土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

文字の大きさ
上 下
38 / 120
第4章 西南戦争の勃発

第3話

しおりを挟む
 本多幸七郎は、最善の手段を考えて、その手段を選択して、陸軍の担当者と談判したつもりだった。
「海兵隊員全員が私服に着替えて、火器硝薬製造工場からの機材の搬出に協力します。
 この作業は昼夜兼行で行い、一刻も早くこの作業を済ませて、大阪に帰還しましょう」
 本多は陸軍の担当者に、そう談判した。

「ご協力には感謝しますが、そこまでの必要があるでしょうか」
 だが、陸軍の担当者の危機感は薄く、本多の考えを心配し過ぎではないか、と考えているようだった。
「ともかく一刻も早く作業を行うべきです。
 私としては、本当に何者かによる襲撃の危険があると考えています。
 実際に襲撃により死傷者が出たら、重大な責任問題になります」
 本多は、陸軍の担当者を、最後には半ば脅迫した。

「分かりました、海兵隊のご協力に感謝します。
 昼夜兼行で、機材の搬出作業を行いましょう」
 陸軍の担当者も、本多の主張に、最後には同意した。
 だが、それは陸軍の謀略の掌の上でのことに過ぎない手段だった。

「陸軍は、全く怪しからん。
 事前通告もなく、更に約束を無視して、昼夜兼行で火器硝薬製造工場からの機材の搬出を始めたと聞くが本当か」
「本当らしい、更にその作業には海兵隊員が率先して当たっているらしい」
「海兵隊だと」
 私学校のある生徒同士が、会話を交わしていた。

「海兵隊が、西郷兄弟をはじめとする我々を敵視しているのは、戊辰戦争以来の因縁からすれば、当然のことかもしれんがな。
 だが、それのみならず、海兵隊は西郷隆盛先生を逮捕監禁するなり、刺殺するなりするために、完全武装を整えて鹿児島には乗り込んできたらしい」
 別の生徒が、その会話に口を挟んできた。

「何だと、そこまで海兵隊はするのか」
「考えてみれば、大体が陸軍の工場の作業をするのに海兵隊が乗り出してくること自体が怪しくないか。
 海兵隊は、西郷隆盛先生を殺すためなら何でもしかねない、とオイは思う。
 弟の西郷従道先生を、失脚させたのは海兵隊だというのは有名な話だぞ」
「許せん、絶対に許せん話ぞ」
「オイも同じように考えるが、どうすべきだろうな」
 私学校の生徒同士の会話は、徐々に過激の一途をたどり出した。

「この際、奴らを襲撃し、更に陸軍火薬庫や海軍造船所を、我々の手で押さえるべきだろう。
 そうしないと、いざという時の行動すらできなくなるぞ」
「その通り、善は急げだ。
 早速、奴らを襲撃しよう。
 また、陸軍火薬庫や海軍造船所を、我々の手で速やかに押さえよう」
 とうとう、彼らの会話は、陸軍火薬庫や海軍造船所を襲撃する話にまで、過激化してしまった。

 かくして、私学校の生徒たちの行動は、西郷隆盛兄弟の敵である(筈の)海兵隊に対する団結のために、迅速に行われることが決断され、また、彼らに味方する面々も賛同して、速やかに実行された。

 2月3日までに、鹿児島県内の全ての陸軍火薬庫や海軍造船所、火器硝薬製造工場は、西郷隆盛に私淑する武装した私学校生徒らの襲撃を受けた結果、全てが彼らの手に落ちるという事態にまで至ったのだ。
 
 更に政府(というか陸軍省)は、この事態により海兵隊員を含めて多数の死傷者が出たという発表を行い、新聞はこぞって、それを日本全国で報道した。
 この発表は、日本全国で大きな波紋を広げた。
 その波紋から。

 西郷隆盛が、遂に政府に対する武装決起を決断したのか。
 それとも、その周囲が暴発しただけで、西郷隆盛は動いていないのか。
 様々な憶測、更に無責任な噂が、日本全国で飛び交うことになった。
 それらは、土方歳三のいる北海道にまで届き、更に土方歳三に、屯田兵を率いて、更にかつての仲間と共闘して、西南戦争での戦いの日々を送らせることにまでなるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

1333

干支ピリカ
歴史・時代
 鎌倉幕府末期のエンターテイメントです。 (現在の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』から、100年ちょい後の話です)  鎌倉や京都が舞台となります。心躍る激しい合戦や、ぞくぞくするようなオドロオドロしい話を目指そうと思いましたが、結局政治や謀略の話が多くなりました。  主役は足利尊氏の弟、直義です。エキセントリックな兄と、サイケデリックな執事に振り回される、苦労性のイケメンです。  ご興味を持たれた方は是非どうぞ!

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

【架空戦記】蒲生の忠

糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。 明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。 その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。 両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。 一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。 だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。 かくなる上は、戦うより他に道はなし。 信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

処理中です...