土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第3章 新選組の旗の再生と台湾出兵

第4話

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 滝川充太郎大尉は指揮下の第2海兵中隊に号令を下した。
「各個に狙いを定めて撃て」

 滝川の指揮下にある第2海兵中隊の兵は、事前に斥候の報告を受けた滝川の命令により、既に散開しており、弓や槍で武装した台湾の敵性勢力(敵兵と呼ぶべきかもしれないが統制のとれていないことおびただしい敵の現状からは兵とはとても呼べない)に対して、それぞれが射撃を開始した。
 海兵隊の主力装備であるシャスポー銃は有効射程1000メートルを超える優秀な銃であり、200メートル以下に身を隠していない敵が接近していては、その敵は射的の的に等しい。
 あっという間に敵性勢力は多数の死傷者を残して敗走していった。
 さて、ここからが真の問題だな、と滝川大尉はひとりごちた。

 幾ら大久保利通や西郷従道らが征台論を呼号しても、ものには限度というものがある。
 征台論は実際問題として、政府の一部の首脳(主に長州系)からは征韓論はダメで征台論はいい、というのは筋が通らない、として批判されており、木戸孝允に至っては、抗議のために参議を辞任していた。

 だが、西郷は、既成事実を作れば政府は追認せざるを得ないと言って、強引に鎮台兵1個大隊と海兵隊1個大隊を輸送船に乗せて、台湾に向けて出航しようとした。
 古屋佐久左衛門少佐を中心とする長崎駐屯の海兵隊は、政府からの正式な命令が出ないと、台湾へは出航できないと表向きは難色を示し続けたが。

 西郷が
「オイの命令に従えんというか、大久保さんらの内諾は得てある」
 とまで怒号し出したので、内心では舌を出して、台湾への出航にようやく賛同した。
 更に事の経緯を細かに記し、西郷にこの経緯に間違いはない旨の署名までさせて、東京の陸軍省の山県有朋らにまで送っておいた。
 ここまでしておけば、台湾出兵が後々、政治的な問題になっても、海兵隊自身は泥を被らずに済むはずである。
 だが、もう一つの厄介な問題が海兵隊には控えていた。

 台湾南部の港に日本軍が上陸して駐屯地の設営を完了し、進撃を開始してから10日余りで、台湾出兵の原因になった牡丹社在住の部族は海兵隊と鎮台兵の分進合撃を生かした急進撃を阻止しきれずに奥地へと逃亡してしまった。
 彼らに味方していた部族の集落に対しても、日本軍は武威を示して恭順するように恫喝し、それでも抵抗する部族に対しては容赦なく冒頭のような攻撃を加えていった。
 正直に言って、全てを合わせても、実質は1か月もかからずに、台湾出兵の本来の目的である台湾の部族に対する懲罰は達せられた、と言っていい。

 だが、西郷らは、これを好機として、台湾に不平士族を移住させて政府に対する批判を抑えようと考えていて、台湾の一部の土地を入手しようと画策しだしていた。
 そのためには、日本軍による台湾占領の既成事実が必要である。
 そのために、占領地の確保を、西郷らは画策し、日本軍は分散せざるを得なくなった。

 その程度は、西郷らの行動として海兵隊も予測はしている。
 だが、その結果、もたらされるものが、大問題だった。
 海兵隊としては、できる限りの対策を講じられる限りは、事前に講じてきたつもりだった。
 だが、荒井郁之助や大鳥圭介ら海兵隊首脳部は、事前に完全に避けることは不可能であり、被害をできる限り軽減するしかない、と覚悟を固めていた。

 また、そのことは古屋や滝川といった台湾に派遣される海兵隊士官らには、台湾への派兵決断時に内々には伝えられており、土方歳三らにもそのことは長崎で伝えられていた。
 従って、古屋や滝川、土方らも予測はしていて覚悟も固めていた。
 だが、その実際の猛威は、彼らの予想を遥かに超えていた。
 それは、台湾にはびこるマラリア等の猛威だった。 
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