19 / 120
第2章 海兵隊の整備
第4話
しおりを挟む
大鳥圭介は海兵隊に入隊して以来、ずっと多忙だった。
海兵隊の組織を、いざという場合に、実戦に耐えうるものにし、装備を整え、教育を施していかねばならない。
荒井郁之助は、榎本武揚が海軍を退いた後は、海軍において旧幕府系出身者の筆頭的立場にあり、海兵隊を庇護してきていた。
大鳥は荒井の下で、海兵隊の充実にその手腕をふるっていた。
明治6年初頭現在、大鳥の地位は海軍省海兵局の副局長という役職にあった。
荒井が局長で対外的な折衝を引き受けており、大鳥が海兵隊内部のことを取り仕切っているという現状があった。
ダグラス少佐を団長とするイギリス海軍顧問団がようやく来日することが決定して、その指導を受けて海兵隊の組織をより充実させることがようやくできそうな一方、英仏に派遣した留学生は対照的な状況を引き起こしていた。
イギリスのダートマス海軍兵学校に入った北白川宮殿下は、皇族ということもあり、勉学よりも、イギリス王室関係者や貴族との関係を築くことに、傾きつつあるらしかった。
大鳥が、北白川宮殿下に対して、もう少し勉学に励むように書簡を送るべきだろうか、と悩むレベルだった。
それに対し、フランスのサン・シール陸軍士官学校に入った林忠崇少尉は、逆に勉学に精励しすぎているのではないか、とブリュネ少佐等に心配をかけている有様らしかった。
林の成績は極めて優秀であり、運輸通信等を含む工兵全般を、海兵隊の将来を見据えて、林に学ばせるためにフォンテンブロー砲工学校に更に進学させてはどうか、という書簡がブリュネ少佐等から、大鳥には届いており、林本人からも、そうしたいという書簡が届く有様で、大鳥はそれを認めるつもりだった。
その一方、海兵隊の組織の現況は極めて微妙な状況になっていた。
現在、実戦に投入できる常設の海兵中隊は2個に過ぎず、残りの海兵は分隊単位で各軍艦等に配属されていた。
後、軍楽隊と砲兵中隊1個(四斤山砲6門を装備)が、部隊として存在はしていた。
いざというときは、各軍艦等に配属されている海兵分隊を取りまとめて、更に2個海兵中隊を編成することが可能であり、実際にその予定ではあった。
だが、それでも全部を合計しても増強独立大隊1個程度の戦力であり、例えば、本来なら海兵隊のために必要な教育機関の1つである海兵士官学校は、経費削減のためもあって海軍兵学校と統合されている有様だった。
(アメリカでもやっていることだから、むしろ当然のことかもしれないが)
海軍で主流を占める薩摩出身者等の間では、海兵隊を常設することは無いという意見(海兵隊の金を、軍艦整備等に回せということ)が強いうえに、戦力としては少なすぎるというのも、大鳥にとっては、心配の種だった。、
大鳥は予算面等の現状にかんがみると、海兵隊のこれ以上の通常時の戦力増は無理と考えていた。
むしろ戦時に、海兵隊の戦力を、急速に強化することを考えるべきだった。
大鳥には一案があった。
それは、北海道の開拓に合わせて、徐々に増えつつある屯田兵中隊を、戦時に海兵中隊にしてしまうことだった。
荒井局長に相談しよう、終に大鳥は決断したが。
そのための方策となると。
実際問題として、徳川家の陰の護衛として、榎本武揚らが、密かに考えていた海兵隊と屯田兵を整備増強する、という考えが、徳川家がそれなりに存続しそうな以上、無意味と化しつつあった。
だから、組織維持に奔らざるを得ない、と大鳥自身が考えざるを得なかった。
だが、その一方で。
皮肉なことに、維新の元勲を輩出している薩長土肥の地元において、不満が横溢しているという情報が、大鳥らの下にも入っている。
大鳥は、それを悪用しようとも考えた。
海兵隊の組織を、いざという場合に、実戦に耐えうるものにし、装備を整え、教育を施していかねばならない。
荒井郁之助は、榎本武揚が海軍を退いた後は、海軍において旧幕府系出身者の筆頭的立場にあり、海兵隊を庇護してきていた。
大鳥は荒井の下で、海兵隊の充実にその手腕をふるっていた。
明治6年初頭現在、大鳥の地位は海軍省海兵局の副局長という役職にあった。
