12 / 47
あと、三日
ご褒美に、共に
しおりを挟む
「……あのー。リリィ? ベッドでお昼寝って言ったのは私なんだけど」
魔法を使えた満足感。
続くように訪れた疲労感に、ベッドへとお昼寝に来ている。
そしてベッドに潜り込んだはいいものの……。
「なんで……一緒のベッドに入ってきてるの?」
寝ながら顔を左に向けて、私は隣で寝ているリリィに聞く。
リリィも顔を右に向け、私と顔を合わせる。
……にしても、顔が近い。
「なんでって。……ベッド、これだけだし」
『別にいいでしょ?』と、そう言いたげである。
いや。うん。まぁ、別にいいとは思うけど。
なんかね、ちょっと恥ずかしいから。
「んーー」
「ほら。魔法を教えたことへのご褒美ってことで」
「んー。まぁ、リリィには本当に感謝してるし……」
「いいよね?」
「……うん。いいよ」
「わーい」
偉く棒読みに喜ぶな、リリィ。
いや、私も渋々頷いたけども。
にしても一緒に寝ることに喜ぶって、なんだか子供の面倒を見ているみたい。
リリィの顔は、私よりも大人びているというのに。
まぁいいや。
疲れた。瞼も結構重いし。
「寝るよ!」
私はリリィ告げ、向けていた目線を天井に戻す。
夏で暑いから、被っているのは毛布一枚。
それを、私の顎あたりまで引っ張る。
リリィもしょうがないという風に、溜息一つ、天井を向いた。
その様子を横目でチラ見。
「おやすみ、リリィ」
「……うん。おやすみ」
いい夢が見れそう。
なんて思いながら、私は瞼を閉じる。
すぐに頭はボーッとして、夢の世界がそこに見えた。
息をついて、疲れを飛ばし、その世界に飛び込みにいこうとした。
その時、私の左手が捕らえられた。
朦朧とした頭を動かして『なんだ、リリィの手か』と。
握手みたいに、私の手を握ってきていた。
別に気にすることでは無かった、別にそれくらいって。
そう思ったけれど。
気が付けば、私の指の間にリリィの指が絡められていた。
一本一本の間にしっかり絡めて、ぎゅーってされている。
そういう、なんか特殊な手の繋ぎ方をされている。
ちょっとこれはよくわからないけど気になる。
「何してるの」と、眠たい声で問う。
「なにも」
「何かはしてるような……」
「ただ、手を繋いでいるだけだよ」
「なぜに」
「繋ぎたいから」
「んー」
「これもご褒美の一環ってことにして?」
「……分かった。しょうがないな」
そう答えて、汗で滑ってきていたリリィの手を、私もぎゅっと握り直した。
「これでいい?」
「……うん」
ぼんやりとした思考で理解できたのは、それが嬉しそうな声だということ。
それ以上は特に何も思うことはなく。
眠気に耐えきれなくなって。流石に思考を停止した。
※
一体、どれくらいの間、寝ていたのだろうか。
不意に、私の頭に意識が帰ってきた。
私、何をしていたんだっけ。
…………えっと。そうだ。
リリィって子に、魔法を教えられて。
それで、一緒にベッドで寝ているんだっけ。
そっか。私、魔法が使えるようになったんだ。
──今、何時かな。
思い、私はゆっくりと目を開く。
「わっ──」
と、そこには、夕焼けで赤みを帯びたリリィの顔があって。
「いやいやいや。な、なな、何してるの?」
流石に、私の頭は一気に覚醒した。
だって、私の上にまたがって、顔をスレスレまで近づけたリリィがいる。って。
冷静に考えて。いや、冷静に考えなくともおかしい。
「ミリア、おはよう」
リリィは平静を装っているのか。
ただ、普通に天然なのか。
本当になんでも無いかのように、『おはよう』と、そう言ってきた。
「おはようじゃないよ! なんでこんなに顔を近付けてるの? ちゅーなの? ちゅーする気なの? それとも、もうしたの⁉︎」
慌てて、右手で自身の唇に触れてみる。
……かなり乾いてる。
そんな破廉恥なことをしたわけでは無さそう……。
「ミリアの顔を眺めてただけ。だって、三日しかないんだもの。今のうちにミリア成分を補充しておかないと勿体無いよ」
「ミリア成分って何⁉︎ それに補充って⁉︎」
顔をペタペタ触ってみる。
だけど、特に何かされては無さそう。
特に違和感は覚えなかった。
「そんな疑われるのは心外なんだけど……。ただ、ミリアの顔を見つめて。私の中に、蓄えようって思っただけ」
「そっか。……いや、そっかって納得するのも変だけど。もう納得する!」
これ以上考えると頭がパンクしそうだ。
もう今の時点でパンク寸前だし。
「あ。でもキス。ミリアが言うところのちゅー。それはしようか悩んでた」
「おいーー⁇」
「でも、したら幻滅されそうだからしなかった」
「……それは、偉い」
……ん? 偉いのか?
