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3.自覚
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挿入前に散々達して、それでも直腸の中を旭の陰茎に深く貫かれると別の満足感がある。強欲であることは蒼葉ももう自覚しているが、女とのセックスでは一度射精したら満足していたのに旭とではまるで違う。そもそも、射精が蒼葉の快感の頂点ではなくなった。
確かに最近の蒼葉は直接的な射精による絶頂に拘らなくなった。口や手で刺激を与えられなくても、ほかの場所で良くなれば硬く反応し、ひとつも触れられなくても吐精さえする。射精は目に見えてわかりやすい絶頂のしるしのひとつでしかない。声や躰の震え、緊張と弛緩、硬直も十分蒼葉が達していることを旭に伝えるが、射精は男が達したわかりやすい現象である。
「こうしてると、めっちゃ気分いい……旭の、えろい顔、見下ろしてんの」
ひとつも余裕などないのに、蒼葉は旭の上に馬乗りになって笑う。深く挿入して奥に咥え込んだ陰茎を捉えたままゆっくりと腰を揺らすだけで、蒼葉は何度も連続する絶頂に飲み込まれる。体位にこだわりはないが、奥深くに届くほど良くて躰が自然と少し後ろに倒れるのを旭の手が支えている。それでも明確に旭を見下ろすことが蒼葉の気分を興奮させる。
「蒼葉のえっちな顔もよく見えるんだけどな」
「見下ろしてるのがいいんだよ。あんたが俺のもんみたいで」
じわりと躰の奥深くに快感の波を感じながら、蒼葉は組み敷いた旭を見て、躰を支えている片手に力を込めた。
「俺の好きにされてる旭なんて、滅多に、ないじゃん……旭が、おかしいかどうかなんて、どうでもいい……あんたがおかしいなら、俺もおかしいんだろ。っ……あ、きもち、い」
びくりと震えて蒼葉はより深く穿つように旭に腰を押し付ける。おかしいと自分で言う男の上で何度も絶頂に攫われて快感を貪るのは同じ穴の狢ではないか。
「は、……ぁ。あんたの、えろい顔、見んの……好きなんだよ。だから、なんでも、試せばいいじゃん……」
蒼葉は旭を見下ろして、空いている手を掬って手の甲にキスをした。
「旭。こっちの手は、留守で、いいのかよ?」
「蒼葉が気持ちいいとこ、邪魔していいの」
「イカせ倒すの、間違いじゃないの」
ふ、と蒼葉は笑って旭の手を離した。ひくりと震えて奥深くを味わうようにゆるゆると腰を動かすと、勝手に喘ぐ声が溢れる。支えにした旭の手を強く掴んで、無意識のうちに崩れないようにして快感を貪る。
「きもち、い……めっちゃ深いとこまで、届いてんの、いい……は、ケツに突っ込まれてんのに、馬鹿みて……。あ。止まんなく、なる……イクっ」
「蒼葉」
譫言をめちゃくちゃに吐きながらゆるく腰を動かして快感を貪っていると、旭に呼ばれてその声の隙に自由にした手に右乳首をピアスの上から潰されて捻られた。達するぎりぎり前に皮膚が薄く敏感な、ピアスを通した方の乳首を捻り潰されて蒼葉は悲鳴と喘ぎが混じった声を上げて達した。躰が酷く硬直して、直腸の中の陰茎を締め上げて躰を貫かれている感覚が余計に鮮明になって弛緩の仕方を忘れる。
「あ、さひ……きもち、い……それ、いい……」
「蒼葉。いっぱい気持ちよくなろう。ずっと、ずっとイキっぱなしになっちゃおうか」
力加減も忘れて支えた手を力任せに掴んで蒼葉は旭の上で硬直したまま震える。快感の波に飲み込まれて戻れない。躰の中に穿たれて貫くものが内側を蝕んで、小さく敏感な場所に鋭い痛みを与えられて脳みそが快感でパンクしそうだ。
旭の声も遠く朦朧としそうになったころに、筋肉が先に悲鳴を上げてくったりと弛緩して崩れそうになったが、捻り潰された乳首をピアスの軸を弄ぶように強くこねられた。休む間もなく蒼葉の口から呻き声が上がって、また躰が緊張する。深いところが敏感になっているのに、またきつく締めあげてしまって蒼葉は絶頂に引き戻される。
