完全犯罪

みかげなち

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12・共犯者

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 一日に多くのことをしすぎて、疲れた。蒼葉が疲れているのはもちろんだったが、旭の疲弊の方が酷かった。そうしなければならなかったという思いと、もっと穏便に済ませられたかもしれないという思いが蒼葉の中で交錯した。警察に電話をした後は全部後回しにして、横になって休んで、食事をして風呂を済ませて、すぐにベッドに入って明かりを落とした。蒼葉には達成感の疲れしかないが、旭には別のものがもっと混ざっていて不安定なままだった。
 過労と不眠で休んでいると言った旭の言葉を思い出して、蒼葉は無茶しすぎたかもという思いを深める。普段と同じく日常的なことをして眠る前には蒼葉に薬を飲ませる。それで蒼葉は眠ってしまうけれど、蒼葉はそのせいで不眠だという旭がなにかを飲んでいるところを見たことがない。朝も、普段は旭が先に起きている。全く眠っていないような様子ではないが、少なくとも蒼葉よりは眠っていない。
 翌朝目覚めた時に、旭はまだベッドにいたが蒼葉を抱き締めたままずっと頭を撫でていた。いつからそうしていたのか蒼葉は知らない。
「おはよ」
 ずっと頭を撫でている旭に声をかけると掠れた声が「おはよう」と返ってきた。
「旭、声どうしたの。めっちゃ掠れてる。風邪でもひいた?」
「寝れなかっただけだよ。夜、薬を飲むの忘れて、それだけ」
「全然寝てないの」
「うん」
 なんでもないことのように旭は言う。確かに蒼葉も徹夜することはある。珍しいことではない。けれど、旭の声はあまりにも掠れていて、ずっと蒼葉を離さないで撫でている行動にも不安を感じる。それから──
「なあ、旭。硬くなってる」
「気にしないでいいよ。寝れないとなるんだ」
 そう言われても蒼葉には納得できない。昨日は眠っていたから朝の生理的な現象だと思っていた。おそらくそういう種類のもので合っている。けれど、はっきりと硬くなっている陰茎を蒼葉は無視できない。気にしなくてもいいというのは性的欲求ではないと言いたいのか、蒼葉が拒否されているのかわからない。
「ちゃんと説明しろよ」
 しばらく蒼葉を撫でたまま黙っていた旭は吐息を零して口を開いた。
「本当に、寝れないとなるだけだよ。ぼくは随分長い間、不眠を放っておいたからそのせいだと思う。自覚してなかったんだ。でも、眠らないと躰が休まらなくて日常的に生存本能が強くなって……要は、種を残そうっていう風に躰が反応しちゃって、勝手にこうなるんだって」
「それ、どうしてたの」
「発散してた。単純に、インスタントに。そういうサービスの店で」
「それでなんでいまは俺に気にするなって言うの。ヤリたいんじゃないの」
 旭に抱かれたまま、蒼葉は静かに言葉を聞いて問い返す。男を相手にする男の風俗店くらいは驚かない。旭が風俗店を使っていても驚かない。けれど、硬くなった陰茎が触れているのに気にするなということは納得できない。
「……蒼葉を発散の道具にしたくない……」
 頭を撫でていた手が止まって、旭の腕が強くなった。掠れた声が切羽詰まって蒼葉には聞こえる。
「今更、なに言ってんの」
 くす、と蒼葉は笑う。
