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あと、三日
戦闘
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あーもう。
やだやだやだ。
街の方角も分かったところで、そこに逃げる私。
あんなリスみたいなやつ、すぐに距離を離せると思ったのに。
──めっちゃ付いてきてる。
少しづつ距離は離せていると思うが、後ろから気配を感じるのは確かだ。
森の中に来なければこんなことにならなかったのに。
やはり、夜の森に行くのは迂闊だったのかもしれない。
完全に自業自得ではあるんだけど。
実際、今、私はめっちゃ焦り倒している。
追いつかれたら、きっと殺される。
それを察せるような殺気を放っていたから。
森の中を駆けて駆けて、駆けまくって。
そして漸く、舗装された道に辿り着き、遂に森を抜ける。
下がっていた顔を少し上げて、前を見る。
目に映った、高い、街の塀。
だから街の中は見えない。けど、塀の内側からは光が溢れ出している。
その光が多少の私の心の中の陰鬱を晴らしてくれるような感じがする。
あと少し。あと少し。
こういう時こそ、門番が外にいたらいいのにって思う。
門番は、街の中にいるのだ。
だから、頑張るしかない。
魔物の処理は門番の人に任せよう。
そういう思いで、もう。全力で走り続けた。
だが。
「──っはぁ。はぁ」
私の体が、遂に限界を訴えかけ始めた。
ひょっとしたら、もう既に限界は迎えているのかもしれない。
足の動きが、自分の足で動かしていないみたいに感覚が薄い。
だけど、心臓は破裂しそうなくらいに痛い。辛い。
街までは、あと数百メートルはあると思う。
近付いているはずなのに、錯覚に陥ったようにそれが遠く見え始めた。
これじゃ、もう。辿り着く前に、私が倒れるな。と、本能で察した。
……完全に手詰まりだ。
行く道が、全て断たれた。
──私、死ぬの?
ふと、そう思う。
だが。このままだと本当に、死ぬ。
呆気ない、人生の終焉。
それがここで来る。
だけど。
死んだって、別にいいのかな。
街には、友達と呼べる友達もいないし。
母さんは、もういないし。父さんは、もう、ダメな気がする。
母さんのことに向き合うって、ああは言ってはいたけど。確証もない。
第一、あれは久しぶりに会った娘に向けるような態度じゃない。
だから、さ。
今、私が死んだところで、悲しむ人なんて誰一人として──。
…………。いや。
──リリィ。
そっか。リリィか。
リリィだったら、私が死んだら悲しんでくれそう。
だって、好きな人を亡くすんだもん。
そりゃ、悲しむよね。
私、母さんが死んだ時、凄く悲しかった。
しばらく今の父さんみたいに、部屋に篭りっぱなしだった。
それくらい悲しかった。
リリィも、そんなに私のことを愛しているのだったら。
やっぱり、凄く悲し思いをするのかな。
してくれるのかな。
けど、人を亡くす辛さは、私が知っている。
そんな思いをするリリィのことを想うと──。
………………。
……死にたく、ないな。
そう、思った。
そう思えた。
リリィの悲しむ顔を妄想して、こんな考えに至るだなんて。
……私って、お人好しなのかもしれない。
よし。ネガティブ思考はここで終了。
思いついた事が一つある。このリスにできる事だ。
ラストスパートを、ここでかけよう。
後ろのリスとは、先よりも距離を置けているのが分かる。
私は、後ろを振り返り。
こちに向かってきている数十メートル程離れた魔物に、直ぐに掌を向けた。
動悸を抑えつけるように、深呼吸をしながら目を瞑る。
魔力の流れを一瞬で見つけ、作りたい魔法の形を意識した。
「──『アイス』」
一度成功した氷の魔法。
あの時見た限り、威力はかなりのものだと思う。
瞑った瞼の間から入り込む光。
手に感じるのは冷気。
ここまで順調にきている。
次に考えるべきは造形。
昼の時のように丸い氷でもいいと思うけど……。
今回は、明確な敵がいる。
だから。尖ったような形の……って、こんな曖昧な考えじゃダメだ。
しっかりと、作りたい形をそれを、まずは頭の中で造形しなければ。
だから、考える。
──氷の『槍』。
この形を。
目を、少しだけ開く。
手に宿っていた冷気が、形を変えてゆく。それが分かる。
それと同時に、魔物が、もう、すぐそこまで迫っていることも分かった。
あと、数秒もすれば噛みつかれそうな、そんな距離に。
だが。ギリギリまで引きつける。
魔力を、この氷の槍に注ぐ。
全て注いでもいい。ここで気絶してもいい。
それくらいの思いで。
だって、私が死んで。リリィに悲しんで欲しくないから。
私は放つ。
今度は掛け声すら出ささずに、その魔法を。
「──っ!」
予定完全調和。
放出された氷の槍は、リスの身体を貫いた。
「ギェアアアア──‼︎」
そのリスは、可愛らしい顔に似合わぬ汚い叫びを上げ、私のすぐそこで倒れた。
叫びに思わず両耳を塞ぎ、それでもそれが貫通してくるほどにはうるさかった。
手を外しても、耳鳴りがしていた。
そこにある無残なリスの姿。
私がこんなことをしたのか、と少し恐怖すらも覚えてしまう。
目を背けたかったが、その力すら無く、私はその場に尻餅をつく。
リスの死体と隣り合わせ。なんだか嫌な感じだ。
けれど、それと同時にホッとした。
私に、魔物を仕留めることができた。
しかも、覚えたての魔法で。
これは、凄く嬉しい。
だけど、それ以上に死ななくてよかった。
その思いが、波の様に、急に私に押し寄せてきた。
「はぁ……。良かった」
……しかし。そう思ったのも束の間だった。
「……あれ?」
目の先にある、さっきの森の中から大量の気配を感じた。
森がざわつき、何かがそこから大量に飛び出してきた。
目を凝らす。私は、思わず唖然として固まった。
さっきのリスの。その群れが、確かに。そう、確かに、こちらに向かってきていた。
あのリスが死んだ時に上げた叫び声に引き寄せられたのか。
それか、私に対する仇討ちか。
多分、両方だ。
そう冷静に考えたが、だけど。
この状況は絶望的だった。
魔力は、もうほとんど無い。
やばい。と、そう理解していても、体が動いてくれない。
少しづつ、魔物たちが大きく目に映ってくる。
……涙が、勝手に目から溢れてきた。
「や。やだ……。死にたく、無い」
逃げようにも、本当に身体が動かない。
無理やり動かそうとしても、それは叶わない。
絶望的な状況なら、人はなんでもできるとか、そんなことを言うけれど。
本当に絶望的な状況なら、何もできやしない。
ただ、じわじわと死が近付く恐怖を味わわされる。
それを今、私は実感していた。
さっきは、上手くいったのに。
逆に、さっきまでが上手くいきすぎていたのかもしれない。
……怖い。
もう、十数秒もすればここまで辿り着いていそうな距離。
近づくリスの大群を見て、死ぬまでのカウントダウンをされるくらいなら、もういっそ、見ない方がいいいのかもしれない。
リリィを悲しませないよう頑張ったのに。
あぁ。嫌だな。死にたくないな。
そう思考しながらも。覚悟を決め。目を閉じようとした。
その刹那だった。
背後から、草を蹴る荒々しい音が聞こえてきたかと思えば。
「──『ファイヤ』」
私の頭上を、鮮やかで温かい一つの赤色が通り越し。リスの軍団に直撃した。
途端にそれは赤く燃え広がり、リスの大群を燃やす。
先のやつと同じような叫び声が、幾つか響く。
しかし。全滅ではない。半分ほどは残っていた。
草を歩く音が背後から聞こえてきて。
私の横を、その人物が颯爽と過ぎる。
その姿が映った瞬間、私は安心感に肩の荷が全て降りた心地がした。
と、同時に吐いた溜息で、私は恐ろしいほどの生の実感を受けた。
彼女は。そのままリスと対峙した。
と思えば、顔だけを私に向けてこう言ってきた。
「ミリア。ありがと。生きていてくれて」
彼女は──リリィは。
今にも泣き出しそうな顔で、嬉しそうに笑っていた。
対する私も、似たような表情だった。
やだやだやだ。
街の方角も分かったところで、そこに逃げる私。
あんなリスみたいなやつ、すぐに距離を離せると思ったのに。
──めっちゃ付いてきてる。
少しづつ距離は離せていると思うが、後ろから気配を感じるのは確かだ。
森の中に来なければこんなことにならなかったのに。
やはり、夜の森に行くのは迂闊だったのかもしれない。
完全に自業自得ではあるんだけど。
実際、今、私はめっちゃ焦り倒している。
追いつかれたら、きっと殺される。
それを察せるような殺気を放っていたから。
森の中を駆けて駆けて、駆けまくって。
そして漸く、舗装された道に辿り着き、遂に森を抜ける。
下がっていた顔を少し上げて、前を見る。
目に映った、高い、街の塀。
だから街の中は見えない。けど、塀の内側からは光が溢れ出している。
その光が多少の私の心の中の陰鬱を晴らしてくれるような感じがする。
あと少し。あと少し。
こういう時こそ、門番が外にいたらいいのにって思う。
門番は、街の中にいるのだ。
だから、頑張るしかない。
魔物の処理は門番の人に任せよう。
そういう思いで、もう。全力で走り続けた。
だが。
「──っはぁ。はぁ」
私の体が、遂に限界を訴えかけ始めた。
ひょっとしたら、もう既に限界は迎えているのかもしれない。
足の動きが、自分の足で動かしていないみたいに感覚が薄い。
だけど、心臓は破裂しそうなくらいに痛い。辛い。
街までは、あと数百メートルはあると思う。
近付いているはずなのに、錯覚に陥ったようにそれが遠く見え始めた。
これじゃ、もう。辿り着く前に、私が倒れるな。と、本能で察した。
……完全に手詰まりだ。
行く道が、全て断たれた。
──私、死ぬの?
ふと、そう思う。
だが。このままだと本当に、死ぬ。
呆気ない、人生の終焉。
それがここで来る。
だけど。
死んだって、別にいいのかな。
街には、友達と呼べる友達もいないし。
母さんは、もういないし。父さんは、もう、ダメな気がする。
母さんのことに向き合うって、ああは言ってはいたけど。確証もない。
第一、あれは久しぶりに会った娘に向けるような態度じゃない。
だから、さ。
今、私が死んだところで、悲しむ人なんて誰一人として──。
…………。いや。
──リリィ。
そっか。リリィか。
リリィだったら、私が死んだら悲しんでくれそう。
だって、好きな人を亡くすんだもん。
そりゃ、悲しむよね。
私、母さんが死んだ時、凄く悲しかった。
しばらく今の父さんみたいに、部屋に篭りっぱなしだった。
それくらい悲しかった。
リリィも、そんなに私のことを愛しているのだったら。
やっぱり、凄く悲し思いをするのかな。
してくれるのかな。
けど、人を亡くす辛さは、私が知っている。
そんな思いをするリリィのことを想うと──。
………………。
……死にたく、ないな。
そう、思った。
そう思えた。
リリィの悲しむ顔を妄想して、こんな考えに至るだなんて。
……私って、お人好しなのかもしれない。
よし。ネガティブ思考はここで終了。
思いついた事が一つある。このリスにできる事だ。
ラストスパートを、ここでかけよう。
後ろのリスとは、先よりも距離を置けているのが分かる。
私は、後ろを振り返り。
こちに向かってきている数十メートル程離れた魔物に、直ぐに掌を向けた。
動悸を抑えつけるように、深呼吸をしながら目を瞑る。
魔力の流れを一瞬で見つけ、作りたい魔法の形を意識した。
「──『アイス』」
一度成功した氷の魔法。
あの時見た限り、威力はかなりのものだと思う。
瞑った瞼の間から入り込む光。
手に感じるのは冷気。
ここまで順調にきている。
次に考えるべきは造形。
昼の時のように丸い氷でもいいと思うけど……。
今回は、明確な敵がいる。
だから。尖ったような形の……って、こんな曖昧な考えじゃダメだ。
しっかりと、作りたい形をそれを、まずは頭の中で造形しなければ。
