9 / 120
第1章 土方歳三、北の大地へ
第9話
しおりを挟む
土方歳三は、終わったな、と感慨に耽りつつ歩んでいた。
ブリュネ大尉も、同じ思いをしているようで、感慨に耽っているような表情を浮かべつつ、傍を歩んでいた。
先ほど、最後まで残っていた有力な幕府諸隊の1つである衝鋒隊が、ようやく降伏を決断したのだった。
まだ抗戦している幕府諸隊がいるかもしれないが、少なくとも自分の把握している幕府諸隊は、その全てが降伏を決断した。
俺たち幕府諸隊、徳川家の元家臣を中核とする部隊の戦争は終わった。
衝鋒隊のもとを辞去し、土方とブリュネは仙台に向かっていた。
伝習隊が降伏を決断した後、ブリュネは、すぐさま他の幕府諸隊に対しても降伏するように説得しなければ、と出立しようとしたが。
それを引き留めたのが、大鳥圭介だった。
「いきなり、あなた方が赴いても、知っている人がいなければ説得しようもないでしょう。
それに、我々が降伏したという情報は、すぐに広まります。
その情報が相手に入った段階で、相手を降伏するように説得した方が効果的です。
誰か護衛も兼ねて伝習隊の者を同行させましょう。
また、予め伝習隊から使者が行くことも、連絡しておきましょう。
その方が、説得するのに効果的ではないでしょうか。
それにしても、誰を同行させるのがよいかな」
大鳥の言葉に、土方が口を開いた。
「私でよければ、ブリュネ大尉に同行しますが」
「土方さん、いいのですか」
「私を斬ろうとするのは、そうそういますまい。
大鳥さんには、伝習隊を取りまとめて降伏する大事な役目があります。
私は、伝習隊全体から見れば部外者の身ですが、伝習隊の一員としてよく知られています。
それに、降伏を言い出したのは、私です。
私に同行させてください」
そのような経緯から、土方はブリュネ大尉に同行して、幕府諸隊を説得したのだった。
それにしても、と土方は思った。
衝鋒隊の古屋佐久左衛門さんの説得には難儀したものだ。
私達の話を聞いた後、1人考えさせてほしい、と言って退室した後、いきなり古屋さんのうめき声が聞こえてきた時には驚いたものだ。
幕府の御家人として幕府に殉じたい、ということで、古屋さんは腹を一人で切ったのだが、思ったより刺さっていなかったことや、古屋さんの弟の医師、高松凌雲がたまたま兄を頼って同行していたこともあって、一命を取り留めることに成功したのだった。
古屋さんは、本来は福岡の農家の出身なのだから、幕府に殉じることはなかったものを。
全く尾張藩といい、彦根藩といい、幕府に真っ先に殉じるべき藩が平然と幕府を見限ったことを考えるにつけても、古屋さんの態度は立派なものだ。
血止めに成功して容体が落ち着いた古屋さんを繰り返して、我々が説得したところ、古屋さんは降伏に同意し、衝鋒隊はようやく降伏してくれたのだった。
「土方さん、どうもいろいろありがとうございました。
ようやく全て終わりました。
私はフランス公使館にあらためて出頭して処分を受けようと思います。
多分、フランスに帰国することになるでしょう」
「こちらも、いろいろお世話になりました。
私は仙台に来た薩長軍の司令部に出頭します。
多分、これから私は牢に入る身です」
「土方さんの牢屋生活が、そう長くないことを願っています。
いつか再会した暁には、旧交を温めあいましょう」
「ブリュネ教官の処分が軽いことを、心から私は願っています。
本当に、いつか再会した際には、酒を酌み交わしあいましょう」
ブリュネと土方は、仙台に向かう道すがら、お互いに歩みながら語り合った。
二人は想った。
お互いにまだ若い、きっと今生の別れ、ということにはならないだろう。
いつの日にか、お互いに懐旧談を交わしながら、酒を酌み交わそう。
ブリュネ大尉も、同じ思いをしているようで、感慨に耽っているような表情を浮かべつつ、傍を歩んでいた。
先ほど、最後まで残っていた有力な幕府諸隊の1つである衝鋒隊が、ようやく降伏を決断したのだった。
まだ抗戦している幕府諸隊がいるかもしれないが、少なくとも自分の把握している幕府諸隊は、その全てが降伏を決断した。
俺たち幕府諸隊、徳川家の元家臣を中核とする部隊の戦争は終わった。
衝鋒隊のもとを辞去し、土方とブリュネは仙台に向かっていた。
伝習隊が降伏を決断した後、ブリュネは、すぐさま他の幕府諸隊に対しても降伏するように説得しなければ、と出立しようとしたが。
それを引き留めたのが、大鳥圭介だった。
「いきなり、あなた方が赴いても、知っている人がいなければ説得しようもないでしょう。
それに、我々が降伏したという情報は、すぐに広まります。
その情報が相手に入った段階で、相手を降伏するように説得した方が効果的です。
