39 / 120
第4章 西南戦争の勃発
第4話
しおりを挟む
少し時が前後する。
本多幸七郎率いる海兵隊員は、私学校生徒らの襲撃を1月30日に受けたのだが、全員が私服を着ていたことから民間人と誤解され、その際には海兵隊員とは気づかれずにすんだ。
だが、それでも暴行を受けることは避けきれず、2名の重傷者と10数名の軽傷者を出す羽目になった。
命からがら、本多を含む海兵隊員全員が、何とか赤龍丸に逃げ込み、更に大阪港にたどりついた。
そして、本多が東京の海兵局に電報を打ったところ、事情聴取のために至急、本多は、東京の海兵局に向かうように指示が届いた。
そのために、本多は取るものも取りあえず東京に向かった。
本多が東京の海兵局にたどり着いたのは、2月7日になってからだった。
海兵局内は緊迫した空気に包まれており、本多をより緊張させた。
海兵局長室に事情聴取のために入ると荒井郁之助局長に加え、大鳥圭介副局長と滝川充太郎第2中隊長、北白川宮第3中隊長といった海兵隊の幹部の面々も集まっていた。
荒井が会話の口火を切った。
「正確な情報を、主な幹部全員が共有するために、ここに集まってもらった。
実際のところ、海兵隊に死者は出ていないのだな」
「重傷者はいますが、死者は出ていません。
海兵隊以外については私にはわかりません」
本多は明確に答えた。
その答えを聞いた他の幹部の面々全員が、沈黙して考え込んだ。
やがて、沈黙に耐えかねたこともあるのか、滝川がぽつんと言った。
「はめられたな。鹿児島は」
「どういうことです」
本多が、言葉を発した。
「陸軍省が新聞に情報を流した。
海兵隊員を含む多数の死傷者が私学校生徒の襲撃により出たと」
「海兵隊に負傷者は出ていますが、死者は出ていません。
明かな誤報です」
滝川と本多は、そうやり取りをした。
荒井が口を挟んだ。
「だから、わざと誤報を流したのさ。
鹿児島を暴発させて、更に色々と相手を分断するために」
「まさか、幾らなんでも考えすぎでは」
本多は、反論しかけたが、大鳥がそれを押しとめるように言った。
「陸軍省の発表では、海兵隊員は軍服を着ていて、それに対して私学校生徒が襲撃したことにもなっている。
ところで、襲撃を受けた時に海兵隊員は軍服を着ていたか?」
「着ていません。あの時、大鳥さんもおられる場で、事前に相談していた通り、険悪な雰囲気になった際に私学校の生徒を刺激するべきではないと考えていましたので、それに作業を行っていたこともあり、私服です」
「それなのに軍服を着用していたことにもなっている。
幾らなんでも誤報が過ぎると思わないか?」
大鳥の言葉は、本多の背筋を冷たくさせ、絶句させた。
大鳥は、本多の反応を半ば無視して、言葉を継いだ。
「正確な情報を、確認したうえで、陸軍省は発表することもできるんだ。
それなのに正確ではない第一報段階で、大々的に発表する。
しかも過激な方向でだ。
こうなると土佐とかの不平士族の面々も鹿児島と一緒に行動することに二の足を踏まざるを得ない。
一方で鹿児島はますます憤激するが、表立っては大義名分が立たない。
鹿児島の特権を維持しろという名分では、鹿児島以外からますますそっぽを向かれてしまう」
大鳥の言葉を承けて、荒井が言葉を発した。
「だが、陸軍のやり方は傍から見れば見事なやり口だ。
犠牲者にされたこちらはたまったものではないがな。
それに対して、専門家の筈の川路大警視があんな下手をうつとはな」
「まだ何かあったのですか」
本多は、聞きたくなかったが尋ねざるを得なかった。
ちなみに、北白川宮殿下は、先程から深く俯いてしまっている。
本多は、北白川宮殿下が目元に涙を浮かべているのに気づいた。
これからどんな悲劇が起こるのか、察しておられるのだ。
本多幸七郎率いる海兵隊員は、私学校生徒らの襲撃を1月30日に受けたのだが、全員が私服を着ていたことから民間人と誤解され、その際には海兵隊員とは気づかれずにすんだ。
だが、それでも暴行を受けることは避けきれず、2名の重傷者と10数名の軽傷者を出す羽目になった。
命からがら、本多を含む海兵隊員全員が、何とか赤龍丸に逃げ込み、更に大阪港にたどりついた。
そして、本多が東京の海兵局に電報を打ったところ、事情聴取のために至急、本多は、東京の海兵局に向かうように指示が届いた。
そのために、本多は取るものも取りあえず東京に向かった。
本多が東京の海兵局にたどり着いたのは、2月7日になってからだった。
海兵局内は緊迫した空気に包まれており、本多をより緊張させた。
海兵局長室に事情聴取のために入ると荒井郁之助局長に加え、大鳥圭介副局長と滝川充太郎第2中隊長、北白川宮第3中隊長といった海兵隊の幹部の面々も集まっていた。