……まぁ、でも幻滅まではしないと思う。
「ミリア。まだ寝ててもいいよ?」
「寝ない! お目目ぱっちりになっちゃったもん」
先よりも声量大に言う。
リリィの顔に唾が飛んでいないか、少し心配になった。
けど、そんな心配をしてしまうのはリリィの顔が近すぎるからで……。
こんなに顔が近いと、どんな表情をするのが正解なのか分からない。
「ちょっとリリィ? 退いて欲しいんだけど……」
目と鼻の先とは正にこの状態のことを指すのかもしれない。
本当にすぐそこなのだ。
恥ずかしくて顔を逸らしてしまいそう。
「もうちょっと見つめていていい?」
「だめ!」
……そんなに私のことが好きなんだ。
って、これ何度も思考して、顔を熱くしている訳だけど。
でも、好きでいてくれるのは嬉しい。本当に。
「……そう。分かった」
言うことを聞き入れたリリィは、私の上から遠ざ仮。
またがっていた足を外し、ベッドから降りた。
ちょっとだけ顔が涼しくなる。
それと同時に、汗をべったりと背中にかいているのに気が付く。
目の前のリリィで精一杯だったけど、その間に恥ずかしさが汗として身体から飛び出ていたらしい。
毛布を足の方へと適当にたたんで、私もベッドから出た。
懐中時計を流れるように取り出してみると、もう18時前だった。
かなり暗くなっている。もう夕日も沈む頃だろう。
お腹も結構空いていた。
「リリィこれからどうする? 私、晩御飯食べに行きたいんだけど」
リリィは私の言葉に曖昧に「うん」と頷く。
「おっけー。じゃあ、いきなりだけど。行こっか?」
「……うん」
リリィが返事をしたのを見て、私は部屋のドアに向かった。
そのまま開こうと、ノブに手をかけた。
その時だ。
勢いの良い風が背中に当たり、そしてうるさい二、三歩分の足音が聞こえて。
後ろから、襲うように、リリィが私に抱きついてきた。
「……ミリア」
…………。
……これはどういう状況なんだ。
と思う状況が、今日はいつもの何倍も起こっている。
私の肩に、リリィの顔が乗って、息が耳に吹きかかり。
なんだか凄くゾワってしてしまう。
「何をしているのかな」
照れに声が震えそうになりながら私は問う。
「やっぱり。ミリア成分が足りない……。あと三日しかないの……。だから、これくらいしてもいいよね? ご褒美として、私にこうさせて……」
対するリリィの声は震えていた。
二日後に待っている別れが怖いのか。なんなのか。
けれど、確か最初に私にハグしてきた時は、もっと強いハグだった。
……今回は、とても弱々しかった。
確かに。リリィと別れる時は、それなりに私も悲しむだろう。
だって。魔法を教えてくれた相手だし。一緒にいて、それなりに楽しいし。
なんて。そう言う風に自分に言い訳をしてみると、このハグは案外悪くないもののように感じた。
魔法を使えた満足感。
続くように訪れた疲労感に、ベッドへとお昼寝に来ている。
そしてベッドに潜り込んだはいいものの……。
「なんで……一緒のベッドに入ってきてるの?」
寝ながら顔を左に向けて、私は隣で寝ているリリィに聞く。
リリィも顔を右に向け、私と顔を合わせる。
……にしても、顔が近い。
「なんでって。……ベッド、これだけだし」
『別にいいでしょ?』と、そう言いたげである。
いや。うん。まぁ、別にいいとは思うけど。
なんかね、ちょっと恥ずかしいから。
「んーー」
「ほら。魔法を教えたことへのご褒美ってことで」
「んー。まぁ、リリィには本当に感謝してるし……」
「いいよね?」
「……うん。いいよ」
「わーい」
偉く棒読みに喜ぶな、リリィ。
いや、私も渋々頷いたけども。
にしても一緒に寝ることに喜ぶって、なんだか子供の面倒を見ているみたい。
リリィの顔は、私よりも大人びているというのに。
まぁいいや。
疲れた。瞼も結構重いし。
「寝るよ!」
私はリリィ告げ、向けていた目線を天井に戻す。
夏で暑いから、被っているのは毛布一枚。
それを、私の顎あたりまで引っ張る。
リリィもしょうがないという風に、溜息一つ、天井を向いた。
その様子を横目でチラ見。
「おやすみ、リリィ」
「……うん。おやすみ」
いい夢が見れそう。
なんて思いながら、私は瞼を閉じる。
すぐに頭はボーッとして、夢の世界がそこに見えた。
息をついて、疲れを飛ばし、その世界に飛び込みにいこうとした。
その時、私の左手が捕らえられた。
朦朧とした頭を動かして『なんだ、リリィの手か』と。
握手みたいに、私の手を握ってきていた。
別に気にすることでは無かった、別にそれくらいって。
そう思ったけれど。
気が付けば、私の指の間にリリィの指が絡められていた。
一本一本の間にしっかり絡めて、ぎゅーってされている。
そういう、なんか特殊な手の繋ぎ方をされている。
ちょっとこれはよくわからないけど気になる。
「何してるの」と、眠たい声で問う。
「なにも」
「何かはしてるような……」
「ただ、手を繋いでいるだけだよ」
「なぜに」
「繋ぎたいから」
「んー」
「これもご褒美の一環ってことにして?」
「……分かった。しょうがないな」
そう答えて、汗で滑ってきていたリリィの手を、私もぎゅっと握り直した。
「これでいい?」
「……うん」
ぼんやりとした思考で理解できたのは、それが嬉しそうな声だということ。
それ以上は特に何も思うことはなく。
眠気に耐えきれなくなって。流石に思考を停止した。
※
一体、どれくらいの間、寝ていたのだろうか。
不意に、私の頭に意識が帰ってきた。
私、何をしていたんだっけ。
…………えっと。そうだ。
リリィって子に、魔法を教えられて。
それで、一緒にベッドで寝ているんだっけ。
そっか。私、魔法が使えるようになったんだ。
──今、何時かな。
思い、私はゆっくりと目を開く。
「わっ──」
と、そこには、夕焼けで赤みを帯びたリリィの顔があって。
「いやいやいや。な、なな、何してるの?」
流石に、私の頭は一気に覚醒した。
だって、私の上にまたがって、顔をスレスレまで近づけたリリィがいる。って。
冷静に考えて。いや、冷静に考えなくともおかしい。
「ミリア、おはよう」
リリィは平静を装っているのか。
ただ、普通に天然なのか。
本当になんでも無いかのように、『おはよう』と、そう言ってきた。
「おはようじゃないよ! なんでこんなに顔を近付けてるの? ちゅーなの? ちゅーする気なの? それとも、もうしたの⁉︎」
慌てて、右手で自身の唇に触れてみる。
……かなり乾いてる。
そんな破廉恥なことをしたわけでは無さそう……。
「ミリアの顔を眺めてただけ。だって、三日しかないんだもの。今のうちにミリア成分を補充しておかないと勿体無いよ」
「ミリア成分って何⁉︎ それに補充って⁉︎」
顔をペタペタ触ってみる。
だけど、特に何かされては無さそう。
特に違和感は覚えなかった。
「そんな疑われるのは心外なんだけど……。ただ、ミリアの顔を見つめて。私の中に、蓄えようって思っただけ」
「そっか。……いや、そっかって納得するのも変だけど。もう納得する!」
これ以上考えると頭がパンクしそうだ。
もう今の時点でパンク寸前だし。
「あ。でもキス。ミリアが言うところのちゅー。それはしようか悩んでた」
「おいーー⁇」
「でも、したら幻滅されそうだからしなかった」
「……それは、偉い」
……ん? 偉いのか?
……まぁ、でも幻滅まではしないと思う。
「ミリア。まだ寝ててもいいよ?」
「寝ない! お目目ぱっちりになっちゃったもん」
先よりも声量大に言う。
リリィの顔に唾が飛んでいないか、少し心配になった。
けど、そんな心配をしてしまうのはリリィの顔が近すぎるからで……。
こんなに顔が近いと、どんな表情をするのが正解なのか分からない。
「ちょっとリリィ? 退いて欲しいんだけど……」
目と鼻の先とは正にこの状態のことを指すのかもしれない。
本当にすぐそこなのだ。
恥ずかしくて顔を逸らしてしまいそう。
「もうちょっと見つめていていい?」
「だめ!」
……そんなに私のことが好きなんだ。
って、これ何度も思考して、顔を熱くしている訳だけど。
でも、好きでいてくれるのは嬉しい。本当に。
「……そう。分かった」
言うことを聞き入れたリリィは、私の上から遠ざ仮。
またがっていた足を外し、ベッドから降りた。
ちょっとだけ顔が涼しくなる。
それと同時に、汗をべったりと背中にかいているのに気が付く。
目の前のリリィで精一杯だったけど、その間に恥ずかしさが汗として身体から飛び出ていたらしい。
毛布を足の方へと適当にたたんで、私もベッドから出た。
懐中時計を流れるように取り出してみると、もう18時前だった。
かなり暗くなっている。もう夕日も沈む頃だろう。
お腹も結構空いていた。
「リリィこれからどうする? 私、晩御飯食べに行きたいんだけど」
リリィは私の言葉に曖昧に「うん」と頷く。
「おっけー。じゃあ、いきなりだけど。行こっか?」
「……うん」
リリィが返事をしたのを見て、私は部屋のドアに向かった。
そのまま開こうと、ノブに手をかけた。
その時だ。
勢いの良い風が背中に当たり、そしてうるさい二、三歩分の足音が聞こえて。
後ろから、襲うように、リリィが私に抱きついてきた。
「……ミリア」
…………。
……これはどういう状況なんだ。
と思う状況が、今日はいつもの何倍も起こっている。
私の肩に、リリィの顔が乗って、息が耳に吹きかかり。
なんだか凄くゾワってしてしまう。
「何をしているのかな」
照れに声が震えそうになりながら私は問う。
「やっぱり。ミリア成分が足りない……。あと三日しかないの……。だから、これくらいしてもいいよね? ご褒美として、私にこうさせて……」
対するリリィの声は震えていた。
二日後に待っている別れが怖いのか。なんなのか。
けれど、確か最初に私にハグしてきた時は、もっと強いハグだった。
……今回は、とても弱々しかった。
確かに。リリィと別れる時は、それなりに私も悲しむだろう。
だって。魔法を教えてくれた相手だし。一緒にいて、それなりに楽しいし。
なんて。そう言う風に自分に言い訳をしてみると、このハグは案外悪くないもののように感じた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、娘の幼稚園の親子イベントで娘の友達と一緒にいた千春と出会う。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになると思うのでご安心ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

檸檬色に染まる泉
鈴懸 嶺
青春
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性”
女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。
雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が……
手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が……
いま……私の目の前ににいる。
奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……

身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる