47 / 47
ハッピーエンドをつかまえて!
ミリアとリリィのプロローグ
しおりを挟む
あの日から。
私の願いが叶ったあの日から。
私は後悔をしている。
だけど、あの日。何があったのかはよく覚えていない。
だから、今、自分が何を後悔しているのかも、実のところ分からない。
とても大切な人がいたはずで。しかし、思い出すことは叶わない。
けれど大切な何かが確かにそこにはあったのだ。
あの日のことで思い出せるのは、父さんが死んだ。それくらいだった。
気絶した私は、街の人に街の病院まで運んで貰ったらしい。
後日、訳もわからないまま裁判にかけられたが、私の精神の異常性と父さんが行った悪事を考慮して無罪となった。
しかし暫くは魔法が使えないらしかった。
私、いつから魔法が使えるようになったんだっけ。
とても大事なものの筈なのに、何も思い出せない。
あの出来事から、一年ほどが経った。
私は今、頭に病を患っているらしい。
自分では全くそんな気はしていなかった。
しかしお医者さん曰く、それも回復傾向にあるらしいので、病院に通うのは月一の頻度で良くなった。
ちなみに今は、もうあの家は解体されている。
邪悪な物が、既にかなり纏わりついているから、らしい。
今、居住しているのは、保険金で購入した小さな一戸建てだ。
街の端っこに位置していて、落ち着ける雰囲気でかなり良い場所だと思う。
だけど本当に小さくて、一人でもかなり狭さを感じてしまうものだった。
今日は、母さんの命日。
朝ご飯をもぞもぞ食べながら、思考する。
今日はとても大事な日である。が、それ以上にもっと大事なことがある気がした。
やはりそれも、よく思い出せない大事な思い出が絡んでいるのだろうか。
閉じられていたカーテンをシャッと開く。
朝ご飯を食べたとは言ったが、最近は目覚めが悪いのでもうお昼。
その日差しはとても眩しくて、やはり今日は部屋にこもっていようかとも思ってしまう。
けど。まぁ、行くしかないのでそれは我慢我慢。
気怠げに、寝巻きから普段着に着替える。
財布を取り出して、ポケットに仕舞う。
さて準備は整った、と。
思った時だった。
──コンコンコン。
家のドアがノックされる。その音が聞こえた。
誰だろうか、と思いながら私は玄関に向かう。
と、ドアの下の隙間から、何か封筒の様な物が投げ込まれていた。
なるほど。宅配屋だったようだ。
「ありがとうございまーす」
そこにいるかも分からない宅配屋に声を投げ、私はそれを拾った。
中を取り出してみると、どうやら手紙の様だった。
書き出しは『親愛なるミリア・フローレスへ』という物であり。
私に手紙を出す人物って誰だろうと、少し疑問になりながら一行目に目を通す。
『久しぶり。流石に覚えていないかな』
とても綺麗な文字だった。
差出人がわからないのに、心臓がドクンと鳴った。
いや。きっと、心のどこかでこれが誰からの手紙か、理解をしていた。
迷わず次を読み進める。
『あの後、私は神世界に戻って予定通り神罰を受けてしまいました。その際、ミリアの中にある私の血液も抜き取られたから、ミリアが持っている私の記憶って、うっすらとしかないと思うのよね』
あぁ。そうだ。
そうだった。
『けどね。私、エルシー・ベイリーっていう。なんというか、私たち女神の最高管理職的な人に「ごめんなさい」って謝られたの。なんでだと思う?』
女神という響きが、とても懐かしい。
『理由はね。「何もしてやれなかった」から、だって。考えてみればそうだよね。私が凄く苦しんで繰り返してきたのに、なんで今まで何もしてくれなかったんだーっていう。まぁ、その人もかなり忙しかったらしいから、しょうがないって思うしかないけど』
うんうんと、頷きながら目を通す。
『だから、私が受ける神罰もかなり軽いものになった。その罰が「神から人間に降格させる」っていうもので。聞こえは悪いんだけど、でもエルシー・ベイリーはこう言ってくれたの。「人間としてあの街に降りさせます。その代わり、あの少女を絶対に、幸せにさせなさい」って』
心臓の高鳴りが止まらない。
『凄く優しいよね。かなり責任も感じていたんだと思うけど』
じわじわと、何かが私の中から込み上げる。
『まぁだからね。私はこうしてまた、あなたの元にやってきました』
気付けばポタポタと、涙が手紙を濡らしている。
『私のこと覚えてくれなくてもいいよ。これからまた、幸せにさせるから』
目はぼやけて、文字が見れない。
最後の一文。涙を拭って、
『だから、ね。もしあなたがそれで良ければ、ドアを開けて欲しい』
手紙の最後には『あなたの事が大好きな、リリィより』とあった。
私はその手紙を、大切に封筒にしまって、近くに置くと。
靴を履いて、ドアをゆっくり。本当にゆっくりと開いた。
まるで夢を見ている様だった。
けれど。目の前にいた、眩しい光景を見て。
全て現実で、何か報われた様な気さえもしてしまった。
「私は、リリィ。……ミリア、私のこと覚えてる?」
彼女は──リリィは、子供のように意地悪に笑った。
「うん。うん、うん!」
私は泣きながら、何度も頷いた。