荒井が会話の口火を切った。
「正確な情報を、主な幹部全員が共有するために、ここに集まってもらった。
実際のところ、海兵隊に死者は出ていないのだな」
「重傷者はいますが、死者は出ていません。
海兵隊以外については私にはわかりません」
本多は明確に答えた。
その答えを聞いた他の幹部の面々全員が、沈黙して考え込んだ。
やがて、沈黙に耐えかねたこともあるのか、滝川がぽつんと言った。
「はめられたな。鹿児島は」
「どういうことです」
本多が、言葉を発した。
「陸軍省が新聞に情報を流した。
海兵隊員を含む多数の死傷者が私学校生徒の襲撃により出たと」
「海兵隊に負傷者は出ていますが、死者は出ていません。
明かな誤報です」
滝川と本多は、そうやり取りをした。
荒井が口を挟んだ。
「だから、わざと誤報を流したのさ。
鹿児島を暴発させて、更に色々と相手を分断するために」
「まさか、幾らなんでも考えすぎでは」
本多は、反論しかけたが、大鳥がそれを押しとめるように言った。
「陸軍省の発表では、海兵隊員は軍服を着ていて、それに対して私学校生徒が襲撃したことにもなっている。
ところで、襲撃を受けた時に海兵隊員は軍服を着ていたか?」
「着ていません。あの時、大鳥さんもおられる場で、事前に相談していた通り、険悪な雰囲気になった際に私学校の生徒を刺激するべきではないと考えていましたので、それに作業を行っていたこともあり、私服です」
「それなのに軍服を着用していたことにもなっている。
幾らなんでも誤報が過ぎると思わないか?」
大鳥の言葉は、本多の背筋を冷たくさせ、絶句させた。
大鳥は、本多の反応を半ば無視して、言葉を継いだ。
「正確な情報を、確認したうえで、陸軍省は発表することもできるんだ。
それなのに正確ではない第一報段階で、大々的に発表する。
しかも過激な方向でだ。
こうなると土佐とかの不平士族の面々も鹿児島と一緒に行動することに二の足を踏まざるを得ない。
一方で鹿児島はますます憤激するが、表立っては大義名分が立たない。
鹿児島の特権を維持しろという名分では、鹿児島以外からますますそっぽを向かれてしまう」
大鳥の言葉を承けて、荒井が言葉を発した。
「だが、陸軍のやり方は傍から見れば見事なやり口だ。
犠牲者にされたこちらはたまったものではないがな。
それに対して、専門家の筈の川路大警視があんな下手をうつとはな」
「まだ何かあったのですか」
本多は、聞きたくなかったが尋ねざるを得なかった。
ちなみに、北白川宮殿下は、先程から深く俯いてしまっている。
本多は、北白川宮殿下が目元に涙を浮かべているのに気づいた。
これからどんな悲劇が起こるのか、察しておられるのだ。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
1333
干支ピリカ
歴史・時代
鎌倉幕府末期のエンターテイメントです。
(現在の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』から、100年ちょい後の話です)
鎌倉や京都が舞台となります。心躍る激しい合戦や、ぞくぞくするようなオドロオドロしい話を目指そうと思いましたが、結局政治や謀略の話が多くなりました。
主役は足利尊氏の弟、直義です。エキセントリックな兄と、サイケデリックな執事に振り回される、苦労性のイケメンです。
ご興味を持たれた方は是非どうぞ!

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。

【架空戦記】蒲生の忠
糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。
明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。
その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。
両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。
一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。
だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。
かくなる上は、戦うより他に道はなし。
信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。

日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる