土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

文字の大きさ
上 下
27 / 120
第3章 新選組の旗の再生と台湾出兵

第7話

しおりを挟む
 土方歳三の高熱がようやく収まり、現実に対する見当識が完全に戻るのには、倒れてから10日ほどが掛かった。
 その間、土方は半分幻想の中にいたと言ってもよかった。
 衛生兵等に、苦いキニーネを半強制的に飲まされて、それによる頭痛や吐き気、発疹等の副作用にも苦しめられ、いっそ、生きるよりも死んだ方が楽ではないか、近藤さんの遺言通りだ、とまで土方自身、思いつめるほどだった。

 高熱がようやく収まった今朝、土方の問診に来たのは、本来の軍医ではなく、古屋佐久左衛門だった。
「どうして、古屋さんが?」
「俺に医術の心得がないと思ったのか?
 俺は元々は医師だ。
 それに、あのヘボン医師にも直接指導を受けている。
 俺ほどの医術の心得がある医師は、日本国内でも数少ないレベルだ」

 そう胸を張りながら、土方に言う古屋の声を聞きつけた高松凌雲が言った。
「本当は頼みたくなかったのだがな。
 医師も今は5名が病臥中だ。
 残っている医師では、とても患者の面倒を見きれんのだ。
 だから、泣く泣くな」

「こういうときは、弟として兄を頼るべきだろう」
「俺が心配しているのは、患者の方だ。
 10年以上、実地に患者を診ていない医師を、こんな地獄のような現場に送り込んで役に立つものか」
「兄を侮辱するのか」
「大体、ヘボン医師に学んだのは、英語だけではなかったか?」
「ちゃんと医術も学んだぞ。
 何だ、その兄を疑うような眼は」
「そういうことにしとくよ。
 余り患者を不安にさせる訳にはいかんしな。
 大勢の患者が待っているんだ。
 お互いに全力を尽くさないとな」

 その兄弟間の半ば口喧嘩を聞いた土方は、苦笑いをせざるを得なかった。

 古屋は、土方に尋ねた。
「今、どこにいるか、明確に答えられるか」
「台湾に決まっているだろう」
「よかった。
 昨日は、半ば意味不明の応答をする有様だったからな。
 見当識は、かなり回復している。
 かなりよくなっているとみてよさそうだ」

 土方は、昨日も古屋が診察に来たのか。
 それが、自分は分からなかったのか。
 そんなに酷い病状だったのか、と背筋が冷たくなった。

「今の海兵隊の現状を教えてもらえますか」
「海兵隊全体の3割いや4割近くがマラリアにやられている。
 延べ人数にすると全体の6割といったところか。
 治った筈なのに、また、発症する者まで出だした。
 ここのマラリアは、我々が知っている三日熱マラリア等ではなく、熱帯熱マラリアという悪性のものだ。
 だから、発症した場合、死亡率も極めて高い。
 我々が持参していた特効薬のキニーネの残量も、気になるレベルまで減少したので、補給を至急要請している。
 マラリアにり患した者の熱を下げるために、製氷機5台を全力で稼働させているが、とても追いつかず、意識不明の重症患者に優先配布している有様だ。
 このままいくと、海兵隊はマラリアのために台湾で全滅しかねん」
 土方の問いかけに、古屋は、そう首をすくめながら言い、土方の背筋は、もっと冷たくなった。

「それほど酷い状況なのですか、冗談だと言ってください、本当に冗談でしょう」
「こんな冗談が言えるものか、現実に決まっているだろうが。
 だがな、陸軍の方が、もっと我々よりも酷いらしい。
 陸軍が情報を隠そうとしがちなので、正確なところは分からないが、西郷従道中将までマラリアで倒れたという噂まで流れている惨状だ。
 実際、滝川充太郎大尉を西郷中将と相談させるために昨日、陸軍の駐屯所に一度行かせたが、理由も言われずに、西郷中将への面会を拒否されてしまった」
 古屋は、思案投げ首といった有様で、土方に言った。

「一刻も早く、ここ台湾から帰国しないと、かなりまずいのでは」
「全くだ、東京は何をしている」
 古屋は土方とやり取りをした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。

SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。 伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。 そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。 さて、この先の少年の運命やいかに? 剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます! *この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから! *この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

処理中です...