素直になれないツンデレ王太子は、目覚めない悪役令嬢にもう一度プロポーズがしたい

彼岸花

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第4話(ルナリア視点)

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 私、ルナリア・アッシュフィールドは、幼い頃から婚約者であるアロイス様のことが大好きだった。

『アロイス様、大好き! 大人になったら、素敵な教会で結婚式をあげましょうね!』
『もちろんだよ、ルナリア。とびっきり素敵な結婚式をあげよう!』

 今から十年以上前、私たちは会うたびにそんな会話をしていた。
 けれども……成長するにつれて、アロイス様はどんどん私に対して冷たい態度をとるようになってしまった。
 とはいえ、「照れ隠しなんだろうな」と察せる部分は垣間見えたので、私は遠慮なく好意を伝え続けていた。
 ……ある日を堺に、彼が本当に私のことを嫌いになるまでは。

 そう、それまでのアロイス様は、確かにだった。
 それなのに……あの日からの彼はまるで別人のようになってしまった。
 何故私がここまでアロイス様のことを慕っているのかというと……詳しい理由を説明しようと思えば、前世まで遡ることになる。

 前世の私は、星井梢という名前の日本人だった。
 でも、二十六歳の時に病気が発覚し、余命宣告を受けて闘病生活の末に死んでしまった。
 そして、何故か私は前世で自分がプレイしていた乙女ゲームアプリの世界に転生してしまったのだ。
 既に五歳の時には前世の記憶を取り戻していたから、将来、自分がバッドエンドの道を辿る悪役令嬢だと気づいた時はすごく焦った。
 ルナリアは、婚約者であるアロイス王子とヒロイン・ライザの仲に嫉妬し、心を病んでライザを階段から突き落とした挙げ句、婚約破棄されて最終的には未来の王妃への殺人未遂容疑で監獄に収監されてしまう。
 見方によっては『悲劇の令嬢』とも言える役どころだ。
 前世の私は、そんなルナリアに同情していた。
 作中の彼女は好意を伝えるのが下手で、アロイス王子に誤解を与える場面が多く、その所為で破滅してしまったようにも見えた。
 だから、私は今世では精一杯アロイス様に好意を伝えるようにした。
 ……そう、恐らく、本編のルナリアが伝えたかったであろう言葉を代弁するように。
 そうすることで、破滅を回避できるのではないかと考えたのだ。

 とはいえ、前述した通り、私がアロイス様のことを愛しているのは本当だ。
 別に、前世でアロイス王子が推しキャラだったとかそういうことではない。
 ただ、アロイス様はどことなく前世の私の恋人に似ているのだ。
 もちろん、容姿が似ているとかそういうことではなく、ちょっとした仕草とか、癖とか、話し方とか──とにかく、数え切れないほどの共通点がある。
 そんなわけで……気づけば、私はアロイス様に彼の面影を重ねていた。

 アロイス様の態度が急変したのは、今から七年前のことだ。
 私はあの日のことが忘れられず、時々思い出してはしんみりとした気持ちになっていた。


 七年前。
 その日は、『託宣の儀式』が行われる当日だった。
 儀式が終わった後、私は慌ただしく聖堂内を走り回り、アロイス様を探し回っていた。
 託宣の儀式が予定よりも早く終わったので、アッシュフィールド邸でお兄様やお姉様たちと一緒にお茶会をしようということになったのだ。
 けれど、いくら捜しても、アロイス様は見つからなかった。
 結局、アロイス様が戻ってきたのは夕方になってからだった。どこかに出かけていたらしい。
 その時のアロイス様は、何故か生気のない青白い顔をしていたのを覚えている。
 心配になった私は、彼に声をかけた。

「大丈夫ですか? アロイス様。その……顔色が悪いようですが、お加減がよろしくないのでしょうか……?」

 言いながら、私はふらふらと覚束ない足取りで歩くアロイス様の体を支えた。
 すると、アロイス様は鬼のような形相で私の手を振り払い──

「俺に気安く触るな!」

 そう叫び、一人で寝室へと戻ってしまった。
 突然のことに驚いて、私はその場に座り込んでしまった。
 ショックのあまり、止めどなく流れる涙がはらはらと頬を伝う。

 ──今までのアロイス様とは、明らかに違う。

 異変を感じていたけれど、私はその事を誰にも言えなかった。
 その日の夜は、喉が枯れるまでひたすら泣き続けた。
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