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心音と共に、
ずっとずっと恥ずかしくて
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「こ、こ、ねー」
部屋に置かれた丸テーブルに対面で座っている現在。
正座をしながら、私は課題もせずに頬杖をついている。
課題に真面目に取り組んでいる心音も眺めるのも、いよいよ退屈が訪れて、私は心音を呼んでみた。
心音はピタと動かしていたペンの動きを止めて、赤ちゃんみたいにハイハイで、私の元へと近寄った。
「その移動方法、ズボン汚れちゃわない?」
心音の顔の位置はハイハイのせいで大分下の位置にある。
必然的に心音が上目遣いでこっちを見るわけで、これまた可愛い。
思っていると、さっきみたいに私の耳に顔を寄せ、身も私に寄せる。
「汚れないです。……それと、何か用でもありますか?」
「いや。退屈だったから……」
心音はいかにもこれが当然かのように、私に話しかけてくる。
やっぱりその抱擁は暖かい。
親鳥に温められる雛鳥も、こんな気分なのかな。
それに。今日の心音はいい匂いがする。
肩越しの心音の茶髪を軽く梳く。
シャンプーの匂いかな。癒される匂い。
それに、サラサラだ。ドライヤーかけたのかな。
そんな思考をしながら、私は問いかけてみる。
「……心音は、今日はそういうスタイルなんだ?」
「そういうスタイルって……?」
「ほ、ほら。いつもみたいにラインじゃなくてってこと」
「今日は家ですから、話す時くらいこうさせてください。いいですよね?」
「は、はいっ!」
「じゃ、退屈なら課題しましょう」
心音は私から離れて、またハイハイで自分の位置に戻る。
長い髪の先っちょが垂れて床についているけど、それこそ埃が付きそうだ。
正座に直して、ペンを持ち、それを課題に走らせる。
「……んー」
前に心音は、ハグしながらじゃないと話すことができないって言ってたっけ。
ちょっと違うと思うけど、そんな感じだった気がする。
心音は、私の前で言葉を発したのは遊園地に行った日以来無い。
もう一回、それを見たいなって思いながらも。ハグができるのだから、そっちの方もいいのかもしれないと思った。
仕方なく、私もリュックから課題を取り出して、机の上に広げる。
心音ママが持ってきてくれたジュースを飲んで、私は課題に取り組み始めた。
※
「んー。わからん。課題むずい」
開始数分後で、数学の課題と睨めっこ。
マジで、分かんない。
ちゃんと授業を聞いておけば、こんなことにもならなかっただろうに。
けど。授業聞く気もあまり起きない。
心音は確か、高校の勉強は完璧って言っていたはず。
耳が悪かったから、この学校に入学することは反対されていたんだよね。
だから。勉強を頑張って、この学校に入ったと。
その勉強の才を分けてくれって思ったけど、それは勿論叶うこともない。
一応、私の行っている私立は進学校。
まずいとは思うけど、何も将来については決まってないもんなー。
「ここねーーーーーーーーーー」
呼びかける。
と、また手を止める。
またまたハイハイで、こっちに近寄る。
やっぱ。それ色々汚れると思うんだけど……。
心音は私を抱きしめて、顔を寄せてくる。
なんかこれ。慣れないな。
いつまでも恥ずかしい。
「どうしましたか?」
そんな気持ちも知らない心音は、きょとんとそう問うてきた。
「いや。ふと気になったというか。心音って、将来どうするの? というか、授業ってちゃんと聞けてる?」
数秒が間が空いたのちに、返信がくる。
「そこそこです。……前も教えた気がしますが、私は予習するってことで親から学校に通して貰っています。本当だったら私、特別教室通いですから」
「それって、心音のこと先生たちはどう捉えているんだろ?」
「分かんないです。いつもトップの成績だから特に言及されませんね。それに私と話す時は筆談だから、面倒臭いんだと思いますよ」
「トップって。さらっと言ったけど、凄いね。心音」
「中三の時点で、高校の勉強は完璧です」
「その脳みそください。……あ、ちょっと逸れちゃったけどさ。将来どうするつもりなの?」
いつの間にか勉強の話になっていたので元々の話題に戻す。
美人で勉強もできるという完璧超人な心音に嫉妬をしてしまうけど。
そんな心音が好きなのは私だから。……って考えもおかしい気がする。
少し思考が絡まったきたので、振りほどいて心音の言葉を私は待つ。
私を抱きしめる心音の力が少し強くなった。
その時に、先よりも細い声が私の耳に降りかかる。
「私は、将来は。伊奈さんと結婚したいです……」
「うっ…………うぅ」
なんて恥ずかしいことを言いやがる。
嫌じゃないけど、恥ずかしい。
最近は心音のせいで恥ずかしいことばっかりだ。
顔が見られないで良かったと、今の状況に感謝をする。
けど。これになんて返せばいいのか言葉を探しても見つからない。
何を言っても、自分が恥ずかしくなるだけで。……あぁ。恥ずかしい。
結婚? 結婚ってあれだよね?
二人で一緒に暮らして、行ってきますのキスとかする関係よね。
一緒におねんねしたり、ご飯食べたり。そういう関係。
遠くにあったその存在が今、ぐっと私に近付いている。
だって心音のあの言い方の感じ、冗談に聞こえない。
「返事は。待ちますよ」
私が黙っていることを気にしたのか、心音はそう言ってくる。
背中に置かれた心音の手から力が抜けていくのを肌で感じた。
自分の位置に戻ろうとしていると分かって、逆に私は心音を抱き寄せる。
だって恥ずかしいから。いつものことだけど、顔真っ赤っかだし……。
心音の手が私の背中に帰ってくる。
二人一緒に抱き合ってるこの状況は客観的に見たら凄いやばそうだ。
その事実にもう一回赤面して、もう熱中症なくらいに私は体温を上げていた。
心音が抱く私との未来。
そうするための一歩目が付き合うこと。
私に、それができるかな。でも、やるしかない。
心音が抱くその未来を、私も抱き寄せるために。
部屋に置かれた丸テーブルに対面で座っている現在。
正座をしながら、私は課題もせずに頬杖をついている。
課題に真面目に取り組んでいる心音も眺めるのも、いよいよ退屈が訪れて、私は心音を呼んでみた。
心音はピタと動かしていたペンの動きを止めて、赤ちゃんみたいにハイハイで、私の元へと近寄った。
「その移動方法、ズボン汚れちゃわない?」
心音の顔の位置はハイハイのせいで大分下の位置にある。
必然的に心音が上目遣いでこっちを見るわけで、これまた可愛い。
思っていると、さっきみたいに私の耳に顔を寄せ、身も私に寄せる。
「汚れないです。……それと、何か用でもありますか?」
「いや。退屈だったから……」
心音はいかにもこれが当然かのように、私に話しかけてくる。
やっぱりその抱擁は暖かい。
親鳥に温められる雛鳥も、こんな気分なのかな。
それに。今日の心音はいい匂いがする。
肩越しの心音の茶髪を軽く梳く。
シャンプーの匂いかな。癒される匂い。
それに、サラサラだ。ドライヤーかけたのかな。
そんな思考をしながら、私は問いかけてみる。
「……心音は、今日はそういうスタイルなんだ?」
「そういうスタイルって……?」
「ほ、ほら。いつもみたいにラインじゃなくてってこと」
「今日は家ですから、話す時くらいこうさせてください。いいですよね?」
「は、はいっ!」
「じゃ、退屈なら課題しましょう」
心音は私から離れて、またハイハイで自分の位置に戻る。
長い髪の先っちょが垂れて床についているけど、それこそ埃が付きそうだ。
正座に直して、ペンを持ち、それを課題に走らせる。
「……んー」
前に心音は、ハグしながらじゃないと話すことができないって言ってたっけ。
ちょっと違うと思うけど、そんな感じだった気がする。
心音は、私の前で言葉を発したのは遊園地に行った日以来無い。
もう一回、それを見たいなって思いながらも。ハグができるのだから、そっちの方もいいのかもしれないと思った。
仕方なく、私もリュックから課題を取り出して、机の上に広げる。
心音ママが持ってきてくれたジュースを飲んで、私は課題に取り組み始めた。
※
「んー。わからん。課題むずい」
開始数分後で、数学の課題と睨めっこ。
マジで、分かんない。
ちゃんと授業を聞いておけば、こんなことにもならなかっただろうに。
けど。授業聞く気もあまり起きない。
心音は確か、高校の勉強は完璧って言っていたはず。
耳が悪かったから、この学校に入学することは反対されていたんだよね。
だから。勉強を頑張って、この学校に入ったと。
その勉強の才を分けてくれって思ったけど、それは勿論叶うこともない。
一応、私の行っている私立は進学校。
まずいとは思うけど、何も将来については決まってないもんなー。
「ここねーーーーーーーーーー」
呼びかける。
と、また手を止める。
またまたハイハイで、こっちに近寄る。
やっぱ。それ色々汚れると思うんだけど……。
心音は私を抱きしめて、顔を寄せてくる。
なんかこれ。慣れないな。
いつまでも恥ずかしい。
「どうしましたか?」
そんな気持ちも知らない心音は、きょとんとそう問うてきた。
「いや。ふと気になったというか。心音って、将来どうするの? というか、授業ってちゃんと聞けてる?」
数秒が間が空いたのちに、返信がくる。
「そこそこです。……前も教えた気がしますが、私は予習するってことで親から学校に通して貰っています。本当だったら私、特別教室通いですから」
「それって、心音のこと先生たちはどう捉えているんだろ?」
「分かんないです。いつもトップの成績だから特に言及されませんね。それに私と話す時は筆談だから、面倒臭いんだと思いますよ」
「トップって。さらっと言ったけど、凄いね。心音」
「中三の時点で、高校の勉強は完璧です」
「その脳みそください。……あ、ちょっと逸れちゃったけどさ。将来どうするつもりなの?」
いつの間にか勉強の話になっていたので元々の話題に戻す。
美人で勉強もできるという完璧超人な心音に嫉妬をしてしまうけど。
そんな心音が好きなのは私だから。……って考えもおかしい気がする。
少し思考が絡まったきたので、振りほどいて心音の言葉を私は待つ。
私を抱きしめる心音の力が少し強くなった。
その時に、先よりも細い声が私の耳に降りかかる。
「私は、将来は。伊奈さんと結婚したいです……」
「うっ…………うぅ」
なんて恥ずかしいことを言いやがる。
嫌じゃないけど、恥ずかしい。
最近は心音のせいで恥ずかしいことばっかりだ。
顔が見られないで良かったと、今の状況に感謝をする。
けど。これになんて返せばいいのか言葉を探しても見つからない。
何を言っても、自分が恥ずかしくなるだけで。……あぁ。恥ずかしい。
結婚? 結婚ってあれだよね?
二人で一緒に暮らして、行ってきますのキスとかする関係よね。
一緒におねんねしたり、ご飯食べたり。そういう関係。
遠くにあったその存在が今、ぐっと私に近付いている。
だって心音のあの言い方の感じ、冗談に聞こえない。
「返事は。待ちますよ」
私が黙っていることを気にしたのか、心音はそう言ってくる。
背中に置かれた心音の手から力が抜けていくのを肌で感じた。
自分の位置に戻ろうとしていると分かって、逆に私は心音を抱き寄せる。
だって恥ずかしいから。いつものことだけど、顔真っ赤っかだし……。
心音の手が私の背中に帰ってくる。
二人一緒に抱き合ってるこの状況は客観的に見たら凄いやばそうだ。
その事実にもう一回赤面して、もう熱中症なくらいに私は体温を上げていた。
心音が抱く私との未来。
そうするための一歩目が付き合うこと。
私に、それができるかな。でも、やるしかない。
心音が抱くその未来を、私も抱き寄せるために。
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