62 / 65
本編
56 姉と弟
しおりを挟む
それから程なくして私は臨月を迎え出産を終えたが、運命は残酷なもので……結果は死産だった。
メルヴィンは「妊娠中に過度のストレスを感じたことが原因だろう。君の責任ではないよ」と言って励ましてくれたけれど、当面の目標は元気な子供を産んでリヒトを喜ばせてあげることだっただけに、酷く落ち込んでしまった。
正直、もう二度と立ち直れないんじゃないかと思うくらいに打ちのめされてしまったけれど、ここで私が再起不能になってしまえばリヒトのことも助けられなくなってしまう。
そう思い、気を強く持ち直すと、一先ず休養に専念することにした。
そんなある日のこと。
意外な二人が私の病室にお見舞いに来てくれた。アドレーとアルメルだ。
「セレス様、お久しぶりです」
「二人共、お久しぶり!」
挨拶を済ませたアルメルが、ベッドの横の小卓の上にある花瓶に新しい花を差し替えてくれた。
「まさか、二人がお見舞いに来てくれるなんて思わなくて……散らかっていて、ごめんなさい」
そう言いながら、私はベッドや小卓の上に散らかっている本や雑誌を手早く片付けると、彼らのほうに向き直った。
「この度は、本当に大変でしたね……さぞお辛かったでしょう。心中お察しします」
「俺達にできることなんて、あまりないかもしれませんが……何か協力できそうなことがあれば、言って下さいね」
「二人共……気を使ってくれてありがとう。お腹の子のことは本当に残念だったけれど、私は大丈夫なので」
そう返し、気丈に振る舞ってみせる。
あれ……? そう言えば、二人の扱いは今後どうなるんだろう?
リヒトとは契約解除をしていないようだから、まだ屋敷で働いているはずだけれど……。
「実は……先日、リヒト様から契約破棄を言い渡されました」
二人の今後について考えていた矢先、アルメルが躊躇いがちに話を切り出した。
「え……?」
「あの……でも、誤解しないで下さいね。リヒト様は俺達のことを考えて、次の雇い主まで探して下さって……」
「そればかりか、私達と過ごした思い出を消したくないと仰って……記憶まで残して下さったんです」
二人は申し訳無さそうに、けれど深い恩義を感じているといった様子で、先日あった出来事を語った。
「正直、リヒト様とセレス様の元から離れるのはとても寂しいです。ですが、主であるリヒト様のご命令とあらば仕方ありません。それに……この記憶が残っている限り、お二人と過ごした思い出は私達の心の中にずっと残りますから」
「きっと、リヒト様は俺達を信頼してくれているんでしょうね。……魔法で記憶の消去を行わないって、そういうことでしょうから」
話を聞いてみれば、どうやらリヒトはアドレーとアルメルに「病気療養のために入院生活が長引きそうだから」と説明し、二人との契約を解除したらしい。
自分の余命がもうあまり長くないことについては一切触れていないようだし、その辺りは二人を悲しませないように配慮したのだろう。
「あの、セレス様……今さら、こんなことを言っても仕方がないかもしれませんが……私がもっと早く真実に気がついていたら、セレス様とリヒト様は引き離されずに済んだでしょうね。本当に……本当に申し訳ありません」
深々と頭を下げたアルメルを見て狼狽した私は、慌てて首を横に振る。
「そんな……元はと言えば、私が原因なので……。だから、その……頭を上げて下さい、アルメル」
「ですが……」
「それに、私……今は結構前向きなんです。状況だけ見たら、確かにどん底かもしれない。でも……落ちるところまで落ちたら、後は這い上がるだけでしょう? ……だから、自分の可能性を信じてみたいなって……そう思っているんです」
「……かしこまりました。私、信じていますね。きっと、いつかセレス様とリヒト様が心から笑える日が来るって……そう信じていますから」