誰か護衛も兼ねて伝習隊の者を同行させましょう。
また、予め伝習隊から使者が行くことも、連絡しておきましょう。
その方が、説得するのに効果的ではないでしょうか。
それにしても、誰を同行させるのがよいかな」
大鳥の言葉に、土方が口を開いた。
「私でよければ、ブリュネ大尉に同行しますが」
「土方さん、いいのですか」
「私を斬ろうとするのは、そうそういますまい。
大鳥さんには、伝習隊を取りまとめて降伏する大事な役目があります。
私は、伝習隊全体から見れば部外者の身ですが、伝習隊の一員としてよく知られています。
それに、降伏を言い出したのは、私です。
私に同行させてください」
そのような経緯から、土方はブリュネ大尉に同行して、幕府諸隊を説得したのだった。
それにしても、と土方は思った。
衝鋒隊の古屋佐久左衛門さんの説得には難儀したものだ。
私達の話を聞いた後、1人考えさせてほしい、と言って退室した後、いきなり古屋さんのうめき声が聞こえてきた時には驚いたものだ。
幕府の御家人として幕府に殉じたい、ということで、古屋さんは腹を一人で切ったのだが、思ったより刺さっていなかったことや、古屋さんの弟の医師、高松凌雲がたまたま兄を頼って同行していたこともあって、一命を取り留めることに成功したのだった。
古屋さんは、本来は福岡の農家の出身なのだから、幕府に殉じることはなかったものを。
全く尾張藩といい、彦根藩といい、幕府に真っ先に殉じるべき藩が平然と幕府を見限ったことを考えるにつけても、古屋さんの態度は立派なものだ。
血止めに成功して容体が落ち着いた古屋さんを繰り返して、我々が説得したところ、古屋さんは降伏に同意し、衝鋒隊はようやく降伏してくれたのだった。
「土方さん、どうもいろいろありがとうございました。
ようやく全て終わりました。
私はフランス公使館にあらためて出頭して処分を受けようと思います。
多分、フランスに帰国することになるでしょう」
「こちらも、いろいろお世話になりました。
私は仙台に来た薩長軍の司令部に出頭します。
多分、これから私は牢に入る身です」
「土方さんの牢屋生活が、そう長くないことを願っています。
いつか再会した暁には、旧交を温めあいましょう」
「ブリュネ教官の処分が軽いことを、心から私は願っています。
本当に、いつか再会した際には、酒を酌み交わしあいましょう」
ブリュネと土方は、仙台に向かう道すがら、お互いに歩みながら語り合った。
二人は想った。
お互いにまだ若い、きっと今生の別れ、ということにはならないだろう。
いつの日にか、お互いに懐旧談を交わしながら、酒を酌み交わそう。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
1333
干支ピリカ
歴史・時代
鎌倉幕府末期のエンターテイメントです。
(現在の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』から、100年ちょい後の話です)
鎌倉や京都が舞台となります。心躍る激しい合戦や、ぞくぞくするようなオドロオドロしい話を目指そうと思いましたが、結局政治や謀略の話が多くなりました。
主役は足利尊氏の弟、直義です。エキセントリックな兄と、サイケデリックな執事に振り回される、苦労性のイケメンです。
ご興味を持たれた方は是非どうぞ!

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。

【架空戦記】蒲生の忠
糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。
明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。
その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。
両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。
一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。
だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。
かくなる上は、戦うより他に道はなし。
信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。

日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる