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あと、二日
リリィは私を犯したい?
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家に帰り着く頃には、太陽は暗い赤になっていた。
時計を見れば、もう七時を回っていた。
庭園にいたのが何時からかは分からないけど、二時間くらいはいたのだと思うと、かなりあそこで時間を使ってしまったらしい。
それほど沢山の時間を、リリィとのキスに費やしてしまったのだと思うと、少しびっくりした。けど、本当に少しだけだった。
晩御飯はと言うと、あまりお腹は空いていなかったので食べなかった。
それもそのはず、お昼にリリィの作ってくれたご飯をたらふく食べたからね。
未だ私は満たされたままだった。
早いけど、今日はもう寝ることにした。
明日は朝から墓参りに行かないといけないから。
と言っても、行くのは朝の十一時頃。
今日起きたのがすっごく遅かったので、保険的な感じで早く寝ることにした。
明日のその時間はリリィと関われないけれど。母さんの事も大事だから。
そういえば、父さんも多分行くんだよね? 昨日のあの感じからすると。
あの感じで墓参り行きませんーとか言われたら、今以上に幻滅できる自信がある。
そんなこんなで、私は風呂に入り、ベッドに潜った。
リリィは隣にいない。お風呂の最中だ。
そう。今日は私の方が先にお風呂を頂いた。
天井を見上げながら、私は今日のことについて振り返る。
今日は、あっという間な一日だった。
だけど。沢山の思い出ができた。
ネックレスも買ったし、いろんなところも回れたし。(たった三箇所)
あ、ちなみにネックレスは箱の中に閉まって大切に保管している。
楽しかった。すっごく、楽しかった。嬉しかった。
だけど、そう思う度に。悲しい実感をしてしまう。
今だけを見ようって決めたのに、それは最初から不可能だったのかもしれない。
──明日で、最後。
どうしても、その思考が邪魔をする。
最後だからこそ、今を大事にしようって決めたはずなのに。
なんでだろう。やっぱり、別れは悲しいよ。
さよならの理由を教えて欲しいのに、教えてくれないし。
理由は『私の悲しむ顔を見たくないから』で。
実際その通りだって昨日は納得もした。
だから。それで良いのかな、とは思う。
思うんだけど、やっぱり気になるじゃん。
キスするくらいの好きな相手と、どうしても離れないといけないって。
それほどまでに絶大な、抗えないほどの理由を。
気になる。気になる……けど。
教えて欲しいと懇願しても。リリィは教えてくれないのだろう。
最終的には、やはり。この結論だった。
「……はぁ」
色々な物が詰まってる様な、重たい溜息が吐き出る。
やっぱり。悲しむなんて、ダメなのかな?
だって、一瞬だ。
何もかも一瞬だ。
出会いも、楽しい日々も、別れも。
だから悲しむのは、あまり良い時間の使い方とは言えない。
未来はすぐにやってきて、いつの間にか過去になる。
いや、やってくるのは、未来では無く現在なのかな。
未来は不確実だから。確実なのは、過去と現在。それのみだから。
私が未来にできることは、良い未来を願うことだけ。
というか、帰り道でそんなことを考えてたっけ。
未来が上手くいくようにって。
閑話休題。
少し哲学ぽくなって逸れたので話を本来の道に戻すと。
一瞬に過ぎる時間は、取り返しが聞くものでもなんでもなくて。
だからこそ、大切にしないといけない。心の奥底からそう思う。
なのに。不確実な未来を考えちゃって、悲しんでいる。
それっておかしいこと? 悲しむのはだめ?
──分からない。
悲しむのが正解とも言えない。
悲しまなくて、リリィとの時間に費やすのが正しいとも言い切れない。
だって。どうしても、悲しいって思ってしまうから。
ダメだな。私。
一人でいるせいかも知れない。
私の思考は、矛盾している気がする。
悲しみたくない。でも、悲しんでしまう。
リリィとの時間を大切にしたい。なのに悲しんでしまう。
だけど、悲しむのが間違いではないと、私はそう思ってるんだ。
……って、めちゃくちゃに矛盾しているじゃん。
……考えるの、やめようか。
明日の朝には、きっと頭もスッキリしているのだろう。
そう信じて、私は毛布を深く被った。
数分経過した。
眠れそうにない。
部屋の灯りが点いてるからだろう。
リリィが部屋にきたら、消して貰おう。
そう思考して、もう少しだけ後の事だった。
──ガチャ。
ドアノブが回され、ドアが開く音。
その音に引っ張られるように、私は毛布から少しだけ顔を出した。
濡れネズミの様に、髪をぐしゃぐしゃにしたリリィがいて。
でも、パジャマは普通に着ていて。
髪からポタポタと、パジャマに水が滴っているのが分かる。
なんだか、いつもと違った美しさがある。濡れた美人ってかっこ可愛い。
そんなリリィは、こちらに歩みを寄せてきていた。
リリィの顔を見ると、少しだけ心が安定した心地になる。
やっぱり一人でいると、余計なことばっかり考えてしまう。
リリィがいれば、リリィを見るだけ良いから。
「髪、もうちょっと拭いたら?」
微笑みながら、リリィに投げる。
だが、リリィは表情一つ変えない。
「……?」
私の隣まできたかと思えば、
「わっ──!」
私と重なるように、その身体を合わせてきた。
顔までも重なりそうになっていたので、少しだけ避けた。
毛布を緩衝材としなければ、完全に抱き合ってるって感じの構図だ。
リリィの頭がちょうど真横で触れていて、冷めた湯の感触が肌にする。
「ど、どうしたの?」
驚いた。
けど、リリィの驚く行動なんていっぱい見てきたし、その驚きも一瞬で。
少し動悸が落ち着いたところで、私は問うた。
「……私、湯船に揺られながら、いろいろ考えていて」
布団に吸収されたリリィ声はかなり小さくなっていた。
とても不安な何かが、その言葉の中には詰まっていて。
続く言葉も同じように。
「……悲しいの。ミリアとの別れが。……昨日よりも、その想いが凄く強くなってる」
「……うん」
リリィも、私と似たようなことを考えていたらしい。
私と同じように一人になると、そういうこと考えちゃうのかな。
「だから、今日はずっとくっ付いて寝ようかな」
「昨日もだいぶくっ付いてましたけどね⁉︎」
昨日みたいに悲しい話の流れに行くかと思ってたから、思わず大きな声で突っ込んでしまった。
リリィはクスッと笑いながら、倒していた身体を起こした。
「大きな声出さないで」
「す。すみません」
謝ると、リリィは一旦ベッドから降り、私の横に滑り込むように侵入してきた。
ピトと、私の身体に密着してくる。
今度はほっぺたに、濡れた髪の毛が触れる。
「ミリア、こっち向いて」
なんだか、いつもそんなこと言われてる気がする。
「……りょーかい」
言われた通り、身体を左に傾ける。
リリィもまた、私の方に身体を向けてきていた。
「キスするの?」
「それは後で」
「いや、後でするんかい」
「うん。……えと、今はね」
言うと、リリィは私をぎゅっと抱きしめてきた。
密着していた身体が、さらに密着度を増す。
「こうさせて」
私もなんとなしに抱き返しながら、同時に問いを返す。
「このまま寝る感じ?」
「うん」
「思った以上に、くっ付いて寝るんだ」
「その方がいいじゃん」
「……まぁね」
「うん」
『まぁね』っていう、ちょっと恥ずかしい返しをしたけど、実際その通りだ。
こうやってくっ付いていると、嫌なことも考えることができなくなる。
明日の終わりまで、ずっとこうするのもアリだなって。
もちろん墓参りには行くから、その後で。ずっと。
……まぁ。明日は祭りという楽しいことがあるから。
それをリリィと楽しむ方が、いいのかな。
なんて。考えていると、呼吸音が耳に届く。
「ミリアって、凄く優しい」
耳に囁く、リリィの声だ。
耳元が震えて、それが全身に伝わりちょっとビクってなる。
にしてもその内容が内容で、顔が赤くなってしまった。
