疎まれ魔女は愛弟子に偏愛される

彼岸花

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2.潜在魔力

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 あの出会いから、一週間程が経過した。
 ルークスは、本当によく働いてくれた。元々家事が苦手だった私は大助かりだ。
 そして、驚いたことに、ルークスは大人顔負けの料理スキルを持っていた。
 どうしてそんなに料理の腕が良いのかと聞いてみると、彼は「新しいお母さんの代わりに家事をこなしていたら、いつの間にか料理が出来るようになっていた」と答えた。
 そう言えば……彼は毎日、継母に扱き使われていたと話していたな。

「スカーレット様、今日の夕飯は何がいいですか?」
「ん? 何でもいいぞ。お主の作る料理は何でも美味いからのう」
「それじゃあ……昨日は肉だったから、今日は野菜料理にしますね」

 ルークスはそう言ってキッチンに向かい、徐ろに料理を始めた。
 そんなルークスを少し離れた位置から眺めていると、彼は包丁を手に持ち、トントンと良い音を立てて手際よく野菜を切り始めた。
 さて、夕飯の支度はルークスに任せて、仕事に戻るか……。そう思った私は居間に戻り、椅子に腰掛ける。
 私は、森で採れた薬草を調合してポーションを作成するという単調な仕事をもう十数年続けている。
 ポーションの主な材料は、森などで採集できる薬草だ。薬草はアルヴィス村のすぐ近くにある森で沢山採れる。
 その為、私は普段から頻繁にその森に出入りをしている。

 これは、別に魔法使いじゃなくても出来る仕事なのだが……魔法使いには『薬草のある場所がすぐにわかる』という利点がある。
 探す手間が省けるから、短時間で他の人よりも多く薬草を採集出来るのだ。
 だからと言って、魔法使いが必要とされているわけではないのだが……。

 はるか昔──まだこの世界に魔物が存在していた頃は、魔法使いが重宝されていた。だから、魔法が使えるというだけで将来安泰だったそうだ。
 けれど、魔物が居なくなった今、魔法使いの需要は無いに等しい。その為、所謂『魔力を活かした職業』は存在しないのだ。
 まあ……この仕事をコツコツ続けつつ、足りない分は近くの森に住む猪や兎を狩って半自給自足してきたので、食べていくのは困らないのだけれど。

「はぁ……生まれた時代が悪かったのかのう。全く、世知辛い世の中じゃ……」
「うわっ……!」

 私が独り言を呟いていると、キッチンの方からルークスの悲鳴が聞こえた。
 慌ててルークスの様子を見に行くと、何やら彼は指を押さえ前屈みになっていた。

「ルークス!? どうしたんじゃ!?」
「包丁で指を切ってしまって……。あ……でも、大丈夫です。これくらい、慣れっこですから!」
「いやいや! とても大丈夫そうには見えんぞ! そうじゃ! このポーションを……!」

 私は、先程作成したばかりのポーションを手渡そうとルークスの手を取った。
 その途端、突然互いの手がぼんやり発光し始めた。

「!?」
「こ、この光は……」

 私はこの現象に見覚えがあった。
 昔、母が迷子になっていた子供を保護したことがあったのだが……不思議なことに、母がその子供と手を繋いだ瞬間、何かに反応するように互いの手が光を放ち始めたのだ。「この光は一体何なの?」と聞いてみると、母は「魔力を持っている人が潜在魔力を持っている人の手を握ると、こうやって反応が現れるのよ」と答えた。
 そう言えば、まともにルークスの手を握ったのはこれが初めてだ。
 
 潜在魔力を持っている人とは──つまり、魔力が外に現れず内に潜んでいる人のことを指すらしい。
 その場合、ある日突然魔力が開花するか、一生開花しないかのどちらかなのだそうだ。

「ルークス……お主、潜在魔力を持っておったのか……」
「え……? 潜在魔力……?」

 私は、きょとんとした表情をしているルークスに詳しい説明をした。

「僕、実は魔力を持っていたんですか……?」
「そうじゃ。魔力を開花させれば、魔法使いになることもできるのじゃが……正直、あまりお勧めはしな──」
「やります! 僕、魔法使いになりたいです!」

 ルークスは、やる気満々な様子でそう意気込んだ。
 私は「出来れば魔力を開花させず、普通の人間として一生を終えたほうが幸せだ」と説得したのだが、それにもかかわらず、彼は私の弟子になりたいとせがんできた。
 結局、私はその熱意に負けてルークスを弟子にすることになってしまった。
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