 大事にしようとしてくれることは伝わっている。旭は無理強いしても蒼葉に暴力をふるっていない。不器用で歪だな、と蒼葉は旭を撫でた。
「発散の道具じゃないでしょ。俺はフーゾクの男じゃないじゃん。種は残んないけど、旭にとって俺はそういう対象だろ。代替品じゃないだろ。んで、ヤッたら寝れたり落ち着いたりすんの?」
「眠れるわけじゃない……薬を飲めば眠れはするけど……落ち着きは、する」
「じゃ、シよ。その方がいいじゃん」
「めちゃくちゃにしちゃうんだよ」
「いいよ。旭がしたいようにしていいよ。めちゃくちゃでもいいよ」
 すっぽりと腕の中に納まって蒼葉は腰を摺り寄せた。硬く張り詰めた陰茎が腹を擦る。
 それが生存本能の表れならば、無視するのは難しいだろう。生理的現象とは訳が違う。めちゃくちゃにしてしまうという旭の言葉は、そのままなのかもしれない。いままでを加減されていたかどうかと言われ
れば疑問ではあるが、制御できないとかいう意味ではあってるだろう。
 青葉がいいと言っても旭はまだ強く抱いたまま、迷っている。腰だけ、蒼葉に強く押しつけられている。
「旭さあ、そんだけ押し付けといてなにもしないの? また俺に押し倒されたい?」
 そう訊いてから蒼葉はふと昨日のことを思い出した。旭は自分が危険だと思っていればいるほど、どれだけ煽っても理詰めにしても簡単に動かない。問い詰めると旭は動けなくなってしまう。
 躰をぴったりとくっつけて腰を押し付け合って、抱かれている中で蒼葉は顔を上げて旭の首筋にキスを落とした。ひく、と旭が反応する。
「……旭。シよ」
 首筋に唇を触れたまま、蒼葉は囁いた。ゆるりと片手を旭の腰に回して撫でる。返事を待たないで、もう一度、今度は跡が残るキスをゆっくりとして顔を上げた。唇に触れるキスが返ってきた。蒼葉は触れるだけのキスをたっぷり受け取ってから、そろりと舌を伸ばす。
 きっと、旭の作ったシナリオを演じる旭しか知らなかったのだろうなと蒼葉は気付く。計画していれば無理にでもなんでも犯すことができる。事前に覚悟があるから。綿密な計画とシナリオと覚悟。それ以前に犯罪行為を実行する決断。それだけあれば、恐らくたいていのことは怖くない。そもそも、シナリオは容疑者逮捕で終わる。けれど、もう旭のシナリオは破棄されて、用意していた計画もなにもないところにいる。
 本来の旭は、たぶん真面目で慎重な男だろう。職業柄、危険なことを強いることも少ないはずだ。風俗で発散していたといってもインスタントにと表現するのだから、制御できないほどの欲求をぶつけていないだろう。所詮、相手は商売で男の相手をする男だ。気持ちなどない。
「旭……いっぱい、シよ。もっとあんたのこと教えてよ」
 唇に舌を這わせながら、蒼葉は笑って言った。まだ、互いのことをほとんど知らない。ただ、セックスだけを重ねたような一か月半。それでも蒼葉は旭を選んでいる。
「嫌われそうで怖いな」
「今更なんだよ。そんなこと考えるくらいなら、俺に新しい性感帯教えること考えてろよ」
 弱気なことを言う旭の口を塞いで蒼葉は深いキスをする。口内を舌で愛撫すると、舌が絡まってきて、背中に回った手が蒼葉の項を撫でて耳朶で遊ぶ。指先が耳の軟骨をなぞっていくとじわりと気持ちいいけれど、まだ焦れったい。
 青葉は両手を旭の背中に回すとキスを絡めたまま、躰を動かして仰向けになって旭を受け止めた。体格差の分、受け取る重みが肺を潰すけれどキスも腕も離さない。先にキスを離したのは旭の方だった。陰茎が触れる足の根元に旭の重みが移って、上半身がゆっくりと離れていく。けれど、背中に回っていた両手が蒼葉に触れたまま首筋から顎を掬う。
