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第1章 土方歳三、北の大地へ
第13話
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明治3年1月のある日、土方歳三は、思わず叫ぶ羽目になっていた。
「誰と結婚して行くのか、だと」
土方の目の前にいる荒井郁之助は、土方は何を言っているのだ、という表情を思わず浮かべながら言った。
「屯田兵になりたい、というから、当然、結婚して行くのだと思ったのだが」
少しこの情景からさかのぼる。
土方は、明治2年末に、牢生活から無事に釈放された。
牢生活は、土方の事前の想像より楽で、更に思ったより短くて済んだ。
実家からの差し入れもあったし、榎本武揚や勝海舟からの働き掛けがあったためだった。
明治3年の正月を、土方は、実家で過ごした。
その際に父代わりの長兄から言われたのが、速やかに許婚と結婚しろということだった。
新選組に入る前からいる許婚なのだが、ずるずると引き延ばしてしまったために、土方自身はとっくに破談にされたと思っていたが、許婚の方が土方を待ちます、と言っていたために、未だに許婚のままになっていたのだ。
土方は長兄の言葉に対し、返答を濁した。
土方自身に、思うところがあったからだ。
海兵隊の将来の指揮官として、土方は荒井から目をつけられていた。
荒井は牢中の土方に対して、牢から釈放された暁には海兵隊で働いてほしい、と手紙を何回か送っていた。
しかし、土方としては、海兵隊で働くよりも蝦夷地という新天地で一旗あげたいという思いがあり、荒井の誘いを謝絶して屯田兵の一員となりたい旨を、明治3年の1月に荒井に伝えに来たのだった。
荒井は慰留したが、土方の考えが固いことから、これ以上の説得を断念して、屯田兵の一員に紹介する旨を承諾したのだが。
その直後に荒井が、
「土方も結婚して行くのか、誰とするのだ」
と言ったことから、冒頭の情景に至ったのだった。
荒井は、土方に誤解があるらしいことに気付いた。
「屯田兵が一戸当たり、どれほどの農地が与えられると思っているのだ」
「一町歩といったところだろう。それくらい自分1人で何とかなる」
「知らなかったのか。5町歩だ。
だから、屯田兵に志願する者は妻同伴どころか、親兄弟まで連れて行くのが当たり前だ」
「何だと」
「蝦夷地で屯田兵村を設置しようとしているところは、寒すぎて今のところは米が取れないんだ。
だから、芋や麦、蕎麦を栽培すると共に、養蚕や亜麻栽培等で収入を得させようと榎本さんは四苦八苦している。
これだけ広いと牛馬で田畑を耕さないとやっていけないしな。
だから、結婚して行くのは当然のことなのだが」
「そんなところだったのか」
「どうする、今なら、まだ海兵隊の仕事を斡旋できるぞ」
荒井は何とも誘うような口調で話した。
土方は答えた。
「こうなったら意地だ。
俺は屯田兵として蝦夷地に行くぞ。
許婚も実は俺にはいるしな。
蝦夷地に連れて行くのは気の毒だと思っていたのだが、何としても一緒に行きたくなった」
「全く意地っ張りな奴だ」
土方の言葉に、荒井は感心したような口調で答えた。
「それなら、屯田兵村の村長職を、お前に斡旋してやろう。
本来、屯田兵は、将来を考えて、主に20歳前後を募集する予定だった。
だから、お前は実は年齢的には無理がある。
だが、村長としてなら問題ないだろう。
むしろ、屯田兵の指導者として、お前は適任だ。
実戦経験もあるし、いざという時、お前なら、率先して兵を率いれるだろうからな。」
「その言葉に、心から感謝してやる」
荒井の言葉の裏に、自分に対する暖かみを感じた土方は、道化て答えながら想った。
許婚は、自分に付いてきてくれるだろうか。
売り言葉に買い言葉で言ってしまったが、そんな所には付いていきません、と言われるかもしれないな。
もし、付いてきてくれたら、自分には過ぎたる女房殿だな。
「誰と結婚して行くのか、だと」
土方の目の前にいる荒井郁之助は、土方は何を言っているのだ、という表情を思わず浮かべながら言った。
「屯田兵になりたい、というから、当然、結婚して行くのだと思ったのだが」
少しこの情景からさかのぼる。
土方は、明治2年末に、牢生活から無事に釈放された。
牢生活は、土方の事前の想像より楽で、更に思ったより短くて済んだ。
実家からの差し入れもあったし、榎本武揚や勝海舟からの働き掛けがあったためだった。
明治3年の正月を、土方は、実家で過ごした。
その際に父代わりの長兄から言われたのが、速やかに許婚と結婚しろということだった。
新選組に入る前からいる許婚なのだが、ずるずると引き延ばしてしまったために、土方自身はとっくに破談にされたと思っていたが、許婚の方が土方を待ちます、と言っていたために、未だに許婚のままになっていたのだ。
土方は長兄の言葉に対し、返答を濁した。
土方自身に、思うところがあったからだ。
海兵隊の将来の指揮官として、土方は荒井から目をつけられていた。
荒井は牢中の土方に対して、牢から釈放された暁には海兵隊で働いてほしい、と手紙を何回か送っていた。
しかし、土方としては、海兵隊で働くよりも蝦夷地という新天地で一旗あげたいという思いがあり、荒井の誘いを謝絶して屯田兵の一員となりたい旨を、明治3年の1月に荒井に伝えに来たのだった。
荒井は慰留したが、土方の考えが固いことから、これ以上の説得を断念して、屯田兵の一員に紹介する旨を承諾したのだが。
その直後に荒井が、
「土方も結婚して行くのか、誰とするのだ」
と言ったことから、冒頭の情景に至ったのだった。
荒井は、土方に誤解があるらしいことに気付いた。
「屯田兵が一戸当たり、どれほどの農地が与えられると思っているのだ」
「一町歩といったところだろう。それくらい自分1人で何とかなる」
「知らなかったのか。5町歩だ。
だから、屯田兵に志願する者は妻同伴どころか、親兄弟まで連れて行くのが当たり前だ」
「何だと」
「蝦夷地で屯田兵村を設置しようとしているところは、寒すぎて今のところは米が取れないんだ。
だから、芋や麦、蕎麦を栽培すると共に、養蚕や亜麻栽培等で収入を得させようと榎本さんは四苦八苦している。
これだけ広いと牛馬で田畑を耕さないとやっていけないしな。
だから、結婚して行くのは当然のことなのだが」
「そんなところだったのか」
「どうする、今なら、まだ海兵隊の仕事を斡旋できるぞ」
荒井は何とも誘うような口調で話した。
土方は答えた。
「こうなったら意地だ。
俺は屯田兵として蝦夷地に行くぞ。
許婚も実は俺にはいるしな。
蝦夷地に連れて行くのは気の毒だと思っていたのだが、何としても一緒に行きたくなった」
「全く意地っ張りな奴だ」
土方の言葉に、荒井は感心したような口調で答えた。
「それなら、屯田兵村の村長職を、お前に斡旋してやろう。
本来、屯田兵は、将来を考えて、主に20歳前後を募集する予定だった。
だから、お前は実は年齢的には無理がある。
だが、村長としてなら問題ないだろう。
むしろ、屯田兵の指導者として、お前は適任だ。
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許婚は、自分に付いてきてくれるだろうか。
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もし、付いてきてくれたら、自分には過ぎたる女房殿だな。
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