土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

文字の大きさ
上 下
17 / 120
第2章 海兵隊の整備

第2話

しおりを挟む
 林忠崇海軍少尉は、大鳥圭介海軍少佐からの急な呼び出しに戸惑った。
 一体、何事だろうか。

 とるものもとりあえず、林少尉は大鳥少佐の執務室に赴いた。
 大鳥少佐は林少尉の顔を見るなり、開口一番に言った。
「フランスに留学を命ずる」
 林少尉は、想像もしていなかったことに、即答できなかった。

 林少尉の運命も明治維新に翻弄されたものだった。
 本来ならわずか1万石という小なりとはいえ、れっきとした譜代大名家の当主だった。
 それもただの譜代大名ではない。

 林家は徳川家、いや松平家草創期からの家臣として重んじられてきた家柄だった。
 家康が将軍になってからも、徳川御三家より先に、時の将軍から林家の当主は、正月の初めの盃を与えられ、兎の吸い物を共に食して祝う、という幕府年中行事の筆頭を飾る行事の光栄に代々浴してきた名家であった。

 一時、当主が失明したこと等により、旗本格とされたが、その後も忠勤をはげみ、また大名として復活していた。
 そして、徳川家に代々こうむった厚恩に報いるために、林忠崇は戊辰戦争に際し、脱藩して一介の浪人として遊撃隊に参加して奮戦したのだった。
 しかし、武運拙く仙台にて新政府軍に降伏することになった。
 その後、牢暮らしは免れたものの、藩は戊辰戦争で唯一の滅藩処分という厳罰を受け、自らは親戚の小笠原家に永預かりという処分になった。

 だが、牢暮らしを免れたのが、却って悪かったのかもしれない。
 旧幕府諸隊の幹部、大鳥や土方歳三、古屋佐久左衛門らでさえ、明治3年中には牢から全員釈放されたのだが、林だけは明治5年1月まで処分が解けなかったのである。
 処分が解けたものの、早速、林は食うに困ってしまった。
 何しろ林が本来いた藩は、もうないのである。
 そこで、方々に働き口はないか、と林が声をかけたところ、何とか海兵隊の少尉として、林は働くことができることになったという身の上であった。

「フランスですか」
「そうだ。フランス政府の了解はすでに得ている。
 また、ブリュネ大尉、いや今は少佐に昇進されていたかな、に私から個人的に世話を依頼してある。
 また、この話を聞きつけたシャノワーヌ少佐も協力してくれるとのことだ。
 だから、安心してフランスの士官学校に入学して、勉学に励んできてほしい」
 林の問いかけに、大鳥は答えた。

「なぜ、私が行くことに」
「君が優秀な人材だということは、幕府が健在な頃から知られていたからな。
 将来は、若年寄どころか老中でも務まる、と10代で評価されていたとは大したものだ。
 私も旧幕臣の端くれとして、そのことは聞いている。
 戊辰戦争でも慶喜公に最後まで尽くした大名の1人でもある。
 海兵隊での勤務はまだ短いが、勤務に精励していることはよくわかる。
 フランスに留学して、将来の海兵隊を造るのに尽力してくれ。
 言っておくが、留学しているのは君だけではない。
 去年は北白川宮殿下、君にとっては、輪王寺宮殿下といった方が分かりやすいか、もイギリスのダートマス海軍兵学校に留学している」

 大鳥は、林に丁寧に事情を説明した。
 その言葉を聞いている内に、林は大鳥の厚意に、自然と涙が溢れるのを覚えた。
 大鳥の厚意に応え、自分は海兵隊を立派な組織にしてみせる。
 林は、そう決意をした。 

「分かりました。
 フランスで勉学に励んできます。
 それにしても、元大名の私がフランス留学ですか。
 いわゆる鎖国していた時から、僅か20年ほどでこんな時代になるとは。
 時代が動くのが、本当に早すぎますね。」
「それを言うならば、こんなに早く皇族が海外に行く時代が来るとは、鎖国していたあの頃、私も思わなかったな」
 林と大鳥は、お互いに思わず、過去の事を想い出して、感慨にふけりあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

1333

干支ピリカ
歴史・時代
 鎌倉幕府末期のエンターテイメントです。 (現在の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』から、100年ちょい後の話です)  鎌倉や京都が舞台となります。心躍る激しい合戦や、ぞくぞくするようなオドロオドロしい話を目指そうと思いましたが、結局政治や謀略の話が多くなりました。  主役は足利尊氏の弟、直義です。エキセントリックな兄と、サイケデリックな執事に振り回される、苦労性のイケメンです。  ご興味を持たれた方は是非どうぞ!

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

【架空戦記】蒲生の忠

糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。 明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。 その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。 両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。 一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。 だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。 かくなる上は、戦うより他に道はなし。 信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

処理中です...