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9.二人で歩む世界(エピローグ)
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あれから、一年の月日が流れた。
結局、あの後どうなったのかと言うと──乱闘騒ぎがきっかけで大きな革命が起こり、そのまま王政は崩壊した。
その革命によって多数の犠牲者が出てしまい、不幸になった人たちも沢山いた。けれど……人々はまた立ち上がり、生活を再建するために日々奮闘している。
そして──嬉しいことに、ずっと隠蔽されていた“研究結果”が明るみに出たことによって、少しずつ魔女や魔法使いに対する偏見がなくなりつつある。
私とルークスは、長い間住んでいたアルヴィス村を離れ、各地を旅して回っている。(実際、逃亡生活のようなものだが)
あの女が事件の真犯人だったことは、ルークスと交流があったレジスタンス組織の人たちが証明してくれたみたいだ。でも、やっぱりルークスが人を殺したことに変わりはない。
だから、ルークスも最悪、捕まる覚悟でいたようだけれど──乱闘騒ぎや革命のごたごたで、ルークスがあの女を魔法で殺したことを気にしている者がいない所為か、今のところ彼を捕まえようと追いかけて来る者はいない。
まあ、それ以前に……離縁されてからの彼女は、周りと関わらずに暮らしていたようなので、死んでも気にする人がいなかったのかも知れない。
「スカーレット! 久しぶりだな!」
ふと名前を呼ばれたことに気付き、私は顔を上げた。すぐ先に、こちらに向かって大きく手を振っている黒髪の青年の姿が見える。
革命のお陰で牢獄から出られたグレンだ。偶然彼と再会できた私は、こうやって時々彼と会っている。
グレンは今、離れ離れになった恋人の手がかりを探しているらしい。無気力に生きていた彼が、こうして前向きに生きてくれていることがとても嬉しい。
「グレンさん! お久しぶりです!」
「ああ、元気だったか?」
「はい、元気ですよ」
「ルークスも、元気だったか?」
グレンは、私の隣にいるルークスに話し掛けた。
「はい。僕はスカーレットさえ傍にいてくれたら、それだけで元気になれますよ」
ルークスはそう返すと、にっこりと微笑みながら私の肩を抱いた。
「もう、ルークスったら……人前なのに……」
「ははっ……そうやって惚気られると、独り身のおっさんは泣けてくるな」
私たちのやり取りを見たグレンは、やれやれと肩を竦めた。
暫くグレンとの会話を楽しんだ私たちは、彼に別れの挨拶をして、新しい目的地に旅立つことにした。
「今回の目的地はスカーレットが決めましたけど、なんでそこにしようと思ったんですか?」
「え……? えーと、それは……何となく……かな」
ルークスに理由を聞かれ、私は慌てて誤魔化した。と言うのも、私は随分前から彼に内緒で『悪魔との契約を解除する方法』を探しているからだ。
次に向かう街の図書館には、古くから伝わる悪魔伝説について詳しく書かれた書物が保管されているらしい。
そこなら、もしかしたら契約を解除する方法がわかるかも知れない。
ルークスはこう言っていた。「僕は沢山の人を殺した。相手が悪人とは言え、それは変えようのない事実だ。でも、全部スカーレットを守るために取った行動だから、後悔はしていない。倫理を優先させて行動を起こさずにいたら、きっと最愛の人を守れなかったから」と。
さらに、こんなことも言っていた。「悪魔と契約したことは、本当に申し訳ないと思っている。正直、死後のことを考えると怖い。でも、これはきっと罪を犯した自分への贖罪だと思うから、僕はその運命を受け入れる」と。
私は、愛する人に死後もなお苦しんで欲しくない。
だから、自分が生きている間に、彼を運命から解放する方法を見つけようと思う。……なんとしても。
「そう言えば、スカーレット。気になっていたことがあるんですけど……」
「え……何?」
「いつの間にか、喋り方が普通になりましたね。前はずっと変な喋り方をしていましたけど……」
「今さら気付いたの!?」
「いや、気付いてはいたんですよ? でも、何だか聞きづらくて……」
「あの喋り方は……その……明るくて面白い魔女を演じるために、わざとやっていただけだから」
「なるほど。でも、どうして喋り方を変えたんですか? もう定着していたから、わざわざ変えなくても良かったのに」
「それは……うーん……」
私たちの間を、一陣の風がびゅうっと吹き抜けた。
さらさらと風に揺れる自分の長い赤髪を押さえながら、私はルークスの質問への返答を考える。
「そうね。もう『道化』を演じる必要がなくなったから……かしら?」
そう答えると、ルークスは「そうですか」と言って穏やかな笑みを返してくれた。
今の私は、もう自分が魔女であることに引け目を感じていない。何故なら……この世界には、ありのままの自分を受け入れてくれる人たちだって沢山いるからだ。彼らのお陰で、私は自信を持つことができた。
だから、私はこれからも、魔女であることを誇りに思って生きていこうと思う。
──今、自分の隣にいる大好きな人と一緒に。
結局、あの後どうなったのかと言うと──乱闘騒ぎがきっかけで大きな革命が起こり、そのまま王政は崩壊した。
その革命によって多数の犠牲者が出てしまい、不幸になった人たちも沢山いた。けれど……人々はまた立ち上がり、生活を再建するために日々奮闘している。
そして──嬉しいことに、ずっと隠蔽されていた“研究結果”が明るみに出たことによって、少しずつ魔女や魔法使いに対する偏見がなくなりつつある。
私とルークスは、長い間住んでいたアルヴィス村を離れ、各地を旅して回っている。(実際、逃亡生活のようなものだが)
あの女が事件の真犯人だったことは、ルークスと交流があったレジスタンス組織の人たちが証明してくれたみたいだ。でも、やっぱりルークスが人を殺したことに変わりはない。
だから、ルークスも最悪、捕まる覚悟でいたようだけれど──乱闘騒ぎや革命のごたごたで、ルークスがあの女を魔法で殺したことを気にしている者がいない所為か、今のところ彼を捕まえようと追いかけて来る者はいない。
まあ、それ以前に……離縁されてからの彼女は、周りと関わらずに暮らしていたようなので、死んでも気にする人がいなかったのかも知れない。
「スカーレット! 久しぶりだな!」
ふと名前を呼ばれたことに気付き、私は顔を上げた。すぐ先に、こちらに向かって大きく手を振っている黒髪の青年の姿が見える。
革命のお陰で牢獄から出られたグレンだ。偶然彼と再会できた私は、こうやって時々彼と会っている。
グレンは今、離れ離れになった恋人の手がかりを探しているらしい。無気力に生きていた彼が、こうして前向きに生きてくれていることがとても嬉しい。
「グレンさん! お久しぶりです!」
「ああ、元気だったか?」
「はい、元気ですよ」
「ルークスも、元気だったか?」
グレンは、私の隣にいるルークスに話し掛けた。
「はい。僕はスカーレットさえ傍にいてくれたら、それだけで元気になれますよ」
ルークスはそう返すと、にっこりと微笑みながら私の肩を抱いた。
「もう、ルークスったら……人前なのに……」
「ははっ……そうやって惚気られると、独り身のおっさんは泣けてくるな」
私たちのやり取りを見たグレンは、やれやれと肩を竦めた。
暫くグレンとの会話を楽しんだ私たちは、彼に別れの挨拶をして、新しい目的地に旅立つことにした。
「今回の目的地はスカーレットが決めましたけど、なんでそこにしようと思ったんですか?」
「え……? えーと、それは……何となく……かな」
ルークスに理由を聞かれ、私は慌てて誤魔化した。と言うのも、私は随分前から彼に内緒で『悪魔との契約を解除する方法』を探しているからだ。
次に向かう街の図書館には、古くから伝わる悪魔伝説について詳しく書かれた書物が保管されているらしい。
そこなら、もしかしたら契約を解除する方法がわかるかも知れない。
ルークスはこう言っていた。「僕は沢山の人を殺した。相手が悪人とは言え、それは変えようのない事実だ。でも、全部スカーレットを守るために取った行動だから、後悔はしていない。倫理を優先させて行動を起こさずにいたら、きっと最愛の人を守れなかったから」と。
さらに、こんなことも言っていた。「悪魔と契約したことは、本当に申し訳ないと思っている。正直、死後のことを考えると怖い。でも、これはきっと罪を犯した自分への贖罪だと思うから、僕はその運命を受け入れる」と。
私は、愛する人に死後もなお苦しんで欲しくない。
だから、自分が生きている間に、彼を運命から解放する方法を見つけようと思う。……なんとしても。
「そう言えば、スカーレット。気になっていたことがあるんですけど……」
「え……何?」
「いつの間にか、喋り方が普通になりましたね。前はずっと変な喋り方をしていましたけど……」
「今さら気付いたの!?」
「いや、気付いてはいたんですよ? でも、何だか聞きづらくて……」
「あの喋り方は……その……明るくて面白い魔女を演じるために、わざとやっていただけだから」
「なるほど。でも、どうして喋り方を変えたんですか? もう定着していたから、わざわざ変えなくても良かったのに」
「それは……うーん……」
私たちの間を、一陣の風がびゅうっと吹き抜けた。
さらさらと風に揺れる自分の長い赤髪を押さえながら、私はルークスの質問への返答を考える。
「そうね。もう『道化』を演じる必要がなくなったから……かしら?」
そう答えると、ルークスは「そうですか」と言って穏やかな笑みを返してくれた。
今の私は、もう自分が魔女であることに引け目を感じていない。何故なら……この世界には、ありのままの自分を受け入れてくれる人たちだって沢山いるからだ。彼らのお陰で、私は自信を持つことができた。
だから、私はこれからも、魔女であることを誇りに思って生きていこうと思う。
──今、自分の隣にいる大好きな人と一緒に。
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仰る通り、老化しにくいだけですね。
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最後までお付き合い頂きありがとうございました。
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今後が楽しみですっ
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応援しておりますっ
ご感想ありがとうございます。
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