いや、優しいってことは昨日に何回か言われたけどね。
なんというか、とーっても気持ちの篭もった言い方だったから。
「私、優しい?」
「うん。とても。……その優しさに触れる度に、好きってなる」
「……ん」
「うん。……あ、耳赤くなってる」
リリィは私の恥ずかしがってる様子を、クスクスと笑いながら指摘してくる。
「からかわないでよ! これは耳赤くなる!」
「ごめんね。……でも、本当に、優しいの」
「ありがとうありがとう! はい! 今日は寝よう!」
「……うん。分かった」
あっさりと私の大声に頷いたリリィは、私から離れて、灯りを消しにいった。
「あ、ありがとう」と声を飛ばしたら、リリィは「いいよ」と軽く手を振った。
部屋が一瞬で暗くなり、前も見えなくなる。
リリィは私の横に舞い戻って、同じような体勢でまた抱き着いてきた。
「今日はこれで寝る。いい?」
「いいよ」
私もあっさりと頷く。
「あ。でも、寝る前に」
そう言ってきて。
再びリリィは距離を置くと。
その直後に、キスをしてきた。
ちゅって音が聞こえて、すぐに唇は離れる。離れて、すぐに私にくっ付く。
今日いっぱいしたキスだけど、ベッドでするってだけで、色々と違う。
違わないのは、慣れないという点だけ。ずっと、恥ずかしい。
けれどリリィは至って冷静で、次にはぽそりとこう零した。
「このまま犯したい」
ギリギリ耳に届いた声。
その言葉は昨日も聞いた言葉だと理解し、聞き返す。
「あ、それ、朝言ってきたやつ」
「……聞こえた?」
一拍置いて、少し魔の抜けたリリィの声がした。
リリィ自身は私の耳に届ける気が無かったらしい。
確かに、とても小さな声だったと思う。
「こんな近くだもん。うっすらだけど聞こえたよ」
「……あー。じゃあ、聞かなかったことにして」
「えー。なんでー? ……あ、そうだ。意味くらい教えてくれてもいいんじゃない?」
「引かれそうだから。やだ」
んー。引かれそう……って。
この流れで言った事だと考えると、ニュアンス的になんとなーく分かった気がする?
いや、分かんない。分かんない。
「教えて! 引かないから!」
「んー」
溜息一つ。
「分かった」と一言。
「引かないで」と加えてきた。
「……えっとね。……ミリアのことをめちゃくちゃにしたい。みたいな、そんな意味だよ。……はい引かれた」
「引いてないから!」
どうして、こう。
引かれると思い込んでいるのかな。
……私が、リリィのことを好きって伝えてないから。か。そりゃそうだ。
犯すっていう言葉の意味的に、私に言いたくないのも分かる気がする。
めちゃくちゃにって、まぁ、めちゃくちゃにしたいってことだろうけど。
めちゃくちゃっていうのは、そう。めちゃくちゃっていうことで。
……うん。言葉が放つ雰囲気は理解できる。
リリィの顔は見れないけれど、身体の熱が凄く伝わってきているから。
「じゃあどう思ったの? 今の聞いて」
リリィは少しだけ嬉しそうに声を上擦らせながら、私に問うた。
「え、いやー。なんというか。引かないし、別にしてもいいし。それよりも、昨日の朝? いきなりそんなことを言ってきた事の方が──」
「え、していいの? 犯していいの?」
私が言いかけていると、リリィは驚いたように挟まってきた。
「うん。いいよ? リリィだし」
「……そっか」
されること言ったならなんだろう。
めちゃくちゃにキスしてきたり──とか、そんなことなんだろうけど。
リリィに対して抵抗をするのは、なんだか今更な感じがあるような気がして。
「どうぞ」
言いながら、私はリリィを強く抱きしめてみた。
「……え。本当にいいの?」
「うん」
「……なんか、ミリア。やっぱり変わったよ」
「そりゃ。変わるでしょうよ」
「……そっか。じゃあ、失礼する」
その言葉に、お互い身体の束縛を解く。
密着部分に空気が触れ、少しだけそれがひんやりとした。
何をされるのかよく分かっていなかったので、私は目を瞑る。
私の唇にリリィの感触が触れて、離れる。
そして──。
「…………」
──あれ? 続きが来ない。
もっとキスしてくると思ったんだけど。
目をうっすら開ける。
リリィは目の前で、私に微笑んでいた。
「今日はこれで終わり」
「え、なんで?」
一文字目に落胆の様子が篭っていたかなと思い、問いの言葉は少し明るくした。
だけど、本当になんで?