「蒼葉はとても強いのにやっぱり可愛いね」
 困ったように笑って旭は顎を上げた蒼葉に息が詰まるキスを重ねた。

 耳に擽ったくて気持ちいいキスをいくつも与えられながら、片方の乳首を指先でゆっくりと愛撫された。キスの合間に旭が囁く低い声が直接鼓膜を揺らして、脳みそを揺さぶられる。時々、項が撫でられて、勝手に顎が上がる。蒼葉は両腕を旭の首に回して、耳と乳首に快感が走る度に濡れた声を零した。
「旭……気持ちいい……」
「蒼葉。とても上手に気持ちよくなれるようになったね。ぼくだけに感じてね。ぼく以外に、そんな可愛い顔見せないでね」
「あんただけだよ」
「痛いのも苦しいのも気持ちよくなっちゃう蒼葉が好きだよ。とても可愛い。大好き」
 耳元で囁きながら旭は片方の乳首を強く摘んでこね回す。びくりと蒼葉の躰が痛みに震えて、零れた声は濡れていた。
「いっぱいイッてね。蒼葉の気持ちいい顔見ると、興奮する」
「じゃあ、もっとして。イクようにしてよ。旭の方が、俺の気持ちいいとこ知ってんだろ」
「うん。たぶん、蒼葉が簡単にイッちゃうことも、わかるかな」
 耳に旭の悪戯な声が触れて、キスと手が離れていった。腰を浮かせた旭に蒼葉は上半身を起こされる。
「顎、上げて」
 唇に軽いキスが触れて言われるがまま蒼葉は顔を上げた。片方の乳首はまた摘まれて潰されてこねられている。それだけでも痛くて気持ちいいのに、顎を上げた喉仏を旭の指が何度も撫でて蒼葉はぞくりとした。
「怖くないの、わかってるよね」
 喉仏を撫でていた指が唇に触れて、旭は穏やかに言う。口を開けろとは言わない。ただ、指先が唇をな
ぞって促している。こねられている乳首が引っ張られてから滑った指に解放されて、痛くて呻くのに気持ちいい。蒼葉が唇を撫でられている間、何度も乳首を引っ張る痛みを与えられて、乱れる呼吸に口が開いたところに指が侵入してきた。
 喉の奥深くが気持ちいいことを知っているのに躊躇ったのは、同時に快感を受けたことがないせいだ。痛い快感に呻くと奥歯を強く噛んでしまうから、口を開けたら噛んでしまいそうで怖かった。
「……がっ……」
 覚悟しないで舌を押さえつける指に口内を撫でられながら、乳首に痛い快感を受け取る。どちらも気持ちいいのに、苦しさと痛みがぐじゃまぜで蒼葉は戸惑う。顎が上を向いているせいで旭の指は簡単に喉まで届いて舌の根を撫でられて呼吸が難しい。
「う、ぐ……あ、ああっ……」
 次第に口に溜まる唾液がぐちゃぐちゃな音を立てて、飲み下せない。喉に流し込もうとして上を向けば、旭の指が喉を塞いで撫でて苦しいのに気持ちいい。乳首は強く潰され、ひねり上げられて引っ張られる痛みが気持ちいい。言葉は封じられて、潰れた声がかろうじて上がるだけ。
 苦しさと痛みの快感に蒼葉は躰を強張らせる。強い痛みに躰をびくりと震わせて、喉の深くを塞がれて震える。ぐちゃぐちゃな唾液の水音が喘ぎ声の代わりになった。
「あ……あ、うあ」
 青葉の躰があっという間にびくびく震えて止まらなくなる。苦しくて痛いのに、気持ちよくておかしくなってしまいそうだ。
「苦しくて痛いのに気持ちいいね。蒼葉。イケるように、もっとしてあげる」