荒井が局長で対外的な折衝を引き受けており、大鳥が海兵隊内部のことを取り仕切っているという現状があった。
ダグラス少佐を団長とするイギリス海軍顧問団がようやく来日することが決定して、その指導を受けて海兵隊の組織をより充実させることがようやくできそうな一方、英仏に派遣した留学生は対照的な状況を引き起こしていた。
イギリスのダートマス海軍兵学校に入った北白川宮殿下は、皇族ということもあり、勉学よりも、イギリス王室関係者や貴族との関係を築くことに、傾きつつあるらしかった。
大鳥が、北白川宮殿下に対して、もう少し勉学に励むように書簡を送るべきだろうか、と悩むレベルだった。
それに対し、フランスのサン・シール陸軍士官学校に入った林忠崇少尉は、逆に勉学に精励しすぎているのではないか、とブリュネ少佐等に心配をかけている有様らしかった。
林の成績は極めて優秀であり、運輸通信等を含む工兵全般を、海兵隊の将来を見据えて、林に学ばせるためにフォンテンブロー砲工学校に更に進学させてはどうか、という書簡がブリュネ少佐等から、大鳥には届いており、林本人からも、そうしたいという書簡が届く有様で、大鳥はそれを認めるつもりだった。
その一方、海兵隊の組織の現況は極めて微妙な状況になっていた。
現在、実戦に投入できる常設の海兵中隊は2個に過ぎず、残りの海兵は分隊単位で各軍艦等に配属されていた。
後、軍楽隊と砲兵中隊1個(四斤山砲6門を装備)が、部隊として存在はしていた。
いざというときは、各軍艦等に配属されている海兵分隊を取りまとめて、更に2個海兵中隊を編成することが可能であり、実際にその予定ではあった。
だが、それでも全部を合計しても増強独立大隊1個程度の戦力であり、例えば、本来なら海兵隊のために必要な教育機関の1つである海兵士官学校は、経費削減のためもあって海軍兵学校と統合されている有様だった。
(アメリカでもやっていることだから、むしろ当然のことかもしれないが)
海軍で主流を占める薩摩出身者等の間では、海兵隊を常設することは無いという意見(海兵隊の金を、軍艦整備等に回せということ)が強いうえに、戦力としては少なすぎるというのも、大鳥にとっては、心配の種だった。、
大鳥は予算面等の現状にかんがみると、海兵隊のこれ以上の通常時の戦力増は無理と考えていた。
むしろ戦時に、海兵隊の戦力を、急速に強化することを考えるべきだった。
大鳥には一案があった。
それは、北海道の開拓に合わせて、徐々に増えつつある屯田兵中隊を、戦時に海兵中隊にしてしまうことだった。
荒井局長に相談しよう、終に大鳥は決断したが。
そのための方策となると。
実際問題として、徳川家の陰の護衛として、榎本武揚らが、密かに考えていた海兵隊と屯田兵を整備増強する、という考えが、徳川家がそれなりに存続しそうな以上、無意味と化しつつあった。
だから、組織維持に奔らざるを得ない、と大鳥自身が考えざるを得なかった。
だが、その一方で。
皮肉なことに、維新の元勲を輩出している薩長土肥の地元において、不満が横溢しているという情報が、大鳥らの下にも入っている。
大鳥は、それを悪用しようとも考えた。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。
SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。
伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。
そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。
さて、この先の少年の運命やいかに?
剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます!
*この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから!
*この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる