩摩の士族の特権をさんざん剥奪しておいて、恩を着せるようなことをいうなんて、もっと薩摩の士族には、特例を認められてしかるべきです」
大山の反論に、これはダメだ、と川村は内心でため息を吐くしかなかった。
薩摩の中にいると、ここまで見識が狭くなってしまうのか。
薩摩にだけの特例を認めるな、というのは長州出身者を筆頭に、全国津々浦々にいると言っても過言ではない。
それなのに、薩摩にだけの特例をもっと認めろ、というのでは交渉の余地がなく、どうにもならない。
川村は、頭を抱え込むしかなかった。
「せめて、一度だけでいいから、西郷さんと面会の機会を作ってほしい」
「分かりました。交渉はします。
でも、西郷さんが会ってくれるとは限りませんよ」
川村の要求に、大山は最後には応じたが。
「桐野利秋さんから言われました。
最早、ここに至って会う必要はない、と。西郷さんも同意見とのことです」
「西郷さんに直接は聞いていないのか」
「直接、私も会いましたが、周囲は完全に私学校党の生徒らに固められていました。
西郷さんは、一言、最早むつかしきこと、とだけ諦めたように言われました」
交渉から帰ってきた大山は、川村にそう言った。
その返答に、川村は絶望した。
完全に西郷さんは私学校党に取り込まれている。
とうとう、川村は2月11日早朝、船で鹿児島を出発せざるを得なかった。
私は、二度と心を安らがせて、鹿児島の地を訪れることは無いだろう。
西郷さんを思いつめさせて挙兵させ、故郷の人々にあのように思われる事態に至るとは。
川村は号泣しながら、そう想わざるを得なかった。
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