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第4章 西南戦争の勃発
第3話
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本多幸七郎は、最善の手段を考えて、その手段を選択して、陸軍の担当者と談判したつもりだった。
「海兵隊員全員が私服に着替えて、火器硝薬製造工場からの機材の搬出に協力します。
この作業は昼夜兼行で行い、一刻も早くこの作業を済ませて、大阪に帰還しましょう」
本多は陸軍の担当者に、そう談判した。
「ご協力には感謝しますが、そこまでの必要があるでしょうか」
だが、陸軍の担当者の危機感は薄く、本多の考えを心配し過ぎではないか、と考えているようだった。
「ともかく一刻も早く作業を行うべきです。
私としては、本当に何者かによる襲撃の危険があると考えています。
実際に襲撃により死傷者が出たら、重大な責任問題になります」
本多は、陸軍の担当者を、最後には半ば脅迫した。
「分かりました、海兵隊のご協力に感謝します。
昼夜兼行で、機材の搬出作業を行いましょう」
陸軍の担当者も、本多の主張に、最後には同意した。
だが、それは陸軍の謀略の掌の上でのことに過ぎない手段だった。
「陸軍は、全く怪しからん。
事前通告もなく、更に約束を無視して、昼夜兼行で火器硝薬製造工場からの機材の搬出を始めたと聞くが本当か」
「本当らしい、更にその作業には海兵隊員が率先して当たっているらしい」
「海兵隊だと」
私学校のある生徒同士が、会話を交わしていた。
「海兵隊が、西郷兄弟をはじめとする我々を敵視しているのは、戊辰戦争以来の因縁からすれば、当然のことかもしれんがな。
だが、それのみならず、海兵隊は西郷隆盛先生を逮捕監禁するなり、刺殺するなりするために、完全武装を整えて鹿児島には乗り込んできたらしい」
別の生徒が、その会話に口を挟んできた。
「何だと、そこまで海兵隊はするのか」
「考えてみれば、大体が陸軍の工場の作業をするのに海兵隊が乗り出してくること自体が怪しくないか。
海兵隊は、西郷隆盛先生を殺すためなら何でもしかねない、とオイは思う。
弟の西郷従道先生を、失脚させたのは海兵隊だというのは有名な話だぞ」
「許せん、絶対に許せん話ぞ」
「オイも同じように考えるが、どうすべきだろうな」
私学校の生徒同士の会話は、徐々に過激の一途をたどり出した。
「この際、奴らを襲撃し、更に陸軍火薬庫や海軍造船所を、我々の手で押さえるべきだろう。
そうしないと、いざという時の行動すらできなくなるぞ」
「その通り、善は急げだ。
早速、奴らを襲撃しよう。
また、陸軍火薬庫や海軍造船所を、我々の手で速やかに押さえよう」
とうとう、彼らの会話は、陸軍火薬庫や海軍造船所を襲撃する話にまで、過激化してしまった。
かくして、私学校の生徒たちの行動は、西郷隆盛兄弟の敵である(筈の)海兵隊に対する団結のために、迅速に行われることが決断され、また、彼らに味方する面々も賛同して、速やかに実行された。
2月3日までに、鹿児島県内の全ての陸軍火薬庫や海軍造船所、火器硝薬製造工場は、西郷隆盛に私淑する武装した私学校生徒らの襲撃を受けた結果、全てが彼らの手に落ちるという事態にまで至ったのだ。
更に政府(というか陸軍省)は、この事態により海兵隊員を含めて多数の死傷者が出たという発表を行い、新聞はこぞって、それを日本全国で報道した。
この発表は、日本全国で大きな波紋を広げた。
その波紋から。
西郷隆盛が、遂に政府に対する武装決起を決断したのか。
それとも、その周囲が暴発しただけで、西郷隆盛は動いていないのか。
様々な憶測、更に無責任な噂が、日本全国で飛び交うことになった。
それらは、土方歳三のいる北海道にまで届き、更に土方歳三に、屯田兵を率いて、更にかつての仲間と共闘して、西南戦争での戦いの日々を送らせることにまでなるのだ。
「海兵隊員全員が私服に着替えて、火器硝薬製造工場からの機材の搬出に協力します。
この作業は昼夜兼行で行い、一刻も早くこの作業を済ませて、大阪に帰還しましょう」
本多は陸軍の担当者に、そう談判した。
「ご協力には感謝しますが、そこまでの必要があるでしょうか」
だが、陸軍の担当者の危機感は薄く、本多の考えを心配し過ぎではないか、と考えているようだった。
「ともかく一刻も早く作業を行うべきです。
私としては、本当に何者かによる襲撃の危険があると考えています。
実際に襲撃により死傷者が出たら、重大な責任問題になります」
本多は、陸軍の担当者を、最後には半ば脅迫した。
「分かりました、海兵隊のご協力に感謝します。
昼夜兼行で、機材の搬出作業を行いましょう」
陸軍の担当者も、本多の主張に、最後には同意した。
だが、それは陸軍の謀略の掌の上でのことに過ぎない手段だった。
「陸軍は、全く怪しからん。
事前通告もなく、更に約束を無視して、昼夜兼行で火器硝薬製造工場からの機材の搬出を始めたと聞くが本当か」
「本当らしい、更にその作業には海兵隊員が率先して当たっているらしい」
「海兵隊だと」
私学校のある生徒同士が、会話を交わしていた。
「海兵隊が、西郷兄弟をはじめとする我々を敵視しているのは、戊辰戦争以来の因縁からすれば、当然のことかもしれんがな。
だが、それのみならず、海兵隊は西郷隆盛先生を逮捕監禁するなり、刺殺するなりするために、完全武装を整えて鹿児島には乗り込んできたらしい」
別の生徒が、その会話に口を挟んできた。
「何だと、そこまで海兵隊はするのか」
「考えてみれば、大体が陸軍の工場の作業をするのに海兵隊が乗り出してくること自体が怪しくないか。
海兵隊は、西郷隆盛先生を殺すためなら何でもしかねない、とオイは思う。
弟の西郷従道先生を、失脚させたのは海兵隊だというのは有名な話だぞ」
「許せん、絶対に許せん話ぞ」
「オイも同じように考えるが、どうすべきだろうな」
私学校の生徒同士の会話は、徐々に過激の一途をたどり出した。
「この際、奴らを襲撃し、更に陸軍火薬庫や海軍造船所を、我々の手で押さえるべきだろう。
そうしないと、いざという時の行動すらできなくなるぞ」
「その通り、善は急げだ。
早速、奴らを襲撃しよう。
また、陸軍火薬庫や海軍造船所を、我々の手で速やかに押さえよう」
とうとう、彼らの会話は、陸軍火薬庫や海軍造船所を襲撃する話にまで、過激化してしまった。
かくして、私学校の生徒たちの行動は、西郷隆盛兄弟の敵である(筈の)海兵隊に対する団結のために、迅速に行われることが決断され、また、彼らに味方する面々も賛同して、速やかに実行された。
2月3日までに、鹿児島県内の全ての陸軍火薬庫や海軍造船所、火器硝薬製造工場は、西郷隆盛に私淑する武装した私学校生徒らの襲撃を受けた結果、全てが彼らの手に落ちるという事態にまで至ったのだ。
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その波紋から。
西郷隆盛が、遂に政府に対する武装決起を決断したのか。
それとも、その周囲が暴発しただけで、西郷隆盛は動いていないのか。
様々な憶測、更に無責任な噂が、日本全国で飛び交うことになった。
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