「もっとしたかった?」
「なるほど、私に意地悪する作戦か! さぁ、今日は寝ましょう!」
「うん。続きは、明日の夜ね」
「……う、ん」
明日の夜は別れがある。
そんなことを言おうとしたけど、飲み込んだ。
言ったら、お互いに嫌だよね。
「……」
布団が動く音と共に、リリィは私を抱いてくる。
朝には布団が汗まみれになってそう。
なんて思いながら、いつものように私も腕を回す。
「おやすみ、ミリア」
「……リリィ、おやすみなさい」
私は無意識に、その言葉に想いを込めた。
これがきっと『おやすみ』を言う最後だから。
「リリィ、おやすみ」
何だかその事実が惜しく思えて、私はもう一回おやすみを伝えた。
「おやすみ。ミリア、大好きだよ」
「……ありがと」
私も『好き』って言えば良かったのかもしれない。
それに気付いた時には、リリィは細い寝息を立てていた。
リリィの乾いてきた髪になんと無しに手櫛を通してみる。
起きないことを確認して、私は耳元で囁いた。
「……好き、だよ。私も」
臆病なその声に、リリィの返事は無かった。
明日は、真っ向に伝えられたらいいなって。そう思う。
時計を見れば、もう七時を回っていた。
庭園にいたのが何時からかは分からないけど、二時間くらいはいたのだと思うと、かなりあそこで時間を使ってしまったらしい。
それほど沢山の時間を、リリィとのキスに費やしてしまったのだと思うと、少しびっくりした。けど、本当に少しだけだった。
晩御飯はと言うと、あまりお腹は空いていなかったので食べなかった。
それもそのはず、お昼にリリィの作ってくれたご飯をたらふく食べたからね。
未だ私は満たされたままだった。
早いけど、今日はもう寝ることにした。
明日は朝から墓参りに行かないといけないから。
と言っても、行くのは朝の十一時頃。
今日起きたのがすっごく遅かったので、保険的な感じで早く寝ることにした。
明日のその時間はリリィと関われないけれど。母さんの事も大事だから。
そういえば、父さんも多分行くんだよね? 昨日のあの感じからすると。
あの感じで墓参り行きませんーとか言われたら、今以上に幻滅できる自信がある。
そんなこんなで、私は風呂に入り、ベッドに潜った。
リリィは隣にいない。お風呂の最中だ。
そう。今日は私の方が先にお風呂を頂いた。
天井を見上げながら、私は今日のことについて振り返る。
今日は、あっという間な一日だった。
だけど。沢山の思い出ができた。
ネックレスも買ったし、いろんなところも回れたし。(たった三箇所)
あ、ちなみにネックレスは箱の中に閉まって大切に保管している。
楽しかった。すっごく、楽しかった。嬉しかった。
だけど、そう思う度に。悲しい実感をしてしまう。
今だけを見ようって決めたのに、それは最初から不可能だったのかもしれない。
──明日で、最後。
どうしても、その思考が邪魔をする。
最後だからこそ、今を大事にしようって決めたはずなのに。
なんでだろう。やっぱり、別れは悲しいよ。
さよならの理由を教えて欲しいのに、教えてくれないし。
理由は『私の悲しむ顔を見たくないから』で。
実際その通りだって昨日は納得もした。
だから。それで良いのかな、とは思う。
思うんだけど、やっぱり気になるじゃん。
キスするくらいの好きな相手と、どうしても離れないといけないって。
それほどまでに絶大な、抗えないほどの理由を。
気になる。気になる……けど。
教えて欲しいと懇願しても。リリィは教えてくれないのだろう。
最終的には、やはり。この結論だった。
「……はぁ」
色々な物が詰まってる様な、重たい溜息が吐き出る。
やっぱり。悲しむなんて、ダメなのかな?
