土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

文字の大きさ
上 下
31 / 120
第3章 新選組の旗の再生と台湾出兵

第11話

しおりを挟む
 明治7年10月、大久保利通は苦悩していた。
 清国の提示してきた台湾からの撤兵条件を、自分は受けるべきなのかどうか。
 欧米諸国の仲介等もあり、台湾出兵は、最早、これ以上の日本からの要望は望めないのでは、という段階に達しつつあったのだ。

 台湾出兵の表向きの口実は、宮古島島民や岡山県民が台湾近海で遭難した際に、台湾の住民から受けた略奪等に対する報復だった。
 清国に賠償を求めても、台湾は清国の統治が完全には及んでおらず、台湾の住民がしたことに、清国は責任は取れない、の一点張りだったのだ。
 そうなると、台湾の住民に対して武力で報復するしかない。
 それ故に、日本は台湾に出兵する、ということになったのだが、隠れた目的もあった。

 それは、薩摩の士族をなだめるという目的だった。
 征韓論で下野した西郷隆盛らは、はっきりいって爆弾みたいなもので、いつ政府に対する不満を暴発させて、武力挙兵に及ぶか分かったものではなかった。
 
 幸いなことに、江藤新平が主導した佐賀の乱に、彼らは同調しなかったが、彼ら単体でも武力挙兵した際の影響の大きさは、他の士族が暴発した場合とは比較にならない。
 そこで、台湾に薩摩の士族の一部を植民させると共に対外危機をあおることで、薩摩の士族の不満をなだめようと考えていたのだが、台湾があそこまでの瘴癘の地だとは思わなかった。

 既に台湾に派遣された日本の将兵の多くが倒れている。
 そんなことはまず無理だと分かってはいるが、清国が妥協して台湾の一部に日本人の植民を認めるとしても、こんな状況が流れては、薩摩の士族から、台湾への植民を希望する者は、ほとんど出ないだろう。

 そして、内実はともかく清国が台湾に派遣した兵力は明治7年10月現在約1万4000人に達しているらしい。
 一方、日本側は陸軍と海兵隊合わせても4000人に満たない上、4割以上がマラリア等により戦闘不能に陥っている。
 こんな状況で、台湾で日清両軍の衝突が偶発的にでも生じたら、日本軍の敗北は目に見えている。

 西郷従道からは、日清両軍が台湾で衝突する事態に陥っても、島津義弘公の泗川の勝利を台湾で再現可能であり、清国が日本に対して充分な条件を提示しないならば、自分は、日清開戦をむしろ希望すると豪語する連絡が、自分の下に届いてはいる。
 だが、西郷は、マラリアの高熱で、とうとう脳までやられたのではないか、と大久保自身が、疑わざるを得ない状況だった。

 台湾出兵に対して、政府上層部から国民まで渦巻いている不満の落とし前を、自らつけるために、8月に北京へ出発したものの、ここまでの条件を清国に付きつけられる羽目に陥るとは思わなかった、と大久保は後悔したが、今や清国が提示する条件を受け入れるしかない有様に陥っていた。
 見舞金10万両、戦費賠償金40万両を清国から日本に支払う代わりに、日本は台湾から年内に全面撤兵する、というのが清国の提示した内容だった。
 これ以上は絶対に金を出せないと清国が言い張るうえに、日本は台湾からの撤兵が1日でも遅れるごとに、台湾で将兵が多く病死していくという状況では、幾ら大久保が頑張りたくても、どうにもならなかった。

 大久保は明治7年10月31日、清国政府との北京専約(台湾からの日本軍の撤兵)に終に同意した。

 そして、これにより、台湾に赴いていた日本の将兵、つまり、土方歳三が率いる屯田兵中隊を含む海兵隊の面々らは、日本に帰国の途に就くことになったのだ。
 だが、それは、彼らにとって、余りにも遅く、また、苦い帰国の途としか、言いようが無かった。
 この異郷の地で、海兵隊の仲間、約60名余りが亡くなり、遺骨となって帰国の途に付くこととなったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

1333

干支ピリカ
歴史・時代
 鎌倉幕府末期のエンターテイメントです。 (現在の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』から、100年ちょい後の話です)  鎌倉や京都が舞台となります。心躍る激しい合戦や、ぞくぞくするようなオドロオドロしい話を目指そうと思いましたが、結局政治や謀略の話が多くなりました。  主役は足利尊氏の弟、直義です。エキセントリックな兄と、サイケデリックな執事に振り回される、苦労性のイケメンです。  ご興味を持たれた方は是非どうぞ!

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

【架空戦記】蒲生の忠

糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。 明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。 その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。 両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。 一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。 だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。 かくなる上は、戦うより他に道はなし。 信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

処理中です...