土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第3章 新選組の旗の再生と台湾出兵

第12話

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 明治7年12月初頭、土方歳三は、古屋佐久左衛門や滝川充太郎、本多幸七郎といった面々と一緒になって、台湾から祖国、日本への帰還の準備を進めていた。

「それにしても、なんだかんだ言っても、西郷従道中将は、派遣軍の最高責任者として、最低限の責任は取ったというべきなのでしょうか?」
 滝川が、半分独り言を呟いた。

「最低限の責任としか言えないがな。
 全く陸軍だけに限れば、派遣軍の7人に1人以上が病死したんだ。
 これだけの戦病死者を出すなんて前代未聞だろう。
 だから、少しでも早く派遣軍の兵士を帰還させないといけない。
 そして、派遣軍の最高責任者は最後に帰還するというわけだ。
 全く海兵隊のように陸軍も対策を講じていればなあ。」
 古屋がぼやいた。

 土方は滝川と古屋の会話を聞きつつ思った。
 本当にこれだけマラリア等が蔓延して死者が出たにも関わらず、中隊長全員(古屋は大隊長だが第1中隊長を兼務している。本多は第4中隊長)が、生きて祖国の土を踏めるとは思わなかった。

 海兵隊は事前準備を十分に整えていたお蔭で、陸軍と比較すればマラリア等の被害は少ない。
 だが、少ないだけで被害が出ていないわけではない。約1200人が海兵隊からは台湾に派遣されたが、60人ほどが祖国に帰ることなく、異郷の土になったのだ。
 その内、敵兵との交戦で戦死したのは1名にすぎない。
 残りは皆、マラリア等による戦病死だった。
 そして、自分の率いる第3中隊からは。
 土方は痛切な胸の痛みを覚えた。
 9名が病死したのだ。
 全員を、生きてあの村に連れて帰りたかったな。

 そういえば、あいつも生きて連れて帰ってやりたかった。
 土方は、更に想いを馳せた。

 長崎で新選組の旗に気付いた土方は、新選組の旗を再生させた黒幕を探した。
 実は、第1屯田兵中隊の中に、新選組の仲間は、自分しかいなかったのだ。
 それなのに、あそこまで新選組の旗が再生されている。
 誰かが、再生の手ほどきをしたのだ。
 つまり、あの件には黒幕がいるのは、間違いない、と土方は考えた。
 そして、黒幕は、誰だったかというと。

「墓場まで秘密を持っていくつもりだったのですが」
「全く、お前が第2屯田兵村にいて、教えたとはな」
 土方は、池田七三郎と会話していた。
 そして、何とも皮肉なことに、その時、池田は、最後の安息の時を迎えていた。
 池田は、マラリアに罹っていたのだ。

 古屋の診断では、もう池田の命は旦夕だ、とのことだった。
 土方は、それを念頭において、池田と会話した。
「土方さんが、第1屯田兵村の村長と言うのを聞き、思ったのですよ。
 あの新選組の旗の下で、いつか戦いたいと」
「それで、他の者を説いた、という訳か。
 礼を言うぞ」
 土方と池田は、やり取りをした。

「そう言っていただけて、幸いです。
 新選組の旗の下で死なせてくれませんか」
「縁起でもないことを言うな。
 だが、新選組の旗は持ってきてやる」
「有難うございます。
 いつか、他の新選組の面々が集う中、また」
 そこまで言った瞬間、池田は目を閉じて、絶息した。
 土方は、涙を零して見送った。

 そして、あいつも、あいつも、と土方は、戦病死した仲間の顔と名前も思い浮かべた。
 共に屯田兵村に来て、一緒に田畑を耕し、寝食を共にして、また、家族と共に過ごした仲間もいる。
 村に帰ったら、つらいがその仲間の家族を、自分は慰問に訪ねなければ。

 そう土方が考えていると、古屋が皆に声を掛けた。
「ともかく祖国に帰ろう。
 年内には皆、祖国に帰れる。
 祖国に帰ったら、それなりのことを上はしてくれるし、また、してもらわないとな」
「そうですね、これだけの犠牲を払ったんです。
 それなりのことをしてもらわないと」
 土方は答え、他の面々も口々に同意した。
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