だって、一瞬だ。
何もかも一瞬だ。
出会いも、楽しい日々も、別れも。
だから悲しむのは、あまり良い時間の使い方とは言えない。
未来はすぐにやってきて、いつの間にか過去になる。
いや、やってくるのは、未来では無く現在なのかな。
未来は不確実だから。確実なのは、過去と現在。それのみだから。
私が未来にできることは、良い未来を願うことだけ。
というか、帰り道でそんなことを考えてたっけ。
未来が上手くいくようにって。
閑話休題。
少し哲学ぽくなって逸れたので話を本来の道に戻すと。
一瞬に過ぎる時間は、取り返しが聞くものでもなんでもなくて。
だからこそ、大切にしないといけない。心の奥底からそう思う。
なのに。不確実な未来を考えちゃって、悲しんでいる。
それっておかしいこと? 悲しむのはだめ?
──分からない。
悲しむのが正解とも言えない。
悲しまなくて、リリィとの時間に費やすのが正しいとも言い切れない。
だって。どうしても、悲しいって思ってしまうから。
ダメだな。私。
一人でいるせいかも知れない。
私の思考は、矛盾している気がする。
悲しみたくない。でも、悲しんでしまう。
リリィとの時間を大切にしたい。なのに悲しんでしまう。
だけど、悲しむのが間違いではないと、私はそう思ってるんだ。
……って、めちゃくちゃに矛盾しているじゃん。
……考えるの、やめようか。
明日の朝には、きっと頭もスッキリしているのだろう。
そう信じて、私は毛布を深く被った。
数分経過した。
眠れそうにない。
部屋の灯りが点いてるからだろう。
リリィが部屋にきたら、消して貰おう。
そう思考して、もう少しだけ後の事だった。
──ガチャ。
ドアノブが回され、ドアが開く音。
その音に引っ張られるように、私は毛布から少しだけ顔を出した。
濡れネズミの様に、髪をぐしゃぐしゃにしたリリィがいて。
でも、パジャマは普通に着ていて。
髪からポタポタと、パジャマに水が滴っているのが分かる。
なんだか、いつもと違った美しさがある。濡れた美人ってかっこ可愛い。
そんなリリィは、こちらに歩みを寄せてきていた。
リリィの顔を見ると、少しだけ心が安定した心地になる。
やっぱり一人でいると、余計なことばっかり考えてしまう。
リリィがいれば、リリィを見るだけ良いから。
「髪、もうちょっと拭いたら?」
微笑みながら、リリィに投げる。
だが、リリィは表情一つ変えない。
「……?」
私の隣まできたかと思えば、
「わっ──!」
私と重なるように、その身体を合わせてきた。
顔までも重なりそうになっていたので、少しだけ避けた。
毛布を緩衝材としなければ、完全に抱き合ってるって感じの構図だ。
リリィの頭がちょうど真横で触れていて、冷めた湯の感触が肌にする。
「ど、どうしたの?」
驚いた。
けど、リリィの驚く行動なんていっぱい見てきたし、その驚きも一瞬で。
少し動悸が落ち着いたところで、私は問うた。
「……私、湯船に揺られながら、いろいろ考えていて」
布団に吸収されたリリィ声はかなり小さくなっていた。
とても不安な何かが、その言葉の中には詰まっていて。
続く言葉も同じように。
「……悲しいの。ミリアとの別れが。……昨日よりも、その想いが凄く強くなってる」
「……うん」
リリィも、私と似たようなことを考えていたらしい。
私と同じように一人になると、そういうこと考えちゃうのかな。
「だから、今日はずっとくっ付いて寝ようかな」
「昨日もだいぶくっ付いてましたけどね⁉︎」
昨日みたいに悲しい話の流れに行くかと思ってたから、思わず大きな声で突っ込んでしまった。
リリィはクスッと笑いながら、倒していた身体を起こした。
「大きな声出さないで」
「す。すみません」
謝ると、リリィは一旦ベッドから降り、私の横に滑り込むように侵入してきた。
ピトと、私の身体に密着してくる。
今度はほっぺたに、濡れた髪の毛が触れる。
「ミリア、こっち向いて」
なんだか、いつもそんなこと言われてる気がする。
「……りょーかい」
言われた通り、身体を左に傾ける。
リリィもまた、私の方に身体を向けてきていた。
「キスするの?」
「それは後で」
「いや、後でするんかい」
「うん。……えと、今はね」
言うと、リリィは私をぎゅっと抱きしめてきた。
密着していた身体が、さらに密着度を増す。
「こうさせて」
私もなんとなしに抱き返しながら、同時に問いを返す。
「このまま寝る感じ?」
「うん」
「思った以上に、くっ付いて寝るんだ」
「その方がいいじゃん」
「……まぁね」
「うん」
『まぁね』っていう、ちょっと恥ずかしい返しをしたけど、実際その通りだ。
こうやってくっ付いていると、嫌なことも考えることができなくなる。
明日の終わりまで、ずっとこうするのもアリだなって。
もちろん墓参りには行くから、その後で。ずっと。
……まぁ。明日は祭りという楽しいことがあるから。
それをリリィと楽しむ方が、いいのかな。
なんて。考えていると、呼吸音が耳に届く。
「ミリアって、凄く優しい」
耳に囁く、リリィの声だ。
耳元が震えて、それが全身に伝わりちょっとビクってなる。
にしてもその内容が内容で、顔が赤くなってしまった。
いや、優しいってことは昨日に何回か言われたけどね。
なんというか、とーっても気持ちの篭もった言い方だったから。
「私、優しい?」
「うん。とても。……その優しさに触れる度に、好きってなる」
「……ん」
「うん。……あ、耳赤くなってる」
リリィは私の恥ずかしがってる様子を、クスクスと笑いながら指摘してくる。
「からかわないでよ! これは耳赤くなる!」
「ごめんね。……でも、本当に、優しいの」
「ありがとうありがとう! はい! 今日は寝よう!」
「……うん。分かった」
あっさりと私の大声に頷いたリリィは、私から離れて、灯りを消しにいった。
「あ、ありがとう」と声を飛ばしたら、リリィは「いいよ」と軽く手を振った。
部屋が一瞬で暗くなり、前も見えなくなる。
リリィは私の横に舞い戻って、同じような体勢でまた抱き着いてきた。
「今日はこれで寝る。いい?」
「いいよ」
私もあっさりと頷く。
「あ。でも、寝る前に」
そう言ってきて。
再びリリィは距離を置くと。
その直後に、キスをしてきた。
ちゅって音が聞こえて、すぐに唇は離れる。離れて、すぐに私にくっ付く。
今日いっぱいしたキスだけど、ベッドでするってだけで、色々と違う。
違わないのは、慣れないという点だけ。ずっと、恥ずかしい。
けれどリリィは至って冷静で、次にはぽそりとこう零した。
「このまま犯したい」
ギリギリ耳に届いた声。
その言葉は昨日も聞いた言葉だと理解し、聞き返す。
「あ、それ、朝言ってきたやつ」
「……聞こえた?」
一拍置いて、少し魔の抜けたリリィの声がした。
リリィ自身は私の耳に届ける気が無かったらしい。
確かに、とても小さな声だったと思う。
「こんな近くだもん。うっすらだけど聞こえたよ」
「……あー。じゃあ、聞かなかったことにして」
「えー。なんでー? ……あ、そうだ。意味くらい教えてくれてもいいんじゃない?」
「引かれそうだから。やだ」
んー。引かれそう……って。
この流れで言った事だと考えると、ニュアンス的になんとなーく分かった気がする?
