23 / 120
第3章 新選組の旗の再生と台湾出兵
第3話
しおりを挟む
長崎に到着した土方歳三は、目の前の状況に、苦笑いをせざるを得なかった。
確かに自分が中隊長である以上、中隊において中隊員がとった行動について、全責任を負うべき立場ではある。
だが、小隊長全員が結託して中隊長の自分に秘密裏に行った行動について、自分が責任を取れと言われても、というのが本音だった。
それに自分自身、小隊長たちが取った行動について嬉しく思いこそすれ、叱る気にはとてもなれなかった。
小樽港から長崎港へ輸送船で運ばれた第一屯田兵中隊は、中隊長である土方を先頭にして、長崎港から長崎近郊に臨時に設けられた駐屯地へと行進した。
土方はその先頭を常に進んでいて、ほとんど後ろを振り向かなかったので、駐屯地にたどり着くまで気づかなかったのだが、最後尾では新選組のかつてのあの旗、誠の一字を入れた旗が旗手によって掲げられて、第一屯田兵中隊は長崎の街を行進したのだった。
駐屯地の入り口で土方が隊員を出迎えていると、その旗が目に入ってきたので土方は仰天する羽目になった。
何故、あの旗がここにある、と周囲に聞くと、周囲の者は口々に答えた。
実は、小隊長全員に、我々は口止めされていました。
土方中隊長と共に、皆で屯田兵村の開拓に勤しむうちに、自分たち屯田兵村、屯田兵中隊の象徴を作ろう、という話になりました。
それで何がいい、という話になり、ここには土方中隊長がおられる以上、新選組のあの旗を作ろう、という話に決まりました。
それで、村で最初に収穫できた亜麻を提供して、リンネル布の旗を作ってもらい、更に亜麻の一部は金に換えて、そのお金で小樽の染物屋で旗を染めてもらい、ようやく作ったのです。
土方中隊長を驚かせよう、と小隊長全員が相談し、各分隊長や各班長の多くも賛同して作成しました。
この件について、土方自身は悪い気はしなかったが、周囲にどんな影響を及ぼすのかが心配だった。
下手をすると大問題になりかねない気がしたのだ。
だが、長崎の海兵隊内部は、特に問題視するどころか、むしろ好意的な反応が多く、土方は拍子抜けした。
海兵隊大隊長を務める古屋佐久左衛門は、
「第一屯田兵中隊は新選組だったのか、その名にふさわしい活躍をしてくれ」
の一言で済ませてしまった。
海兵隊第2中隊長を務める滝川充太郎に至っては、
「新選組が編制されたのなら、伝習隊や衝鋒隊も編制したいな。
第1中隊が伝習隊、我々第2中隊が衝鋒隊といったところか、その名にふさわしい活躍をせねば」
と悪乗り寸前の言動をする有様だった。
「本当にいいのですか」
と土方の方がむしろ心配したが、古屋や滝川、更に他の海兵隊士官の多くが。
「構わん、構わん」
と言って済ませた。
気の乗らない台湾出兵を、我々がせねばならない以上、これくらいの悪戯くらいはさせろ、というのが、長崎にいる海兵隊士官の大方の意見だったのだ。
ちなみに、この新選組の旗の件は、長崎の新聞に載ったことを発端に、日本各地に広く知られることになった。
そして、薩長を中心とした政府首脳陣の一部が、この件で激怒した。
その怒りを宥めようと、荒井郁之助や大鳥圭介、しまいには榎本武揚や勝海舟らまでもが、彼らを懸命になだめたり、すかしたりして、ようやく話は収まることになったのだが、それはまた別で語るべきだろう。
また。
後で述べるが、この新選組の旗の一件は、日本各地に広まることで、かつての新選組の仲間らに、土方が屯田兵村の村長として健在であることを知らせた。
そして、彼らに、事があれば、新選組の旗の下に集いたいものだ、という想いを、予めさせたのだ。
話が先走るが、西南戦争時、これが、かつての新選組の仲間が競うように集った一因になった。
確かに自分が中隊長である以上、中隊において中隊員がとった行動について、全責任を負うべき立場ではある。
だが、小隊長全員が結託して中隊長の自分に秘密裏に行った行動について、自分が責任を取れと言われても、というのが本音だった。
それに自分自身、小隊長たちが取った行動について嬉しく思いこそすれ、叱る気にはとてもなれなかった。
小樽港から長崎港へ輸送船で運ばれた第一屯田兵中隊は、中隊長である土方を先頭にして、長崎港から長崎近郊に臨時に設けられた駐屯地へと行進した。
土方はその先頭を常に進んでいて、ほとんど後ろを振り向かなかったので、駐屯地にたどり着くまで気づかなかったのだが、最後尾では新選組のかつてのあの旗、誠の一字を入れた旗が旗手によって掲げられて、第一屯田兵中隊は長崎の街を行進したのだった。
駐屯地の入り口で土方が隊員を出迎えていると、その旗が目に入ってきたので土方は仰天する羽目になった。
何故、あの旗がここにある、と周囲に聞くと、周囲の者は口々に答えた。
実は、小隊長全員に、我々は口止めされていました。
土方中隊長と共に、皆で屯田兵村の開拓に勤しむうちに、自分たち屯田兵村、屯田兵中隊の象徴を作ろう、という話になりました。
それで何がいい、という話になり、ここには土方中隊長がおられる以上、新選組のあの旗を作ろう、という話に決まりました。
それで、村で最初に収穫できた亜麻を提供して、リンネル布の旗を作ってもらい、更に亜麻の一部は金に換えて、そのお金で小樽の染物屋で旗を染めてもらい、ようやく作ったのです。
土方中隊長を驚かせよう、と小隊長全員が相談し、各分隊長や各班長の多くも賛同して作成しました。
この件について、土方自身は悪い気はしなかったが、周囲にどんな影響を及ぼすのかが心配だった。
下手をすると大問題になりかねない気がしたのだ。
だが、長崎の海兵隊内部は、特に問題視するどころか、むしろ好意的な反応が多く、土方は拍子抜けした。
海兵隊大隊長を務める古屋佐久左衛門は、
「第一屯田兵中隊は新選組だったのか、その名にふさわしい活躍をしてくれ」
の一言で済ませてしまった。
海兵隊第2中隊長を務める滝川充太郎に至っては、
「新選組が編制されたのなら、伝習隊や衝鋒隊も編制したいな。
第1中隊が伝習隊、我々第2中隊が衝鋒隊といったところか、その名にふさわしい活躍をせねば」
と悪乗り寸前の言動をする有様だった。
「本当にいいのですか」
と土方の方がむしろ心配したが、古屋や滝川、更に他の海兵隊士官の多くが。
「構わん、構わん」
と言って済ませた。
気の乗らない台湾出兵を、我々がせねばならない以上、これくらいの悪戯くらいはさせろ、というのが、長崎にいる海兵隊士官の大方の意見だったのだ。
ちなみに、この新選組の旗の件は、長崎の新聞に載ったことを発端に、日本各地に広く知られることになった。
そして、薩長を中心とした政府首脳陣の一部が、この件で激怒した。
その怒りを宥めようと、荒井郁之助や大鳥圭介、しまいには榎本武揚や勝海舟らまでもが、彼らを懸命になだめたり、すかしたりして、ようやく話は収まることになったのだが、それはまた別で語るべきだろう。
また。
後で述べるが、この新選組の旗の一件は、日本各地に広まることで、かつての新選組の仲間らに、土方が屯田兵村の村長として健在であることを知らせた。
そして、彼らに、事があれば、新選組の旗の下に集いたいものだ、という想いを、予めさせたのだ。
話が先走るが、西南戦争時、これが、かつての新選組の仲間が競うように集った一因になった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
1333
干支ピリカ
歴史・時代
鎌倉幕府末期のエンターテイメントです。
(現在の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』から、100年ちょい後の話です)
鎌倉や京都が舞台となります。心躍る激しい合戦や、ぞくぞくするようなオドロオドロしい話を目指そうと思いましたが、結局政治や謀略の話が多くなりました。
主役は足利尊氏の弟、直義です。エキセントリックな兄と、サイケデリックな執事に振り回される、苦労性のイケメンです。
ご興味を持たれた方は是非どうぞ!

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。

【架空戦記】蒲生の忠
糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。
明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。
その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。
両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。
一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。
だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。
かくなる上は、戦うより他に道はなし。
信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。

日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる