土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第3章 新選組の旗の再生と台湾出兵

第9話

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 同じ頃、京都にいた島田魁は、食うに困っていることもあったが、台湾出兵のことを思うと気分が悪かった。
 島田の周囲でも台湾出兵の評判は散々で、政府批判のタネの1つになっている。

 島田は維新後、土方歳三らと違って、すぐに釈放されたのだが、新選組という職を失ったのも事実だった。
 その後、京都に引っ越して、自分が大好物の甘い物屋で生活しようと考えたのだが、妻が事前に警告したとおり、さっぱり売れずに大赤字になってしまい、すぐに廃業してしまった。
(島田の作る汁粉とかは、他の新選組隊士が食べられないレベルの大甘だったので、材料費はかさむわ、客は1回来たらもう来なくなるわで、島田本人は全く自覚が無かったのだが、要するに売り物になるものではなかったのだ)
 次に思いついたのは、剣道場をやることであったが、幕末の頃と違って、今や剣の時代ではない。
 何とか食えないことは無いという稼ぎが精一杯で、妻の内職の稼ぎもあって、島田は、何とか生計を立てているのが現実だった。

 そういった島田の血が久々に騒いだのが、今年(1874年)5月に載った新聞のとある記事だった。
 道場生が、「新選組、長崎にて復活」という題が躍る新聞を、道場主である島田に見せたのだ。
 島田は食い入るようにその記事を読んだ。
 あの土方副長が、北海道の屯田兵村長として生きておられたとは知らなかった。

 自分も、台湾にその屯田兵、新選組の一員として参加せねば、と島田は、すぐに思い立って、思いつく限りの方々に掛け合った。
 だが、その返事が届く前に、屯田兵を含む海兵隊は先日、台湾に出発した、という新聞記事が出てしまい、これはダメか、と島田は落胆することになった。
 実際、返事すら来ない掛け合い先すらある有様だったし、海兵局からは、この度は義勇兵の参加は認めていない、という鄭重ではあるが型通りの返事が、島田の下には来た。

 それからは、台湾での新選組の活動が気になって、道場生に片端から集められる限りの台湾での新選組の活動が載った新聞を、島田は集めさせた。
 台湾に上陸した後、新選組は海兵隊の一員として順調に進軍し、台湾の部族を無事に撃滅したようだった。
 勝ち戦はやはり気分がいい、とこの頃は喜んでいたのだが、その後の新聞記事は、島田の機嫌を悪くさせるものばかりだった。

 日本軍を兵力では圧倒している陸海軍を、台湾に清国が派遣したとか。
 台湾に派遣された陸軍の鎮台兵や海兵隊員(要するに新選組も)は、現地で悪性のマラリアに多くが感染し、生死の境をさまよう者も何人も出ている、既に何人かは亡くなったとか。
 そんな新聞記事が、流れ出したのだ。

 兵士にとって銃撃されて死ぬとか、敵の刃にかかって死ぬとかいうのなら、まだ救いがある、
 しかし、異郷の地で、病にかかり、高熱の果てに苦しんで死ぬ、そんな死は全く無意味だ、と島田は思ったし、周りもそう言って、台湾出兵の評判は急激に悪化した。
 
 そして、とうとう土方中隊長が、マラリアで危篤に陥ったが、何とか命を取り留めた、という記事が流れた。
 その記事を読んだ際、島田は思わず嗚咽しながら想った。
 土方副長、どうか、台湾から、早くご無事にお帰りください。
 そして、思ってはならないことかもしれませんが、もし、今度があったならば、その時は私を新生新選組の一員として、すぐに呼んでください。
 島田はそう念じた。

 それは、必ずしも島田だけの想いでは無かった。
 かつての新選組の仲間たち、永倉新八や斎藤一といった面々らにも、こういった新聞記事を読むにつけ、更にその話が耳に入る度、一朝事があり、新選組の旗が、また掲げられたならば、自分はどうするだろう、という想い等に奔らせたのだ。
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