そんな私達の会話を聞いていたアドレーが、頃合いを見計らったように口を開く。
「──それじゃあ、俺達はそろそろお暇しますね。行こう、アルメル」
「ええ……わかっているわ、兄さん。……さようなら、セレス様。今まで、本当にお世話になりました」
「いいえ。こちらこそ……これまで、私やリヒトのことを気遣ってくれて、本当にありがとう。どうか、お元気で……!」
アルメルは涙ぐみながらも微笑むと、アドレーと一緒に私に一礼して病室から出ていった。
◆
紆余曲折を経て、いよいよ私とリヒトがコールドスリープに挑む日がやってきた。
あの後、リヒトはメルヴィンから改めて事情を説明され、十ニ年前の実験で私達双子が被験者として選ばれたことや自分が余命幾ばくもないことをきちんと把握したようだ。
「それじゃあ、今からコールドスリープ処置を施すけれど……本当に、いいんだね?」
メルヴィンは、カプセルの中に入った私とリヒトの顔を交互に見ながらそう尋ねた。
「……はい」
私は不安な気持ちを抑え込むように隣に横たわるリヒトの手をぎゅっと握ると、こくんと頷いてみせた。
すると、リヒトは小刻みに身を震わせる私の不安を和らげようとしてくれているのか、とても病人とは思えない強い力で手を握り返してくれた。
リヒトは、もう声も満足に出せないほど衰弱している。今まで、彼は体力を上昇させる魔法や魔法薬を使って騙し騙し体を酷使してきたと言っていたから、きっと余計に衰弱の進行が早いのだろう。
コールドスリープ処置を施し、無事魔力を正常な魔力値まで抑え込むことができれば、体内の膨大な魔力によって引き起こされる健康被害は自然と快方に向かうらしいが、現状を見ていると「本当に大丈夫なのだろうか」と心配になってくる。
一応、装置を改良した甲斐があって、昔のように実験後に魔力を共有したことによる拒絶反応で死亡する可能性はほぼゼロになったらしい。
つまり、無事目覚めることができれば、私達は実験後の拒絶反応を恐れることなく平穏無事な日常生活を送ることができるのだ。
だから、何とか頑張らなければ……。
──大丈夫。相性抜群の私達なら、きっと生き残れる。
私は気を強く持つと、心配そうな表情でこちらを見つめるメルヴィンに「それじゃあ、お願いします」と伝え、大きく息を吸って心の準備をした。
「僕は長年研究を重ねてきたにもかかわらず、不完全な成果しか出せなかった。だから、君達の安全を保証することはできない。こんな形でこの日を迎えてしまい、本当に申し訳ない気持ちで一杯だ。でも……僕は、君達ならこの困難を乗り越えられる気がしているんだ。勿論、根拠はないけれどね……」
メルヴィンはそう言うと、寂しそうに笑った。
「そんな……博士が責任を感じる必要なんてありませんよ。寧ろ、私は博士に対して恩義しか感じていません。友人としてリヒトを支えて下さっただけでなく、彼の命を助けるために長年に渡って研究を重ねて下さったんですから。……本当に、ありがとうございます」
「セレスくん……いや、こちらこそありがとう。君達と出会えて本当に良かったよ。……必ず、生きて帰ってきてくれ。健闘を祈るよ」
メルヴィンはそう言って涙ぐむと、意を決した様子でカプセルの蓋を閉めた。
「……ねえ、リヒト」
「……?」
リヒトは体のあちこちが痛むのか、苦悶の表情を浮かべ、顔は動かさずに繋いだ手を握り返して呼びかけに応答した。
「あなたは、現世でも私と姉弟として生まれてしまったことを嘆いていたけれど……私は、あなたとまた姉弟になれて良かったと思っているよ」
「……」
「だって、そうでしょう? もし他人同士だったら、こうして巡り会えなかったかもしれないし……たとえ巡り会えたとしても、出会うまで何年、何十年かかるかわからない。でも……最初から姉弟として──双子として生を受けていたら、生まれた瞬間から……ううん、お母さんのお腹の中にいる時から大好きなあなたのそばにいられるんだよ? こんなに幸せなことはないよ」
「……」
「私ね……前世で、死ぬ間際にこう思ったんだ。『もし生まれ変われるなら、もう一度、望に巡り会いたい。そして、今度こそ後悔しないように一緒に生きていきたい』って。だから……きっと、神様が私の願いを叶えてくれたんだと思う」
メルヴィンがガラス越しに私達を見下ろし、手でジェスチャーを送っているのが見える。
恐らく、あと数分でコールドスリープ処置が施されるのだろう。
「姉弟として生まれた私達は、現世でも結ばれることは叶わないけれど……でも、その代わりに絶対に切れない『血縁』という絆で結ばれてる。他人同士だったら、婚姻関係を解消してしまえばそれでお終いだけれど、『姉弟』の絆は切っても切れないでしょう? だから、私はまたあなたの姉として生まれ変わることができて幸せだよ」
「……っ」
リヒトの口から、声にならない嗚咽が漏れる。
「これで最後だなんて思いたくないけど、後悔しないように何度でも言っておくね。……リヒトが好き。大好き。何度生まれ変わっても巡り会いたいほどに、あなたを愛してる」
もしこのまま死んでしまっても、次に生まれ変わった時にまた巡り会えるように……という願いも込めて何度も愛を囁く。
すると、リヒトが出ない声を無理やり絞り出すようにして、苦しげな表情を浮かべながらも口を開いた。
「俺……も……セレ……の、弟とし……生ま……こと……が……でき……良か……た……愛……して……る……」
「リヒト……」
あれだけ私の弟として生まれてしまったことを嘆いていたリヒトが、私の弟に生まれることができて良かったと言ってくれた。
その事実が嬉しくて、同時に勇気づけられた気もして──彼のお陰で、ぎりぎりまで払拭できずにいたコールドスリープへの恐怖心が薄れていくのを感じた。
「……一緒に眠ろう、リヒト。大丈夫。絶対に、あなたを死なせはしない。必ず守ってみせる。だって……私は、あなたのお姉ちゃんだから」
その言葉を聞いたリヒトは安心したのか、ふっと柔らかい笑みを浮かべ、ゆっくりと目を閉じた。
メルヴィンが再びガラス越しに私達を見下ろし、手を上げて他の研究員達に合図をする。
次の瞬間、カプセル内にもくもくとした白煙が立ち込め、視界が真っ白になった。
私は意識が遠のきつつも、繋いだ手にぎゅっと力を込める。
──大好きだよ、リヒト。頑張って生き残ろうね。
メルヴィンは「妊娠中に過度のストレスを感じたことが原因だろう。君の責任ではないよ」と言って励ましてくれたけれど、当面の目標は元気な子供を産んでリヒトを喜ばせてあげることだっただけに、酷く落ち込んでしまった。
正直、もう二度と立ち直れないんじゃないかと思うくらいに打ちのめされてしまったけれど、ここで私が再起不能になってしまえばリヒトのことも助けられなくなってしまう。
そう思い、気を強く持ち直すと、一先ず休養に専念することにした。
そんなある日のこと。
意外な二人が私の病室にお見舞いに来てくれた。アドレーとアルメルだ。
「セレス様、お久しぶりです」
「二人共、お久しぶり!」
挨拶を済ませたアルメルが、ベッドの横の小卓の上にある花瓶に新しい花を差し替えてくれた。
「まさか、二人がお見舞いに来てくれるなんて思わなくて……散らかっていて、ごめんなさい」
そう言いながら、私はベッドや小卓の上に散らかっている本や雑誌を手早く片付けると、彼らのほうに向き直った。
「この度は、本当に大変でしたね……さぞお辛かったでしょう。心中お察しします」
「俺達にできることなんて、あまりないかもしれませんが……何か協力できそうなことがあれば、言って下さいね」
「二人共……気を使ってくれてありがとう。お腹の子のことは本当に残念だったけれど、私は大丈夫なので」
そう返し、気丈に振る舞ってみせる。
あれ……? そう言えば、二人の扱いは今後どうなるんだろう?