一年前の思い出が、沸々と湧いて出る。
リリィだ。私の大好きな、リリィ。
とても大事なあなたのことを、私はどうして忘れていたのだろう。
あぁ。でも、私たちは会えたのだ。
もう忘れない。絶対に、忘れない。
忘れることなんて出来ない。
私のこの決意は、きっと嘘にはならない。
もう忘れてしまうような事なんて、起こり得るはずがないのだから。
私は、溢れんばかりの想いを、ハグでリリィにぶつける。
「うっ──リリィっ。リ、リリィ……。うぅ……」
だらしなく泣きじゃくる私を、リリィは優しく抱擁した。
「これからずっと一緒にいようね」
「うんっ。……ずっとずっと、一緒だから」
「……そういえば私、魔力とかほとんど無くなっちゃったんだよね」
「そんなこと、気にしないよ。……それ以上に、本当に良かった」
「うん。良かった」
「……あぁもう。なんていえばいいのか。色々と想いが溢れ出しちゃって、凄く言いたいことがあるのに、何も言えないよぉ……」
「今はそれでいいよ」
「……ん。そうだよね」
私は泣き声を更に大にして、しばらくこのままだった。
私はずっと、大好きだとリリィに伝えていた。
けれど涙は止まらずに、枯れるまで流れっぱなしだった。
暖かい。
とてもリリィは暖かい。
全てが暖かい。
何もかもが暖かい。
私の中の、氷の様な成分が溶かされていくのを感じる。
昨日までの私は、とても暗かったのだと思わせてくれる。
私、本当にリリィが大好きだ。
その想いが、明るい未来の想像をさせてくれて。
これからどうなっていくのだろうと思う。
一緒に暮らして、楽しい毎日を過ごしていくのだろうか。
それなら、この小さな家も新しく買い替えないといけないのかな。
なんて、楽しいことで頭が支配される。希望が膨れて、妄想も膨れる。
でもそれは、結局は分からなくて不確実で。
だけど。言えることが、一つだけある。
今の私は、幸せだ。
~了~
私の願いが叶ったあの日から。
私は後悔をしている。
だけど、あの日。何があったのかはよく覚えていない。
だから、今、自分が何を後悔しているのかも、実のところ分からない。
とても大切な人がいたはずで。しかし、思い出すことは叶わない。
けれど大切な何かが確かにそこにはあったのだ。
あの日のことで思い出せるのは、父さんが死んだ。それくらいだった。
気絶した私は、街の人に街の病院まで運んで貰ったらしい。
後日、訳もわからないまま裁判にかけられたが、私の精神の異常性と父さんが行った悪事を考慮して無罪となった。
しかし暫くは魔法が使えないらしかった。
私、いつから魔法が使えるようになったんだっけ。
とても大事なものの筈なのに、何も思い出せない。
あの出来事から、一年ほどが経った。
私は今、頭に病を患っているらしい。
自分では全くそんな気はしていなかった。
しかしお医者さん曰く、それも回復傾向にあるらしいので、病院に通うのは月一の頻度で良くなった。
ちなみに今は、もうあの家は解体されている。
邪悪な物が、既にかなり纏わりついているから、らしい。
今、居住しているのは、保険金で購入した小さな一戸建てだ。
街の端っこに位置していて、落ち着ける雰囲気でかなり良い場所だと思う。
だけど本当に小さくて、一人でもかなり狭さを感じてしまうものだった。
今日は、母さんの命日。
朝ご飯をもぞもぞ食べながら、思考する。
今日はとても大事な日である。が、それ以上にもっと大事なことがある気がした。
やはりそれも、よく思い出せない大事な思い出が絡んでいるのだろうか。
閉じられていたカーテンをシャッと開く。
朝ご飯を食べたとは言ったが、最近は目覚めが悪いのでもうお昼。
その日差しはとても眩しくて、やはり今日は部屋にこもっていようかとも思ってしまう。
けど。まぁ、行くしかないのでそれは我慢我慢。
気怠げに、寝巻きから普段着に着替える。
財布を取り出して、ポケットに仕舞う。
さて準備は整った、と。
思った時だった。
──コンコンコン。
家のドアがノックされる。その音が聞こえた。
誰だろうか、と思いながら私は玄関に向かう。
と、ドアの下の隙間から、何か封筒の様な物が投げ込まれていた。
なるほど。宅配屋だったようだ。
「ありがとうございまーす」
そこにいるかも分からない宅配屋に声を投げ、私はそれを拾った。
中を取り出してみると、どうやら手紙の様だった。
書き出しは『親愛なるミリア・フローレスへ』という物であり。
私に手紙を出す人物って誰だろうと、少し疑問になりながら一行目に目を通す。
『久しぶり。流石に覚えていないかな』
とても綺麗な文字だった。
差出人がわからないのに、心臓がドクンと鳴った。
いや。きっと、心のどこかでこれが誰からの手紙か、理解をしていた。
迷わず次を読み進める。
『あの後、私は神世界に戻って予定通り神罰を受けてしまいました。その際、ミリアの中にある私の血液も抜き取られたから、ミリアが持っている私の記憶って、うっすらとしかないと思うのよね』
あぁ。そうだ。
そうだった。
『けどね。私、エルシー・ベイリーっていう。なんというか、私たち女神の最高管理職的な人に「ごめんなさい」って謝られたの。なんでだと思う?』
女神という響きが、とても懐かしい。
『理由はね。「何もしてやれなかった」から、だって。考えてみればそうだよね。私が凄く苦しんで繰り返してきたのに、なんで今まで何もしてくれなかったんだーっていう。まぁ、その人もかなり忙しかったらしいから、しょうがないって思うしかないけど』
うんうんと、頷きながら目を通す。
『だから、私が受ける神罰もかなり軽いものになった。その罰が「神から人間に降格させる」っていうもので。聞こえは悪いんだけど、でもエルシー・ベイリーはこう言ってくれたの。「人間としてあの街に降りさせます。その代わり、あの少女を絶対に、幸せにさせなさい」って』
心臓の高鳴りが止まらない。
『凄く優しいよね。かなり責任も感じていたんだと思うけど』
じわじわと、何かが私の中から込み上げる。
『まぁだからね。私はこうしてまた、あなたの元にやってきました』
気付けばポタポタと、涙が手紙を濡らしている。
『私のこと覚えてくれなくてもいいよ。これからまた、幸せにさせるから』
目はぼやけて、文字が見れない。
最後の一文。涙を拭って、
『だから、ね。もしあなたがそれで良ければ、ドアを開けて欲しい』
手紙の最後には『あなたの事が大好きな、リリィより』とあった。
私はその手紙を、大切に封筒にしまって、近くに置くと。
靴を履いて、ドアをゆっくり。本当にゆっくりと開いた。
まるで夢を見ている様だった。
けれど。目の前にいた、眩しい光景を見て。
全て現実で、何か報われた様な気さえもしてしまった。
「私は、リリィ。……ミリア、私のこと覚えてる?」
彼女は──リリィは、子供のように意地悪に笑った。
「うん。うん、うん!」
私は泣きながら、何度も頷いた。
一年前の思い出が、沸々と湧いて出る。
リリィだ。私の大好きな、リリィ。
とても大事なあなたのことを、私はどうして忘れていたのだろう。
あぁ。でも、私たちは会えたのだ。
もう忘れない。絶対に、忘れない。
忘れることなんて出来ない。
私のこの決意は、きっと嘘にはならない。
もう忘れてしまうような事なんて、起こり得るはずがないのだから。
私は、溢れんばかりの想いを、ハグでリリィにぶつける。
「うっ──リリィっ。リ、リリィ……。うぅ……」
だらしなく泣きじゃくる私を、リリィは優しく抱擁した。
「これからずっと一緒にいようね」
「うんっ。……ずっとずっと、一緒だから」
「……そういえば私、魔力とかほとんど無くなっちゃったんだよね」
「そんなこと、気にしないよ。……それ以上に、本当に良かった」
「うん。良かった」
「……あぁもう。なんていえばいいのか。色々と想いが溢れ出しちゃって、凄く言いたいことがあるのに、何も言えないよぉ……」
「今はそれでいいよ」
「……ん。そうだよね」
私は泣き声を更に大にして、しばらくこのままだった。
私はずっと、大好きだとリリィに伝えていた。
けれど涙は止まらずに、枯れるまで流れっぱなしだった。
暖かい。
とてもリリィは暖かい。
全てが暖かい。
何もかもが暖かい。
私の中の、氷の様な成分が溶かされていくのを感じる。
昨日までの私は、とても暗かったのだと思わせてくれる。
私、本当にリリィが大好きだ。
その想いが、明るい未来の想像をさせてくれて。
これからどうなっていくのだろうと思う。
一緒に暮らして、楽しい毎日を過ごしていくのだろうか。
それなら、この小さな家も新しく買い替えないといけないのかな。
なんて、楽しいことで頭が支配される。希望が膨れて、妄想も膨れる。
でもそれは、結局は分からなくて不確実で。
だけど。言えることが、一つだけある。
今の私は、幸せだ。
~了~
1
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、娘の幼稚園の親子イベントで娘の友達と一緒にいた千春と出会う。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになると思うのでご安心ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

檸檬色に染まる泉
鈴懸 嶺
青春
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性”
女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。
雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が……
手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が……
いま……私の目の前ににいる。
奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……

身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる