ハッピーエンドをつかまえて!

沢谷 暖日

文字の大きさ
上 下
22 / 47
あと、三日

過去最大の危機?

しおりを挟む
 その後。
 私の恥ずかしさが限界が訪れ「なんか恥ずかしいねー」って、その場は逃れた。
 狭い路地裏を抜けて、普通に家へと帰り着き。
 「お風呂、先に入ってていーよー」と言って、私は自身の部屋へと戻った。
 そこまでは、別に良かった。
 ……しかし、そこからが問題だった。

「……どうする。どうするんだよ、私」

 私は、過去最大の危機に直面していた。
 それは『これからのリリィとの接し方について』。
 間違いなく、これは過去最大の危機。

 家に帰ったらやっぱり冷静になったので、先のことを思い返していたけど──。
 …………もう。なんで、あんな事を……。
 ずっとそんなテンションだった。

「あ~~~~!」

 枕に顔を埋めてうめく。

 何が『思い出の上書き(チュッ)』だよ……。
 痛すぎるし、めっちゃキスしたい人みたいじゃないか、私……。
 実際したかったのだろうけど……。
 いや、なんでしたいんだよ!
 そりゃ、リリィを悲しませないようにだよ!
 その方法がキスって自意識過剰すぎんだよ!
 自分のキスに、それ程の価値があるって思い込んでるわけだからさ!
 それくらい分かってるよ! あの時もそう思ってたよ!

「……いっそ、殺してくれ」

 リリィは、あの時嬉しそうにしてくれた。けどね。
 今の私と同じで、こんな風に後になってから『思い返してみると、ミリアのあの台詞は凄く恥ずかしかったなぁ』ってなってるかもしれない。
 やばいよ。やばいよ、私。
 キスしたら絶対、こんな複雑な心境になるって……わかっていたはずなのに。
 実際、こういう状況になってみると、もう生きたまま死んでいるみたいだ。
 生き霊だ。生き霊。(適当)

 あ。まって。
 私、『これからもずっと一緒にいて』みたいなこと言ってなかった?
 本心ではあったのだけど、これも色々とやばい。
 今日の私は本当にやばいしか言ってない。やばい。
 あの時は勢いに任せすぎて、今更ながら後悔している。
 まぁ、だけど? うまくいったから、別にいいよね?
 いや、言う程うまくいったのだろうか。
 分からない。分からなすぎる。
 もうちょっと、良い方法があったのかもしれない……。しかし。
 多分、あの時の自分にはそれ以外の方法は思いつかなかったし、できなかった。と思う。
 そう考えると、別にもうあんな恥ずかしい言葉を並べたのは正解だったのかもしれない、と結局ここに行き着く。

「……しょうがない……のか」

 しょうがないのか?
 けど。過ぎたことなんて、気にしたところで、だよね。
 それは、分かっている。
 分かっているけれども。
 ……気にするよ。気にしちゃうよ。
 これを気にするなって方が無理だよ……。
 どんな顔を合わせればいいのか。もう今日は寝ようか。
 だけど、このまま寝たら布団汚れるし……。
 汚れた服で布団に飛び込んでいる時点で、とっくに汚れてはいるんだけど。

 なんて思考を回していると。
 床を踏む音が聞こえてくる。
 その音は、どんどん私に近付いてきていた。

 ──コンコンコン。

 扉が叩かれる。
 その音に続く声。

「……ミ、ミリア。ただいま」

 足音の主はリリィだったようだ。
 若干上擦ったその声に、リリィも緊張をしていると察す。
 しかし。どう接すればいいのか分からない。
 と、とりあえず。すれ違う感じで、風呂に行こう。
 『お疲れー。じゃ、次、私がお風呂入るね』って言う風に。
 うん。それはとても自然だと思う。

 暖かい湯船に揺られて心を落ち着かせ。
 これからのことを考えるのも良いかもしれない。
 じゃあ。お湯を沸かし直すべきかな。それはそれで面倒臭いけど。
 そういえばリリィはお湯の沸かし方、分かったんだ。
 湯船に火の魔法石を入れるだけだけど。それがある場所も教えてなかったし。
 なんて事を思いながら、私はリリィにとりあえず返事をした。

「お、おかえりー」

 私の声も多分、上擦っている。
 言いながら理解し、私はベッドから身を起こした。
 ガチャリとドアが開かれる。

「ど、どうも」

 そこから姿を現したのは、当たり前だが風呂上がりのリリィ。
 湯気が彼女の身体を漂っており、濡れた髪がどこかいつもとは違う雰囲気。
 何というか。うん。こう言うものを色気と言うのだろうか。
 そして着衣しているのは、さっき貸した私のパジャマときた。
 ……なぜか、背徳感的な何かを感じてしまう。

「ミリア。……お風呂、いいよ」

 リリィは、明後日の方を見ながらそう言う。

 風呂の熱か、羞恥の熱か。
 どちらかは見当は付かないが、リリィの顔は真っ赤だ。
 けど、恥じらいを見せるその様子から、後者の方かなと思う。

「ど、どうもです」

 同じように、リリィを見らずに──見れずに、そう返事をした。

 やはり、私たちの間には気まずさが流れていた。
 ずっとこれから、こんな気まずい感じに関係が進むのかって。
 いやいや、それはダメに決まってる。

 だって、さっきキスしたのは私だし。
 リリィがこういう態度を取るのは当然のことで。
 だから私がリリィを引っ張らないといけないかもしれない。
 引っ張るという言い方は、いささか語弊があるような感じもするけど。

 うん。ここは私が頑張らないといけない場面なのかも。
 だからって何を言えばいいのかって、それは思い付かない。
 やはり。風呂に入りながら、それについては考えるとしよう。

 私はなけなしの勇気を振り絞り、リリィに向かって言い放つ。

「じゃ、じゃあ! 今度は私が風呂に入るね!」

 歩み出し、私はリリィの横を通り抜けようと。

「──ミリア」

 したのに!
 リリィから声がかけられた。
 どうでもいいけど、リリィから凄くいい匂いがしてきた。

「えっと……どうしたの?」

 聞き返す。
 私の目の前にいるリリィは、今度は目を逸らさずに私を見ていた。
 赤くなりつつも、どこか真剣さがその中にはあった。

「……あのさ。後で話したいことがある」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、娘の幼稚園の親子イベントで娘の友達と一緒にいた千春と出会う。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになると思うのでご安心ください。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

檸檬色に染まる泉

鈴懸 嶺
青春
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性” 女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。 雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が…… 手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が…… いま……私の目の前ににいる。 奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

処理中です...