 上を向いた蒼葉には旭の声しか聞こえない。視界に入っていたとしても、苦しみと痛みに目を瞑っていて見えない。苦悶の中で蒼葉は恍惚を浮かべている。喉を撫でる旭の指が更に押し込まれて、触れていなかった乳首に鋭い痛みが走った。
「あああっ……」
 くぐもった悲鳴が上がって、蒼葉の震えは硬直に変わった。あ、という短い声が何度も零れる。喉の奥深くに指を押し込まれて強く押さえつけられて、両方の乳首に鋭い痛みがある。乳首が引っ張られて、増す痛みから突然解放されて、喉を塞いでいた指がゆっくりと引き抜かれると唾液を零しながら蒼葉はぐったりと旭に向かって倒れた。
 呼吸の自由が戻って、蒼葉は短い息を繰り返す。乳首だけで達した時よりも訳がわからない。達したのはわかっても、快感がぐちゃまぜで理解が追い付かなかった。ぞくりと怖くなって、気付いたら旭の躰に腕を回していた。
「可愛いね、蒼葉。苦しいのも痛いのも気持ちいいの、怖かったかな」
「旭……怖くない……。あんたが俺にすること気持ちいいから、もっとして」
 まだ絶頂が抜けない躰で蒼葉は強請る。理解は追い付かないけれど、達した快感はある。震えていても、まだ満足していない。蒼葉を満たすものはそんな絶頂では足りない。
 蒼葉は旭の躰に回していた片手を下ろして、力を込めて引き寄せると硬い陰茎に指先を添えて顔を下ろす。そっと舌を這わせてから口に運ぶ。喉の奥深くを指で愛撫された分、深いところが開いていて咥え込みやすくなっていた。
「蒼葉。してくれるの? それとも、まだ喉で気持ちよくなりたいの?」
 いったん、喉の奥まで咥え込んで離すと旭に頭を撫でられた。
「両方」
「欲張りだね、蒼葉」
 ふふ、と旭は笑って腰を上げた。下を向かなくても咥えやすくなって、蒼葉はそのまま旭の腰を強く抱いて喉の奥まで迎える。指よりも深く届く陰茎をいっぱいに咥えて、舌よりも喉を刺激するように吐き出さない程度に小さく動かす。喉を塞いだ口内の唾液の音が鳴る。隙間なく喉を塞がれて、声は出ない。
 自ら喉を塞いで苦しいのに、気持ちいい。口の中で旭が反応を見せると嬉しくなる。
「……可愛い……」
 とても嬉しそうに呟く旭の声が聞こえた。頭を撫でられて、蒼葉はひくひくと震える。達したばかりのところに自分から咥え込んで、敏感な場所を刺激している。蒼葉が旭の陰茎を咥えたまま達するのはとても簡単だった。
 苦しくて、苦しくて、うっとりしてしまうほど気持ちいい。
 ぐっと腰を押し付けられると、蒼葉は無言の声を上げて旭の腰に回した腕を強くして躰を痙攣させた。陰茎を咥え込んだ頭だけが小さな動きを早くして苦しさを増す。限界まで喉奥を塞いで絶頂を貪る。苦しくて気持ちよくて、少しでも長く感じていたくて喉奥を突いて吐いてしまいそうになってやっと蒼葉は口を離した。
 いくつか咳をして眩暈はするけれど、唾液を零しただけで震える躰は絶頂を隠せない。
「蒼葉」
 咳き込んだ顔を上げられて呼ばれたまま、旭にキスをされた。キスだけで蒼葉はひくりと震える。
「気持ちよくなるの、上手くなったね蒼葉。ここも、ここも、気持ちよくなっちゃう。たぶんそのうちここもイッちゃうよ」
 唇、乳首、耳の順番に撫でて旭は愛おしそうに笑う。
「全部、旭がそうしたんじゃん」
「うん。でも、イケるようになれたのは蒼葉だよ。駄目なものは駄目だから。だから、とてもいい子だね」
 ゆるりと抱いて、旭は穏やかに囁く。片手の指先がゆるりと蒼葉の躰を撫でて尻に辿り着いた。
「俺の躰、全身気持ちよくすんだろ? まだほかにもあんじゃん」
