土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

文字の大きさ
上 下
7 / 120
第1章 土方歳三、北の大地へ

第7話

しおりを挟む
 土方歳三は、部屋に入ってきたブリュネ大尉にいきなり名指しで呼ばれて驚愕した。
 内心の動揺を押し隠しつつ、ブリュネ大尉が差し出した封筒を受け取り、取るものも取りあえず封筒に入っていた書簡に目を通すことにした。
 書簡の内容は次のようなものだった。

「土方歳三殿、いきなりこのような不躾な書簡を差し上げることをお許し願いたい。
 私、榎本武揚は、新選組の近藤勇局長の遺言を託されたという人から、この相談を受けたことから、この書簡を書くことにした。
 その人は、薩長に投降した近藤局長と共に一時同じ建物、牢の中にいて、その際に近藤局長から遺言を託されたとのことだ。
 何とか土方殿達に、この遺言を伝える方法はないか、とその人から私は相談を受けたことから、この書簡を私は認めることにした。
 近藤局長の薩長への投降、流山での時点では、近藤局長はあくまでも事情を説明するための出頭だと土方殿たちには言っていて、土方殿たちは最後まで反対していたと私は聞いている。
 その際に既に聞いている話かもしれないが、生きるのと死ぬのとでは死ぬ方がたやすい。
 土方達には難しい方を押しつけてしまい、申し訳ないと伝えてくれ、と近藤局長は言っていたとのことだ。
 新選組や甲陽鎮撫隊の行動についての全責任は私が負って死ぬ、土方達には、生きて新選組や甲陽鎮撫隊の真実を伝えると共にその精神を受け継いでほしい、とも言っていたとのことだった。
 近藤局長の遺言は真率の想いから発せられたものだと私も思う。
 どうか、近藤局長の遺言に従って、投降の道を選択してもらえないだろうか」

 土方は、流山での別れの数日前に近藤局長と交わした会話を思い起こした。
 近藤局長は言っていた。

「トシ、生きるのと死ぬのと、どっちがたやすい、とお前は思う」
「生きる方がたやすいのではないですか」
「トシはそう思うのか。
 死ぬのはいつでも死ねる。
 辛い目に遭おうとも生きる方が、死ぬより難しい、と俺は思うぞ」

 近藤局長はこのことを言っていたのか。
 近藤局長の遺言に背いてまで死ぬ決断は自分にはできない。
 自分が投降する以上、皆も投降させるべきだろう。
 いつの間にか浮かんでいた涙を拭いて、土方は立ち上がった。

「皆、よく聞いてくれ。全員降伏しよう」
「いきなり何を言い出す、土方」
「土方さん、あなたは最後まで戦うと言い張ると思っていたが、どうして」
 周囲から騒然として声が上がった。
 土方は身振りでその声を制して、あらためて周囲の者を説いた。

「仙台藩が降伏の道を選択するのはほぼ間違いない。
 そうなると奥羽越列藩同盟は最早、完全に崩壊するだろう。
 足場がなくなった我々には、死ぬか、投降するかの2つの道しかない。
 死ぬのはいつでも死ねる。
 投降して、我々の正義を訴えて後世に伝えようではないか。
 ブリュネ教官が言う通りなら、我々には苦しい牢生活が待っているだろう。
 しかし、釈放された後、周囲に我々の正義を訴えることはできる。
 仮に騙されて死罪になったとしても、死ぬことには変わりはないし、裁きの場で我々の正義を訴えることはできるではないか。
 皆、降伏しよう」

 またも周囲は騒然としたが、それは土方に対する非難よりも現状を改めて認識した者が発する泣き声からだった。
 ブリュネや大鳥も涙を浮かべていた。

 大鳥が発言した。
「土方さんがいうとおりだと思うな。
 伝習隊はここに薩長に対する降伏を決断したい。
 皆、賛同してもらえないだろうか」

「異議なし」
 と泣きながら、一部の者が発言した。
 反対の声は挙がらない。

「では、伝習隊は薩長に降伏することにする。
 薩長への降伏の使者を立てることにする」
 大鳥は涙を浮かべながら、発言した。
 伝習隊の降伏が決まった瞬間だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

1333

干支ピリカ
歴史・時代
 鎌倉幕府末期のエンターテイメントです。 (現在の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』から、100年ちょい後の話です)  鎌倉や京都が舞台となります。心躍る激しい合戦や、ぞくぞくするようなオドロオドロしい話を目指そうと思いましたが、結局政治や謀略の話が多くなりました。  主役は足利尊氏の弟、直義です。エキセントリックな兄と、サイケデリックな執事に振り回される、苦労性のイケメンです。  ご興味を持たれた方は是非どうぞ!

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

【架空戦記】蒲生の忠

糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。 明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。 その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。 両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。 一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。 だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。 かくなる上は、戦うより他に道はなし。 信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

処理中です...