いや、分かんない。分かんない。
「教えて! 引かないから!」
「んー」
溜息一つ。
「分かった」と一言。
「引かないで」と加えてきた。
「……えっとね。……ミリアのことをめちゃくちゃにしたい。みたいな、そんな意味だよ。……はい引かれた」
「引いてないから!」
どうして、こう。
引かれると思い込んでいるのかな。
……私が、リリィのことを好きって伝えてないから。か。そりゃそうだ。
犯すっていう言葉の意味的に、私に言いたくないのも分かる気がする。
めちゃくちゃにって、まぁ、めちゃくちゃにしたいってことだろうけど。
めちゃくちゃっていうのは、そう。めちゃくちゃっていうことで。
……うん。言葉が放つ雰囲気は理解できる。
リリィの顔は見れないけれど、身体の熱が凄く伝わってきているから。
「じゃあどう思ったの? 今の聞いて」
リリィは少しだけ嬉しそうに声を上擦らせながら、私に問うた。
「え、いやー。なんというか。引かないし、別にしてもいいし。それよりも、昨日の朝? いきなりそんなことを言ってきた事の方が──」
「え、していいの? 犯していいの?」
私が言いかけていると、リリィは驚いたように挟まってきた。
「うん。いいよ? リリィだし」
「……そっか」
されること言ったならなんだろう。
めちゃくちゃにキスしてきたり──とか、そんなことなんだろうけど。
リリィに対して抵抗をするのは、なんだか今更な感じがあるような気がして。
「どうぞ」
言いながら、私はリリィを強く抱きしめてみた。
「……え。本当にいいの?」
「うん」
「……なんか、ミリア。やっぱり変わったよ」
「そりゃ。変わるでしょうよ」
「……そっか。じゃあ、失礼する」
その言葉に、お互い身体の束縛を解く。
密着部分に空気が触れ、少しだけそれがひんやりとした。
何をされるのかよく分かっていなかったので、私は目を瞑る。
私の唇にリリィの感触が触れて、離れる。
そして──。
「…………」
──あれ? 続きが来ない。
もっとキスしてくると思ったんだけど。
目をうっすら開ける。
リリィは目の前で、私に微笑んでいた。
「今日はこれで終わり」
「え、なんで?」
一文字目に落胆の様子が篭っていたかなと思い、問いの言葉は少し明るくした。
だけど、本当になんで?
「もっとしたかった?」
「なるほど、私に意地悪する作戦か! さぁ、今日は寝ましょう!」
「うん。続きは、明日の夜ね」
「……う、ん」
明日の夜は別れがある。
そんなことを言おうとしたけど、飲み込んだ。
言ったら、お互いに嫌だよね。
「……」
布団が動く音と共に、リリィは私を抱いてくる。
朝には布団が汗まみれになってそう。
なんて思いながら、いつものように私も腕を回す。
「おやすみ、ミリア」
「……リリィ、おやすみなさい」
私は無意識に、その言葉に想いを込めた。
これがきっと『おやすみ』を言う最後だから。
「リリィ、おやすみ」
何だかその事実が惜しく思えて、私はもう一回おやすみを伝えた。
「おやすみ。ミリア、大好きだよ」
「……ありがと」
私も『好き』って言えば良かったのかもしれない。
それに気付いた時には、リリィは細い寝息を立てていた。
リリィの乾いてきた髪になんと無しに手櫛を通してみる。
起きないことを確認して、私は耳元で囁いた。
「……好き、だよ。私も」
臆病なその声に、リリィの返事は無かった。
明日は、真っ向に伝えられたらいいなって。そう思う。
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