「そうだね。でも、蒼葉が可愛いから一番気持ちいいえっちな顔見たくて我慢できなくなった」
「あのさ。旭ってエロくない俺は好きじゃないの?」
「全部好きだよ。蒼葉のこと丸ごと好き」
 ふと蒼葉が訊いた言葉に、旭は笑って返事をくれた。

 直腸を慣らすのも早々に挿入を強請ると、膝に乗せられてゆっくりとこじ開けられた。それだけで蒼葉は震えて軽く達する。根元まで陰茎を尻の中に収めると、ゆっくりと溜息をつく。直腸に陰茎を挿入されることが満足感に繋がるなど、前の蒼葉には想像できなかった。
「気持ちいい」
 満足げに呟くと、旭が頬にキスを落とした。
「蒼葉。可愛い。とても可愛い。大好き」
 ぎゅ、と旭に強く抱き締められると挿入が深くなって蒼葉は躰を震わせる。
「馬鹿っ! そんなにしたら、イクっ!」
「いいよ。何回だってイッて。気持ちいい顔もえっちな顔もいっぱい見せて」
「……強欲……」
「そうだよ」
 挿入する前に既に何度も達しているのに旭は自分よりも蒼葉の快楽を優先する。蒼葉が達する度に、旭は満足げな笑みを零す。
「ぼくが触って、蒼葉が気持ちよくなってくれるのが嬉しい。ぼくだけって言ってくれて嬉しかった。ぼくがイクよりも、蒼葉がたくさんイッてるとこ見てる方が気持ちいい。だからめちゃくちゃにしたくなっちゃうし、壊したくなる。……ごめんね」
 強く抱き締めて深く穿ったまま、旭は耳元で囁く。きっと答えは求められていない。蒼葉は旭に抱き締められたまま、無駄だと思いながらそっと息を整えた。
 旭の抱く片腕が腰を強く固定して、深いまま蒼葉を揺さぶる。両手を旭の首に回した蒼葉は胸に縋るようにして躰の中から突き上げられる快感に声を零す。
「旭っ……旭、や、ぁ……いい、気持ちいいっ……」
「蒼葉の中、すぐにきつくなっちゃうね。気持ちいいんだね」
 腰を抱いて器用に揺さぶりながら、旭は縋る蒼葉の顔を上げて前髪を分けて額にキスをいくつも落とす。蒼葉に映る旭の顔もとても恍惚として見える。
「中、入ってるだけでも……いいのにっ」
「でも、入ってるだけじゃ、イカないでしょ。いっぱいイケるようにしなきゃね」
 穏やかに笑って旭は首にかかる蒼葉の片手を解くとベッドにつかせた。縋っていた蒼葉の上半身が離れて、挿入の角度が変わる。蒼葉の直腸の奥深くに旭の陰茎が届いてびくりと震える。そこが達してしまう場所だと蒼葉はもう知っている。旭の片手は蒼葉の腰をしっかりと支えたまま離さない。
「蒼葉、首の手、危ないから離さないでね」
「う、ん」
 そう言われて蒼葉は旭の首に回した片手を強くしたけれど、絶対離さない自信がない。躰が勝手に絶頂を期待してもう震える。旭は片手で蒼葉の腰をしっかりと支えて、片手で唇から首筋、鎖骨とゆっくりと撫でている。
 深いところを貫かれていて、直腸が拡げられていて、それだけで気持ちいい。
「あ……は、ぁ……」
 じりじりと動かないで躰の中にあるものを感じているだけで蒼葉から我慢しきれない声が零れていく。ゆっくりと腰を振ると、奥が刺激されて深いところが気持ちいい。腹の奥から快感が広がって満たされるのに時間はかからない。強く腰を押し付ける頃にはもう足先を丸くしてしまうほど気持ちよくなって、快感に襲われている。
「旭……イッちゃう……たくさん、イッちゃう……」
 抜いてしまわない限り、何度も絶頂を貪ると蒼葉は譫言のように言う。旭の首に回した手を離さないように、無意識に爪が立つ。