リヒトとは契約解除をしていないようだから、まだ屋敷で働いているはずだけれど……。
「実は……先日、リヒト様から契約破棄を言い渡されました」
二人の今後について考えていた矢先、アルメルが躊躇いがちに話を切り出した。
「え……?」
「あの……でも、誤解しないで下さいね。リヒト様は俺達のことを考えて、次の雇い主まで探して下さって……」
「そればかりか、私達と過ごした思い出を消したくないと仰って……記憶まで残して下さったんです」
二人は申し訳無さそうに、けれど深い恩義を感じているといった様子で、先日あった出来事を語った。
「正直、リヒト様とセレス様の元から離れるのはとても寂しいです。ですが、主であるリヒト様のご命令とあらば仕方ありません。それに……この記憶が残っている限り、お二人と過ごした思い出は私達の心の中にずっと残りますから」
「きっと、リヒト様は俺達を信頼してくれているんでしょうね。……魔法で記憶の消去を行わないって、そういうことでしょうから」
話を聞いてみれば、どうやらリヒトはアドレーとアルメルに「病気療養のために入院生活が長引きそうだから」と説明し、二人との契約を解除したらしい。
自分の余命がもうあまり長くないことについては一切触れていないようだし、その辺りは二人を悲しませないように配慮したのだろう。
「あの、セレス様……今さら、こんなことを言っても仕方がないかもしれませんが……私がもっと早く真実に気がついていたら、セレス様とリヒト様は引き離されずに済んだでしょうね。本当に……本当に申し訳ありません」
深々と頭を下げたアルメルを見て狼狽した私は、慌てて首を横に振る。
「そんな……元はと言えば、私が原因なので……。だから、その……頭を上げて下さい、アルメル」
「ですが……」
「それに、私……今は結構前向きなんです。状況だけ見たら、確かにどん底かもしれない。でも……落ちるところまで落ちたら、後は這い上がるだけでしょう? ……だから、自分の可能性を信じてみたいなって……そう思っているんです」
「……かしこまりました。私、信じていますね。きっと、いつかセレス様とリヒト様が心から笑える日が来るって……そう信じていますから」
そんな私達の会話を聞いていたアドレーが、頃合いを見計らったように口を開く。
「──それじゃあ、俺達はそろそろお暇しますね。行こう、アルメル」
「ええ……わかっているわ、兄さん。……さようなら、セレス様。今まで、本当にお世話になりました」
「いいえ。こちらこそ……これまで、私やリヒトのことを気遣ってくれて、本当にありがとう。どうか、お元気で……!」
アルメルは涙ぐみながらも微笑むと、アドレーと一緒に私に一礼して病室から出ていった。
◆
紆余曲折を経て、いよいよ私とリヒトがコールドスリープに挑む日がやってきた。
あの後、リヒトはメルヴィンから改めて事情を説明され、十ニ年前の実験で私達双子が被験者として選ばれたことや自分が余命幾ばくもないことをきちんと把握したようだ。
「それじゃあ、今からコールドスリープ処置を施すけれど……本当に、いいんだね?」
メルヴィンは、カプセルの中に入った私とリヒトの顔を交互に見ながらそう尋ねた。
「……はい」
私は不安な気持ちを抑え込むように隣に横たわるリヒトの手をぎゅっと握ると、こくんと頷いてみせた。
すると、リヒトは小刻みに身を震わせる私の不安を和らげようとしてくれているのか、とても病人とは思えない強い力で手を握り返してくれた。
リヒトは、もう声も満足に出せないほど衰弱している。今まで、彼は体力を上昇させる魔法や魔法薬を使って騙し騙し体を酷使してきたと言っていたから、きっと余計に衰弱の進行が早いのだろう。
コールドスリープ処置を施し、無事魔力を正常な魔力値まで抑え込むことができれば、体内の膨大な魔力によって引き起こされる健康被害は自然と快方に向かうらしいが、現状を見ていると「本当に大丈夫なのだろうか」と心配になってくる。
一応、装置を改良した甲斐があって、昔のように実験後に魔力を共有したことによる拒絶反応で死亡する可能性はほぼゼロになったらしい。
つまり、無事目覚めることができれば、私達は実験後の拒絶反応を恐れることなく平穏無事な日常生活を送ることができるのだ。
だから、何とか頑張らなければ……。
──大丈夫。相性抜群の私達なら、きっと生き残れる。
私は気を強く持つと、心配そうな表情でこちらを見つめるメルヴィンに「それじゃあ、お願いします」と伝え、大きく息を吸って心の準備をした。
「僕は長年研究を重ねてきたにもかかわらず、不完全な成果しか出せなかった。だから、君達の安全を保証することはできない。こんな形でこの日を迎えてしまい、本当に申し訳ない気持ちで一杯だ。でも……僕は、君達ならこの困難を乗り越えられる気がしているんだ。勿論、根拠はないけれどね……」
メルヴィンはそう言うと、寂しそうに笑った。
「そんな……博士が責任を感じる必要なんてありませんよ。寧ろ、私は博士に対して恩義しか感じていません。友人としてリヒトを支えて下さっただけでなく、彼の命を助けるために長年に渡って研究を重ねて下さったんですから。……本当に、ありがとうございます」
「セレスくん……いや、こちらこそありがとう。君達と出会えて本当に良かったよ。……必ず、生きて帰ってきてくれ。健闘を祈るよ」
メルヴィンはそう言って涙ぐむと、意を決した様子でカプセルの蓋を閉めた。
「……ねえ、リヒト」
「……?」
リヒトは体のあちこちが痛むのか、苦悶の表情を浮かべ、顔は動かさずに繋いだ手を握り返して呼びかけに応答した。
「あなたは、現世でも私と姉弟として生まれてしまったことを嘆いていたけれど……私は、あなたとまた姉弟になれて良かったと思っているよ」
「……」
「だって、そうでしょう? もし他人同士だったら、こうして巡り会えなかったかもしれないし……たとえ巡り会えたとしても、出会うまで何年、何十年かかるかわからない。でも……最初から姉弟として──双子として生を受けていたら、生まれた瞬間から……ううん、お母さんのお腹の中にいる時から大好きなあなたのそばにいられるんだよ? こんなに幸せなことはないよ」
「……」
「私ね……前世で、死ぬ間際にこう思ったんだ。『もし生まれ変われるなら、もう一度、望に巡り会いたい。そして、今度こそ後悔しないように一緒に生きていきたい』って。だから……きっと、神様が私の願いを叶えてくれたんだと思う」
メルヴィンがガラス越しに私達を見下ろし、手でジェスチャーを送っているのが見える。
恐らく、あと数分でコールドスリープ処置が施されるのだろう。
「姉弟として生まれた私達は、現世でも結ばれることは叶わないけれど……でも、その代わりに絶対に切れない『血縁』という絆で結ばれてる。他人同士だったら、婚姻関係を解消してしまえばそれでお終いだけれど、『姉弟』の絆は切っても切れないでしょう? だから、私はまたあなたの姉として生まれ変わることができて幸せだよ」
「……っ」
リヒトの口から、声にならない嗚咽が漏れる。
「これで最後だなんて思いたくないけど、後悔しないように何度でも言っておくね。……リヒトが好き。大好き。何度生まれ変わっても巡り会いたいほどに、あなたを愛してる」
もしこのまま死んでしまっても、次に生まれ変わった時にまた巡り会えるように……という願いも込めて何度も愛を囁く。
すると、リヒトが出ない声を無理やり絞り出すようにして、苦しげな表情を浮かべながらも口を開いた。
「俺……も……セレ……の、弟とし……生ま……こと……が……でき……良か……た……愛……して……る……」
「リヒト……」
あれだけ私の弟として生まれてしまったことを嘆いていたリヒトが、私の弟に生まれることができて良かったと言ってくれた。
その事実が嬉しくて、同時に勇気づけられた気もして──彼のお陰で、ぎりぎりまで払拭できずにいたコールドスリープへの恐怖心が薄れていくのを感じた。
「……一緒に眠ろう、リヒト。大丈夫。絶対に、あなたを死なせはしない。必ず守ってみせる。だって……私は、あなたのお姉ちゃんだから」
その言葉を聞いたリヒトは安心したのか、ふっと柔らかい笑みを浮かべ、ゆっくりと目を閉じた。
メルヴィンが再びガラス越しに私達を見下ろし、手を上げて他の研究員達に合図をする。
次の瞬間、カプセル内にもくもくとした白煙が立ち込め、視界が真っ白になった。
私は意識が遠のきつつも、繋いだ手にぎゅっと力を込める。
──大好きだよ、リヒト。頑張って生き残ろうね。
0
お気に入りに追加
684
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】堕ちた令嬢
マー子
恋愛
・R18・無理矢理?・監禁×孕ませ
・ハピエン
※レイプや陵辱などの表現があります!苦手な方は御遠慮下さい。
〜ストーリー〜
裕福ではないが、父と母と私の三人平凡で幸せな日々を過ごしていた。
素敵な婚約者もいて、学園を卒業したらすぐに結婚するはずだった。
それなのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう⋯?
◇人物の表現が『彼』『彼女』『ヤツ』などで、殆ど名前が出てきません。なるべく表現する人は統一してますが、途中分からなくても多分コイツだろう?と温かい目で見守って下さい。
◇後半やっと彼の目的が分かります。
◇切ないけれど、ハッピーエンドを目指しました。
◇全8話+その後で完結
【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜
茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。
☆他サイトにも投稿しています
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
クール令嬢、ヤンデレ弟に無理やり結婚させられる
ぺこ
恋愛
ヤンデレの弟に「大きくなったら結婚してくれる?」と言われ、冗談だと思ってたら本当に結婚させられて困ってる貴族令嬢ちゃんのお話です。優しく丁寧に甲斐甲斐しくレ…イプしてるのでご注意を。
原文(淫語、♡乱舞、直接的な性器の表現ありバージョン)はpixivに置いてます。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる