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第3話
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ジョシュアに断りを入れて一足先にアルスフェルト村に戻ったメイジーとカイルは、急いでロードナイト邸へ向かった。
書斎のドアを開けると、待ちわびていた様子のアンソニーが椅子から立ち上がり、一通の手紙を持ってメイジーのほうに歩いてきた。
「お父様! あの……先ほど、カイルから私に縁談が来ていると聞いたのですが……それは本当ですか?」
「ああ、嘘じゃないさ。ほら、先方から来た手紙だ。読んでみなさい」
アンソニーはそう答えると、持っていた手紙を手渡してきた。
「……本当だわ。信じられない」
手紙に目を通したメイジーは、封筒の裏面に記されている差出人を確認する。
オスカー・ルネ・ロペス公爵──マルクト王家の親戚筋(オスカーの母親が現国王の姉らしい)にあたる人物だ。
亡き父の後を継いで、弱冠二十三歳で公爵家の当主を務める優秀な男性──そんな人物が、自分のような貧乏男爵家の娘に結婚を申し込んで来るなんておよそ信じられない話だが、手紙の内容からしてどうやら本当らしい。
何でも、オスカーは一ヶ月ほど前に私用でアルスフェルト村を訪れたらしい。その際、領民たちと同じように畑仕事や果樹園の世話に勤しんでいるメイジーを偶然見かけて、一目で気に入ったのだとか。
彼曰く、一生懸命働いている姿が魅力的だったらしいが……メイジーからしたら社交界デビューをして夜会に出席し、夜毎いろんな貴族たちと交流をしている華やかな令嬢たちのほうが余程素敵に思える。
(奇特な人もいるものね。こんな私を嫁にほしいだなんて)
そんなことを考えつつも、メイジーは手紙をアンソニーに返す。
「それで、どうする? もちろん、メイジーの気が乗らないというのなら断っても構わないのだが……」
「えっと……」
煮え切らない態度でちらりと父を見やると、メイジーは何とも言えないプレッシャーを感じた。
アンソニーは、決して娘の気持ちを無視して政略結婚を強いるような薄情な人間ではない。
けれど、メイジーがロペス公爵家に嫁げば生活が楽になるのは事実だ。断っても構わないと言いつつも、きっと本音はオスカーと結婚してほしいと思っているのだろう。
(これって、頷かないといけない流れなんじゃ……)
そう思いつつも、メイジーは助け舟を求めるようにカイルのほうを見る。
すると、カイルは一瞬メイジーと目を合わせたものの、すぐに気まずそうに俯いてしまった。
普段はやたらと世話を焼きたがる癖に、こういう時に頼りにならない弟にメイジーは苛立ちを覚えてしまう。
けれど彼の表情はどこか寂しげで、切なそうで、何かを訴えているようにも見えた。一体、どうしたのだろう。いまいち、カイルの意図がわからない。
メイジーはそんなカイルを怪訝に思いつつも、ゆっくりと口を開いた。
「……わかりました。私、ロペス公爵家に──」
そう言いかけた刹那。
「駄目だ!」
黙って話を聞いていたカイルが言葉を遮った。
「え……?」
メイジーは思わず父と顔を見合わせた。
普段は滅多なことでは動じない彼も流石に困惑したようで、目を丸くしている。
「カ、カイル……? 突然どうしたんだ?」
「あ……いや、その……姉上だって、急にこんな話をされても困ると思うんです。だから、即答せずにもっとじっくり考えたほうがいいかと……」
「なるほど。それもそうだな。メイジー、先方も別に返事を急いでいるわけではないようだし、ゆっくり考えなさい。お前の人生はお前のものだ。私は、お前の意思を尊重するよ」
「お父様……ありがとうございます。では、そうさせていただきますね」
メイジーはそう返すと、ドアを開けてそそくさと書斎を後にした。
すると、カイルが何やら難しい顔をしながらメイジーの後を追いかけてきた。
「姉さん! さっきの話だけど……どうするつもりなの?」
「どうするって、そんなの決まってるじゃない。……ロペス公爵家に嫁ぐわ」
少し考えさせてほしい、とは言ったもののメイジーの中では既に答えは決まっていた。
父の厚意に甘えたのは、心の準備をする期間がほしかったからだ。
ロードナイト家は常に火の車。多額の借金を抱えている上、病気を患っている祖母がいるため入院費用や薬代も毎月かかるし、いつ路頭に迷うかわからない状況だ。
(──だったら、私がオスカー様と結婚するしかないじゃない)
メイジーは昔から恋愛結婚に憧れていた。
というのも、メイジーの母方の伯母は長らく恋仲だった平民に嫁いでおり、身分違いの大恋愛の末に結婚したからだ。
正直、自分も伯母のような大恋愛をしてみたいという願望はあったのだが、そんな悠長なことを言っている場合ではない。
書斎のドアを開けると、待ちわびていた様子のアンソニーが椅子から立ち上がり、一通の手紙を持ってメイジーのほうに歩いてきた。
「お父様! あの……先ほど、カイルから私に縁談が来ていると聞いたのですが……それは本当ですか?」
「ああ、嘘じゃないさ。ほら、先方から来た手紙だ。読んでみなさい」
アンソニーはそう答えると、持っていた手紙を手渡してきた。
「……本当だわ。信じられない」
手紙に目を通したメイジーは、封筒の裏面に記されている差出人を確認する。
オスカー・ルネ・ロペス公爵──マルクト王家の親戚筋(オスカーの母親が現国王の姉らしい)にあたる人物だ。
亡き父の後を継いで、弱冠二十三歳で公爵家の当主を務める優秀な男性──そんな人物が、自分のような貧乏男爵家の娘に結婚を申し込んで来るなんておよそ信じられない話だが、手紙の内容からしてどうやら本当らしい。
何でも、オスカーは一ヶ月ほど前に私用でアルスフェルト村を訪れたらしい。その際、領民たちと同じように畑仕事や果樹園の世話に勤しんでいるメイジーを偶然見かけて、一目で気に入ったのだとか。
彼曰く、一生懸命働いている姿が魅力的だったらしいが……メイジーからしたら社交界デビューをして夜会に出席し、夜毎いろんな貴族たちと交流をしている華やかな令嬢たちのほうが余程素敵に思える。
(奇特な人もいるものね。こんな私を嫁にほしいだなんて)
そんなことを考えつつも、メイジーは手紙をアンソニーに返す。
「それで、どうする? もちろん、メイジーの気が乗らないというのなら断っても構わないのだが……」
「えっと……」
煮え切らない態度でちらりと父を見やると、メイジーは何とも言えないプレッシャーを感じた。
アンソニーは、決して娘の気持ちを無視して政略結婚を強いるような薄情な人間ではない。
けれど、メイジーがロペス公爵家に嫁げば生活が楽になるのは事実だ。断っても構わないと言いつつも、きっと本音はオスカーと結婚してほしいと思っているのだろう。
(これって、頷かないといけない流れなんじゃ……)
そう思いつつも、メイジーは助け舟を求めるようにカイルのほうを見る。
すると、カイルは一瞬メイジーと目を合わせたものの、すぐに気まずそうに俯いてしまった。
普段はやたらと世話を焼きたがる癖に、こういう時に頼りにならない弟にメイジーは苛立ちを覚えてしまう。
けれど彼の表情はどこか寂しげで、切なそうで、何かを訴えているようにも見えた。一体、どうしたのだろう。いまいち、カイルの意図がわからない。
メイジーはそんなカイルを怪訝に思いつつも、ゆっくりと口を開いた。
「……わかりました。私、ロペス公爵家に──」
そう言いかけた刹那。
「駄目だ!」
黙って話を聞いていたカイルが言葉を遮った。
「え……?」
メイジーは思わず父と顔を見合わせた。
普段は滅多なことでは動じない彼も流石に困惑したようで、目を丸くしている。
「カ、カイル……? 突然どうしたんだ?」
「あ……いや、その……姉上だって、急にこんな話をされても困ると思うんです。だから、即答せずにもっとじっくり考えたほうがいいかと……」
「なるほど。それもそうだな。メイジー、先方も別に返事を急いでいるわけではないようだし、ゆっくり考えなさい。お前の人生はお前のものだ。私は、お前の意思を尊重するよ」
「お父様……ありがとうございます。では、そうさせていただきますね」
メイジーはそう返すと、ドアを開けてそそくさと書斎を後にした。
すると、カイルが何やら難しい顔をしながらメイジーの後を追いかけてきた。
「姉さん! さっきの話だけど……どうするつもりなの?」
「どうするって、そんなの決まってるじゃない。……ロペス公爵家に嫁ぐわ」
少し考えさせてほしい、とは言ったもののメイジーの中では既に答えは決まっていた。
父の厚意に甘えたのは、心の準備をする期間がほしかったからだ。
ロードナイト家は常に火の車。多額の借金を抱えている上、病気を患っている祖母がいるため入院費用や薬代も毎月かかるし、いつ路頭に迷うかわからない状況だ。
(──だったら、私がオスカー様と結婚するしかないじゃない)
メイジーは昔から恋愛結婚に憧れていた。
というのも、メイジーの母方の伯母は長らく恋仲だった平民に嫁いでおり、身分違いの大恋愛の末に結婚したからだ。
正直、自分も伯母のような大恋愛をしてみたいという願望はあったのだが、そんな悠長なことを言っている場合ではない。
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