「あ、……うぐ、あ……あ」
「蒼葉。とても可愛いね。ぼくの上に乗っているのに、好きにイケないなんて可哀想だね。でも、この方がもっと気持ちいいでしょ」
嫣然と笑う旭は蒼葉を支えた手を離さないまま、片手で自ら飾ったピアスを摘まみ上げて小さな乳首を貫通する金属の感触を楽しんでいる。旭の指が動くたびに、蒼葉は小さく震える。
「あんたの、そういう顔、最高にえろくて、好き……」
「蒼葉がぼくのことを締め上げちゃうから、ぼくも気持ちいいし、痛いのに気持ちいい顔している蒼葉がとても可愛いから余計に興奮するんだよ。だから、蒼葉。ずっと気持ちよくなってて」
直腸の深くの快感と乳首の鋭い痛み、躰を貫通する金属から伝う感触が全てよくて蒼葉は「もっと」と強請る。
「手加減してんじゃねえよ……それごと引きちぎるくらいしたいんだろ……顔に出てんだよ」
ひく、と震えて蒼葉は笑う。薄い視界の先に嫣然と笑う旭は深い色の目に暗い欲望を滲ませている。果てしない独占欲。セックスの最中に時々見える顔。普段は穏やかさの下に隠されている剥き出しの欲望が、蒼葉は好きだ。初めて犯された時も、そういう顔をしていたと思う。
「しなくていいんだ。……じゃあ、さ。蒼葉の顔、もっと近くで見せて。とても気持ちいい顔」
ピアスの軸を挟むように強く潰していた乳首を指で引っ張って解放されると、蒼葉はびくりと硬直してまた達した。酷い痛みと快感に呻く声しか上げられず、ましてや動くことなどできない蒼葉をよそに旭は躰を支えていた手を背中に回して深く穿った結合部分を浅くしないように慎重に躰を起こした。それでも蒼葉の内部では深いまま陰茎の角度が変わって、それだけで絶頂が上塗りされる。旭が体位を変えるだけで蒼葉はひくひくと震えてあられもない声を上げる。
対面座位にされて背中と腰の間を片手に支えられると、まるで乱れを直すように深くまで押し付けられた。
「あ、さひ……また、イクっ……」
「可愛いね、蒼葉。蒼葉が気持ちいい顔をしていると興奮するし、蒼葉の躰がイッちゃうとぼくもとても気持ちいい……。蒼葉はたくさんイッちゃうだけでいいよ。それだけで、ぼくもイッちゃうから」
聞こえる旭の声だけで蒼葉が震えると、耳元に熱い吐息が触れた。それにまた蒼葉は震える。
「中の方がいいって言ったけど、こっちだって気持ちいいよね。男だもん」
するりと対面座位の躰の間に旭の手が滑り込んで、既に硬く反応して先走りを零している陰茎を握られて指先で先端をぬるぬると撫でられた。
「蒼葉が気持ちいいのは嬉しいけど、ぼくは蒼葉を女のようにしたい訳じゃないよ」
「あさ、ひ」
「気持ちよくなる場所が増えるのはいいけれど、本来気持ちいい場所のことを忘れるのは、よくないよ。ぼくは女の代わりにはなれないけど、ね」
自分でするのとは違う力加減で陰茎を握って扱かれると、蒼葉の喉が声にならない声を出した。反応して硬くなっている陰茎を扱かれて気持ちいい。けれど直腸の奥に旭の陰茎を穿たれていて感じる快感とは種類が違って混乱する。明確に痛みや苦しさで感じているのとは違う。両方とも混ざりもののない純粋な快感で、けれど普通ならば同時に得られるものではない。
「あさひ、だめ、イクっ……やだっ」
「蒼葉、どっちがイッちゃうの? 中でイッちゃうんだよね。まだこっちは触ったばかりだもん。まだ、中でイキたくないのかな。大丈夫だよ。イッても、またイケばいい。蒼葉が動かなくても、ぼくが動かなくても、蒼葉が何回もイクだけでぼくはどんどん気持ちよくなるから、いっぱいイッて。気持ちよくて可愛い顔たくさん見せて」
散々普通とはかけ離れたセックスを繰り返しているのに、まだ蒼葉は時々旭の言葉に背筋を冷やす。背中に回っている腕が強くなった訳でもないのに、蒼葉は自ら腰を押し付けて本能的に揺らして貪る。
「あっ……あ、や、……またイクっ……」
「可愛い」
旭がうっとりと囁く声に蒼葉は眩暈を感じる。絶頂に攫われているのに陰茎を扱く手は止まらない。指先が先端を撫でつけて緩急をつけながら与えられる刺激が、直腸の中で達するのとは違う快感を高め続けている。達しても息をつく暇もない。
躰が緊張と弛緩を繰り返すことに疲れて痙攣に変わっていく。
「あさ、ひ、手え……止めろ」
せめてもの抵抗で蒼葉は旭の片手を剥がそうとしたけれど、手が腕に力なく絡んだだけだった。
「どうして。前も中も気持ちよさそうにしているのに。ぼくはひとつも動いてないのに、蒼葉の中、ぼくのこと絞り上げちゃいそうだよ」
「イキすぎてっ……おかしくなるっ」
「いいよ。蒼葉がぼくに抱かれておかしくなるんだったら、いくらでもなって。気持ちいいよ、蒼葉」
「や、……あああっ」
蒼葉の言葉などひとつも聞かずに、器用に手を動かして責め立てながら肩にキスをする旭の腕の中で蒼葉はまた絶頂の波に攫われる。中は何度も達していて、絶頂のハードルが低い。とめどなく注がれる快感に、触れなくても射精する陰茎を扱かれて供給過多な快感に溺れそうで痙攣する躰の収縮と弛緩の落差が酷くなる分、拾う快感が増えて直腸は達することを勝手に繰り返す。
「蒼葉。すごく可愛い。すごくえっちな顔してる。蒼葉がイク度に中、とても気持ちよくなってくから……ぼくもイッちゃいそう」
「イケ、よ」
蒼葉は掠れる声で言うと、旭は剥き出しの独占欲で笑う。
「一緒に、イこ」
あまりにも旭が綺麗に笑い、一瞬蒼葉は息をのんだ。
その隙に腰を揺さぶられて、陰茎を扱く手が強く激しくなって蒼葉は両方を絶頂に追い立てられ、直腸の奥深くに旭の射精を受け取った。躰が壊れたようにいつまでも痙攣して、蒼葉は崩れそうな躰を旭に抱きとめられたまま何度かひくひくと震えながら声も出せない絶頂に溺れる。そこに、はっきりとしなかった感情の正体が見えた。
セックスでべたべたになった躰を風呂で流して温まってベッドに入ると、普段はそのまま泥のように眠る。けれどその晩、蒼葉は寝る前に薬を飲もうとする旭を止めた。
「旭。少し俺の言うこと聞いて。なんかムカつくって言ったの、わかったと思う」
夕方にぼんやりとどうしてだか説明がつかなかった感情のことを蒼葉が言うと、旭は手にしていた薬の包装を置いた。既に横になっている蒼葉を見下ろして、穏やかな顔をしたまま少し考えた様子で、旭は蒼葉と同じく横になった。
枕元のライトだけで照らされている寝室は密談には丁度いい。
「蒼葉はなにが嫌だったの」
同じ視線の高さで旭が静かに訊いてきた。
「あんたは自分の独占欲を隠さねえけどさ、俺にいいと思うことは簡単にやれって言うじゃん。それがムカついた。首輪つけて繋いどきゃ大丈夫なんて思ってない癖に。それにさ、旭。俺だってあんたのことが好きなんだよ。旭は俺があんたに独占欲なんて持たないと思ってる。それもムカつく」
苛立ちをぶつけているのだから、無意識に向けている視線がきつくなっていることを蒼葉は知らないが、口調が硬いことは自覚した。体力を使い果たすようなぐちゃぐちゃに酷いセックスをした後なのに喧嘩のようなことを話しているのが、案外自分たちらしく思える。
「前半は……うん。そうかもしれない。矛盾しているけど、ぼくは蒼葉を閉じ込めたいのにそうした方がいいと思えることは勧めてしまう。いまが現実逃避だとわかっているからかな。それで、後半は……待って。蒼葉はぼくに対して独占欲があるの?」
「だからそういうとこがムカつくんじゃん。あるよ。当然だろ。旭は俺を閉じ込めたいって言うけど、俺はあんたが俺を見なくなったら閉じ込めるじゃ済まなくなる。どうしようもねえくらいハマってるって言っただろ」
「もし、ぼくが蒼葉を見なくなったら、どうするの」
自覚した感情を剥き出しのまま言葉にすると、旭を睨む視線が下がる。蒼葉が持っている独占欲は旭よりも危険だと気付いたのだ。危険な状態から関係が始まったからだといえば言い訳になるかもしれないが、芽吹いた欲望は蒼葉自身のもので誰にも責任転嫁できない。
「殺したい、って思った」
口にしてみるとあまりにも物騒で、自分でも寒気がする。だが、蒼葉は確かにそう感じた。
「過激だね」
「……旭のえろい顔、他の誰かが見るの嫌だ。俺以外に興奮すんのも嫌。あんたが誰かと親しく話すだけでも、嫌、かもしんない」
それは雁字搦めの独占欲で種類としては旭とそう変わらないのだろうが、その果ての行動欲求が違う。好きだから閉じ込めたいという旭と、自分以外を見るなら殺してしまいたいという蒼葉の行動欲求は実行に移したいと感じるタイミングもなにもかもが違う。
だから、閉じ込められたままの方がいいのだ。
「あんたのことイカれてるって言ったけど、俺の方がヤバい」
ぼそりと呟くと、旭の手が伸びてきてするりと頬を撫でられた。
「蒼葉、可愛いね。大好き。いいよ。ぼくは蒼葉以外の人に興味なんてないけど、蒼葉が嫌だと思うことをぼくがしてしまって……もう取り返しがつかなくて殺したいって思った時は、そうしていい。ぼくは蒼葉の心に一生巣食う亡霊になれるから、そういうのも悪くない」
返ってきた声が嬉しそうにしていて蒼葉は視線を上げて旭を見返した。もう蒼葉の視線は睨みつけていない。
「なんで旭、嬉しそうなの。殺されてもいいとか正気?」
「嬉しいよ。当然だよ。そんな風に思ってしまうほど好きって言われているのと同じなんだよ」
「……そっか……うん。そう」
危険な独占欲すら根源の感情に立ち戻って嬉しいと言われ、蒼葉はすとんと納得した。
苛立つことを明確にしても喧嘩にならない。ただ受け入れられる。独占欲もその先の行動欲求も、元を辿れば好きという感情から発生しているのだと示されると、蒼葉は落ち着いた。
「寝よ」
蒼葉が短く言うと、旭は「うん」と返事して起き上がると寝る前の薬を飲んでから枕元のライトを消した。暗くなった部屋で同じベッドに横になって、ゆるく抱き締められる。雁字搦めの感情と同じく手放す気など少しもないように、近い距離で眠りにつく。
確かに最近の蒼葉は直接的な射精による絶頂に拘らなくなった。口や手で刺激を与えられなくても、ほかの場所で良くなれば硬く反応し、ひとつも触れられなくても吐精さえする。射精は目に見えてわかりやすい絶頂のしるしのひとつでしかない。声や躰の震え、緊張と弛緩、硬直も十分蒼葉が達していることを旭に伝えるが、射精は男が達したわかりやすい現象である。
「こうしてると、めっちゃ気分いい……旭の、えろい顔、見下ろしてんの」
ひとつも余裕などないのに、蒼葉は旭の上に馬乗りになって笑う。深く挿入して奥に咥え込んだ陰茎を捉えたままゆっくりと腰を揺らすだけで、蒼葉は何度も連続する絶頂に飲み込まれる。体位にこだわりはないが、奥深くに届くほど良くて躰が自然と少し後ろに倒れるのを旭の手が支えている。それでも明確に旭を見下ろすことが蒼葉の気分を興奮させる。
「蒼葉のえっちな顔もよく見えるんだけどな」
「見下ろしてるのがいいんだよ。あんたが俺のもんみたいで」
じわりと躰の奥深くに快感の波を感じながら、蒼葉は組み敷いた旭を見て、躰を支えている片手に力を込めた。
「俺の好きにされてる旭なんて、滅多に、ないじゃん……旭が、おかしいかどうかなんて、どうでもいい……あんたがおかしいなら、俺もおかしいんだろ。っ……あ、きもち、い」
びくりと震えて蒼葉はより深く穿つように旭に腰を押し付ける。おかしいと自分で言う男の上で何度も絶頂に攫われて快感を貪るのは同じ穴の狢ではないか。
「は、……ぁ。あんたの、えろい顔、見んの……好きなんだよ。だから、なんでも、試せばいいじゃん……」
蒼葉は旭を見下ろして、空いている手を掬って手の甲にキスをした。
「旭。こっちの手は、留守で、いいのかよ?」
「蒼葉が気持ちいいとこ、邪魔していいの」
「イカせ倒すの、間違いじゃないの」
ふ、と蒼葉は笑って旭の手を離した。ひくりと震えて奥深くを味わうようにゆるゆると腰を動かすと、勝手に喘ぐ声が溢れる。支えにした旭の手を強く掴んで、無意識のうちに崩れないようにして快感を貪る。
「きもち、い……めっちゃ深いとこまで、届いてんの、いい……は、ケツに突っ込まれてんのに、馬鹿みて……。あ。止まんなく、なる……イクっ」
「蒼葉」
譫言をめちゃくちゃに吐きながらゆるく腰を動かして快感を貪っていると、旭に呼ばれてその声の隙に自由にした手に右乳首をピアスの上から潰されて捻られた。達するぎりぎり前に皮膚が薄く敏感な、ピアスを通した方の乳首を捻り潰されて蒼葉は悲鳴と喘ぎが混じった声を上げて達した。躰が酷く硬直して、直腸の中の陰茎を締め上げて躰を貫かれている感覚が余計に鮮明になって弛緩の仕方を忘れる。
「あ、さひ……きもち、い……それ、いい……」
「蒼葉。いっぱい気持ちよくなろう。ずっと、ずっとイキっぱなしになっちゃおうか」
力加減も忘れて支えた手を力任せに掴んで蒼葉は旭の上で硬直したまま震える。快感の波に飲み込まれて戻れない。躰の中に穿たれて貫くものが内側を蝕んで、小さく敏感な場所に鋭い痛みを与えられて脳みそが快感でパンクしそうだ。
旭の声も遠く朦朧としそうになったころに、筋肉が先に悲鳴を上げてくったりと弛緩して崩れそうになったが、捻り潰された乳首をピアスの軸を弄ぶように強くこねられた。休む間もなく蒼葉の口から呻き声が上がって、また躰が緊張する。深いところが敏感になっているのに、またきつく締めあげてしまって蒼葉は絶頂に引き戻される。
「あ、……うぐ、あ……あ」
「蒼葉。とても可愛いね。ぼくの上に乗っているのに、好きにイケないなんて可哀想だね。でも、この方がもっと気持ちいいでしょ」
嫣然と笑う旭は蒼葉を支えた手を離さないまま、片手で自ら飾ったピアスを摘まみ上げて小さな乳首を貫通する金属の感触を楽しんでいる。旭の指が動くたびに、蒼葉は小さく震える。
「あんたの、そういう顔、最高にえろくて、好き……」
「蒼葉がぼくのことを締め上げちゃうから、ぼくも気持ちいいし、痛いのに気持ちいい顔している蒼葉がとても可愛いから余計に興奮するんだよ。だから、蒼葉。ずっと気持ちよくなってて」
直腸の深くの快感と乳首の鋭い痛み、躰を貫通する金属から伝う感触が全てよくて蒼葉は「もっと」と強請る。
「手加減してんじゃねえよ……それごと引きちぎるくらいしたいんだろ……顔に出てんだよ」
ひく、と震えて蒼葉は笑う。薄い視界の先に嫣然と笑う旭は深い色の目に暗い欲望を滲ませている。果てしない独占欲。セックスの最中に時々見える顔。普段は穏やかさの下に隠されている剥き出しの欲望が、蒼葉は好きだ。初めて犯された時も、そういう顔をしていたと思う。
「しなくていいんだ。……じゃあ、さ。蒼葉の顔、もっと近くで見せて。とても気持ちいい顔」
ピアスの軸を挟むように強く潰していた乳首を指で引っ張って解放されると、蒼葉はびくりと硬直してまた達した。酷い痛みと快感に呻く声しか上げられず、ましてや動くことなどできない蒼葉をよそに旭は躰を支えていた手を背中に回して深く穿った結合部分を浅くしないように慎重に躰を起こした。それでも蒼葉の内部では深いまま陰茎の角度が変わって、それだけで絶頂が上塗りされる。旭が体位を変えるだけで蒼葉はひくひくと震えてあられもない声を上げる。
対面座位にされて背中と腰の間を片手に支えられると、まるで乱れを直すように深くまで押し付けられた。
「あ、さひ……また、イクっ……」
「可愛いね、蒼葉。蒼葉が気持ちいい顔をしていると興奮するし、蒼葉の躰がイッちゃうとぼくもとても気持ちいい……。蒼葉はたくさんイッちゃうだけでいいよ。それだけで、ぼくもイッちゃうから」
聞こえる旭の声だけで蒼葉が震えると、耳元に熱い吐息が触れた。それにまた蒼葉は震える。
「中の方がいいって言ったけど、こっちだって気持ちいいよね。男だもん」
するりと対面座位の躰の間に旭の手が滑り込んで、既に硬く反応して先走りを零している陰茎を握られて指先で先端をぬるぬると撫でられた。
「蒼葉が気持ちいいのは嬉しいけど、ぼくは蒼葉を女のようにしたい訳じゃないよ」
「あさ、ひ」
「気持ちよくなる場所が増えるのはいいけれど、本来気持ちいい場所のことを忘れるのは、よくないよ。ぼくは女の代わりにはなれないけど、ね」
自分でするのとは違う力加減で陰茎を握って扱かれると、蒼葉の喉が声にならない声を出した。反応して硬くなっている陰茎を扱かれて気持ちいい。けれど直腸の奥に旭の陰茎を穿たれていて感じる快感とは種類が違って混乱する。明確に痛みや苦しさで感じているのとは違う。両方とも混ざりもののない純粋な快感で、けれど普通ならば同時に得られるものではない。
「あさひ、だめ、イクっ……やだっ」
「蒼葉、どっちがイッちゃうの? 中でイッちゃうんだよね。まだこっちは触ったばかりだもん。まだ、中でイキたくないのかな。大丈夫だよ。イッても、またイケばいい。蒼葉が動かなくても、ぼくが動かなくても、蒼葉が何回もイクだけでぼくはどんどん気持ちよくなるから、いっぱいイッて。気持ちよくて可愛い顔たくさん見せて」
散々普通とはかけ離れたセックスを繰り返しているのに、まだ蒼葉は時々旭の言葉に背筋を冷やす。背中に回っている腕が強くなった訳でもないのに、蒼葉は自ら腰を押し付けて本能的に揺らして貪る。
「あっ……あ、や、……またイクっ……」
「可愛い」
旭がうっとりと囁く声に蒼葉は眩暈を感じる。絶頂に攫われているのに陰茎を扱く手は止まらない。指先が先端を撫でつけて緩急をつけながら与えられる刺激が、直腸の中で達するのとは違う快感を高め続けている。達しても息をつく暇もない。
躰が緊張と弛緩を繰り返すことに疲れて痙攣に変わっていく。
「あさ、ひ、手え……止めろ」
せめてもの抵抗で蒼葉は旭の片手を剥がそうとしたけれど、手が腕に力なく絡んだだけだった。
「どうして。前も中も気持ちよさそうにしているのに。ぼくはひとつも動いてないのに、蒼葉の中、ぼくのこと絞り上げちゃいそうだよ」
「イキすぎてっ……おかしくなるっ」
「いいよ。蒼葉がぼくに抱かれておかしくなるんだったら、いくらでもなって。気持ちいいよ、蒼葉」
「や、……あああっ」
蒼葉の言葉などひとつも聞かずに、器用に手を動かして責め立てながら肩にキスをする旭の腕の中で蒼葉はまた絶頂の波に攫われる。中は何度も達していて、絶頂のハードルが低い。とめどなく注がれる快感に、触れなくても射精する陰茎を扱かれて供給過多な快感に溺れそうで痙攣する躰の収縮と弛緩の落差が酷くなる分、拾う快感が増えて直腸は達することを勝手に繰り返す。
「蒼葉。すごく可愛い。すごくえっちな顔してる。蒼葉がイク度に中、とても気持ちよくなってくから……ぼくもイッちゃいそう」
「イケ、よ」
蒼葉は掠れる声で言うと、旭は剥き出しの独占欲で笑う。
「一緒に、イこ」
あまりにも旭が綺麗に笑い、一瞬蒼葉は息をのんだ。
その隙に腰を揺さぶられて、陰茎を扱く手が強く激しくなって蒼葉は両方を絶頂に追い立てられ、直腸の奥深くに旭の射精を受け取った。躰が壊れたようにいつまでも痙攣して、蒼葉は崩れそうな躰を旭に抱きとめられたまま何度かひくひくと震えながら声も出せない絶頂に溺れる。そこに、はっきりとしなかった感情の正体が見えた。
セックスでべたべたになった躰を風呂で流して温まってベッドに入ると、普段はそのまま泥のように眠る。けれどその晩、蒼葉は寝る前に薬を飲もうとする旭を止めた。
「旭。少し俺の言うこと聞いて。なんかムカつくって言ったの、わかったと思う」
夕方にぼんやりとどうしてだか説明がつかなかった感情のことを蒼葉が言うと、旭は手にしていた薬の包装を置いた。既に横になっている蒼葉を見下ろして、穏やかな顔をしたまま少し考えた様子で、旭は蒼葉と同じく横になった。
枕元のライトだけで照らされている寝室は密談には丁度いい。
「蒼葉はなにが嫌だったの」
同じ視線の高さで旭が静かに訊いてきた。
「あんたは自分の独占欲を隠さねえけどさ、俺にいいと思うことは簡単にやれって言うじゃん。それがムカついた。首輪つけて繋いどきゃ大丈夫なんて思ってない癖に。それにさ、旭。俺だってあんたのことが好きなんだよ。旭は俺があんたに独占欲なんて持たないと思ってる。それもムカつく」
苛立ちをぶつけているのだから、無意識に向けている視線がきつくなっていることを蒼葉は知らないが、口調が硬いことは自覚した。体力を使い果たすようなぐちゃぐちゃに酷いセックスをした後なのに喧嘩のようなことを話しているのが、案外自分たちらしく思える。
「前半は……うん。そうかもしれない。矛盾しているけど、ぼくは蒼葉を閉じ込めたいのにそうした方がいいと思えることは勧めてしまう。いまが現実逃避だとわかっているからかな。それで、後半は……待って。蒼葉はぼくに対して独占欲があるの?」
「だからそういうとこがムカつくんじゃん。あるよ。当然だろ。旭は俺を閉じ込めたいって言うけど、俺はあんたが俺を見なくなったら閉じ込めるじゃ済まなくなる。どうしようもねえくらいハマってるって言っただろ」
「もし、ぼくが蒼葉を見なくなったら、どうするの」
自覚した感情を剥き出しのまま言葉にすると、旭を睨む視線が下がる。蒼葉が持っている独占欲は旭よりも危険だと気付いたのだ。危険な状態から関係が始まったからだといえば言い訳になるかもしれないが、芽吹いた欲望は蒼葉自身のもので誰にも責任転嫁できない。
「殺したい、って思った」
口にしてみるとあまりにも物騒で、自分でも寒気がする。だが、蒼葉は確かにそう感じた。
「過激だね」
「……旭のえろい顔、他の誰かが見るの嫌だ。俺以外に興奮すんのも嫌。あんたが誰かと親しく話すだけでも、嫌、かもしんない」
それは雁字搦めの独占欲で種類としては旭とそう変わらないのだろうが、その果ての行動欲求が違う。好きだから閉じ込めたいという旭と、自分以外を見るなら殺してしまいたいという蒼葉の行動欲求は実行に移したいと感じるタイミングもなにもかもが違う。
だから、閉じ込められたままの方がいいのだ。
「あんたのことイカれてるって言ったけど、俺の方がヤバい」
ぼそりと呟くと、旭の手が伸びてきてするりと頬を撫でられた。
「蒼葉、可愛いね。大好き。いいよ。ぼくは蒼葉以外の人に興味なんてないけど、蒼葉が嫌だと思うことをぼくがしてしまって……もう取り返しがつかなくて殺したいって思った時は、そうしていい。ぼくは蒼葉の心に一生巣食う亡霊になれるから、そういうのも悪くない」
返ってきた声が嬉しそうにしていて蒼葉は視線を上げて旭を見返した。もう蒼葉の視線は睨みつけていない。
「なんで旭、嬉しそうなの。殺されてもいいとか正気?」
「嬉しいよ。当然だよ。そんな風に思ってしまうほど好きって言われているのと同じなんだよ」
「……そっか……うん。そう」
危険な独占欲すら根源の感情に立ち戻って嬉しいと言われ、蒼葉はすとんと納得した。
苛立つことを明確にしても喧嘩にならない。ただ受け入れられる。独占欲もその先の行動欲求も、元を辿れば好きという感情から発生しているのだと示されると、蒼葉は落ち着いた。
「寝よ」
蒼葉が短く言うと、旭は「うん」と返事して起き上がると寝る前の薬を飲んでから枕元のライトを消した。暗くなった部屋で同じベッドに横になって、ゆるく抱き締められる。雁字搦めの感情と同じく手放す気など少しもないように、近い距離で眠りにつく。
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王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
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