だから、考える。
──氷の『槍』。
この形を。
目を、少しだけ開く。
手に宿っていた冷気が、形を変えてゆく。それが分かる。
それと同時に、魔物が、もう、すぐそこまで迫っていることも分かった。
あと、数秒もすれば噛みつかれそうな、そんな距離に。
だが。ギリギリまで引きつける。
魔力を、この氷の槍に注ぐ。
全て注いでもいい。ここで気絶してもいい。
それくらいの思いで。
だって、私が死んで。リリィに悲しんで欲しくないから。
私は放つ。
今度は掛け声すら出ささずに、その魔法を。
「──っ!」
予定完全調和。
放出された氷の槍は、リスの身体を貫いた。
「ギェアアアア──‼︎」
そのリスは、可愛らしい顔に似合わぬ汚い叫びを上げ、私のすぐそこで倒れた。
叫びに思わず両耳を塞ぎ、それでもそれが貫通してくるほどにはうるさかった。
手を外しても、耳鳴りがしていた。
そこにある無残なリスの姿。
私がこんなことをしたのか、と少し恐怖すらも覚えてしまう。
目を背けたかったが、その力すら無く、私はその場に尻餅をつく。
リスの死体と隣り合わせ。なんだか嫌な感じだ。
けれど、それと同時にホッとした。
私に、魔物を仕留めることができた。
しかも、覚えたての魔法で。
これは、凄く嬉しい。
だけど、それ以上に死ななくてよかった。
その思いが、波の様に、急に私に押し寄せてきた。
「はぁ……。良かった」
……しかし。そう思ったのも束の間だった。
「……あれ?」
目の先にある、さっきの森の中から大量の気配を感じた。
森がざわつき、何かがそこから大量に飛び出してきた。
目を凝らす。私は、思わず唖然として固まった。
さっきのリスの。その群れが、確かに。そう、確かに、こちらに向かってきていた。
あのリスが死んだ時に上げた叫び声に引き寄せられたのか。
それか、私に対する仇討ちか。
多分、両方だ。
そう冷静に考えたが、だけど。
この状況は絶望的だった。
魔力は、もうほとんど無い。
やばい。と、そう理解していても、体が動いてくれない。
少しづつ、魔物たちが大きく目に映ってくる。
……涙が、勝手に目から溢れてきた。
「や。やだ……。死にたく、無い」
逃げようにも、本当に身体が動かない。
無理やり動かそうとしても、それは叶わない。
絶望的な状況なら、人はなんでもできるとか、そんなことを言うけれど。
本当に絶望的な状況なら、何もできやしない。
ただ、じわじわと死が近付く恐怖を味わわされる。
それを今、私は実感していた。
さっきは、上手くいったのに。
逆に、さっきまでが上手くいきすぎていたのかもしれない。
……怖い。
もう、十数秒もすればここまで辿り着いていそうな距離。
近づくリスの大群を見て、死ぬまでのカウントダウンをされるくらいなら、もういっそ、見ない方がいいいのかもしれない。
リリィを悲しませないよう頑張ったのに。
あぁ。嫌だな。死にたくないな。
そう思考しながらも。覚悟を決め。目を閉じようとした。
その刹那だった。
背後から、草を蹴る荒々しい音が聞こえてきたかと思えば。
「──『ファイヤ』」
私の頭上を、鮮やかで温かい一つの赤色が通り越し。リスの軍団に直撃した。
途端にそれは赤く燃え広がり、リスの大群を燃やす。
先のやつと同じような叫び声が、幾つか響く。
しかし。全滅ではない。半分ほどは残っていた。
草を歩く音が背後から聞こえてきて。
私の横を、その人物が颯爽と過ぎる。
その姿が映った瞬間、私は安心感に肩の荷が全て降りた心地がした。
と、同時に吐いた溜息で、私は恐ろしいほどの生の実感を受けた。
彼女は。そのままリスと対峙した。
と思えば、顔だけを私に向けてこう言ってきた。
「ミリア。ありがと。生きていてくれて」
彼女は──リリィは。
今にも泣き出しそうな顔で、嬉しそうに笑っていた。
対する私も、似たような表情だった。
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