「うん。たくさんイッて。蒼葉がたくさん気持ちいいと、ぼくも気持ちいいよ」
 青葉の躰を撫でていた旭の手が乳首に触れて、眩暈がしそうなほど頭を振って蒼葉は達した。躰がきつく硬直して、腹の中に突き刺された旭の陰茎の形だけがはっきりと気持ちよくて、力尽きるまで締め上げて味わう。深い絶頂の後は、躰が勝手に緊張と弛緩を繰り返して何度も繰り返し達する。
「やぁ……いいっ……気持ちいいっ……またイクっ、止まんないっ……」
 そうなってしまうと躰が勝手に絶頂を貪って蒼葉にはどうにもならない。ひたすら溺れるだけだ。なのに。
「蒼葉。もっとよくなろ」
 耳に信じられない声が届いたと思ったら、触れていた指が乳首をきつく摘んで潰された。蒼葉から悲鳴が上がった。躰が絶頂を貪っている最中なのに、鋭く痛い快感が継ぎ足されて訳がわからない。
「や、……あさひ……あ、ああっ……やぁあ」
「中、もっときつくなった……。蒼葉、いや? やめていいの?」
 摘んで潰された乳首がひねって離されると、蒼葉は頭を振る。
「もっと、して……旭、全部、気持ちいい、から……して」
「うん」
「両方、イカせて」
「そうだね。すごく気持ちよくなれるね」
 再び乳首が強く摘まれて潰されると蒼葉は達しながら呻く声を上げる。絶頂に襲われているのに、鋭い痛みの快感が加わって更に気持ちいい。ひねり上げられて鋭い痛みから解放される瞬間、頭が真っ白になって躰がぴんと張って糸が切れたように弛緩するのに、また痛めつけられてひくりと躰が震える。
「あっ……ああ、あっ……気持ち、い……ずっと、いい……っ」
 数えきれないくらい達して躰が震えるだけしかできなくなった頃にもうひとつ、乳首を酷くされて蒼葉が震えると、ベッドについていた手が崩れた。かくんと躰の支えを失った蒼葉が倒れそうになるのを旭の腕が支えて、引き寄せられた。
 青葉は達しすぎて躰の震えが止まらずに肩で息をしている。旭の腕に抱かれて、挿入は深いままだが乳首の快感はなくなったのにまだ絶頂の名残で時々、喘ぐ声を零す。
「あさひ……動いて。もっとよくして。俺にまだしてないことも、して。俺で気持ちよくなって」
 切れ切れの呼吸で蒼葉は本能のままに言葉を吐き出す。躰の震えが止まらなくても、達しすぎていても貪欲な欲求がまだ足りないという。
「めちゃくちゃにして壊してもいいんだ?」
 青葉の震える躰を抱きながら旭はくすりと笑う。
「いいよ……あんたなら、いい」
「可愛いね、蒼葉」
 抱かれたまま蒼葉は頭を撫でられると、下から激しく突き上げられて息が詰まった。絶頂の名残がある躰を突き上げられて蒼葉は強引に声を押し出されて、旭にしがみつく。臍の下あたりを擦られて、快感の中心が移る。
「あ、さひ……」
 突き上げられる度に衝撃に零れる声の合間に蒼葉は呼ぶ。
「こわして、よ」
 朦朧としたまま蒼葉は呟く。言葉など選んでいなくて、勝手に出た。ただ、旭の欲求を全部ぶつけられるならいいと思った。旭は我慢しすぎる。だから、自由にしたかった。強く抱き付いた片手を離して手探りで旭の右腕を捕まえて解くと、手を絡めて旭のすらりと長い指に触れて確かめるとそのまま持ち上げて舌を這わせる。口にいっぱい含んで舌を絡める。
「蒼葉……気持ち、い……」
 旭の声に蒼葉は頷くと、たっぷり指に舌を絡めてから顎を上げた。指が舌の根を超えて喉に届くように咥える。中はかき乱されて気持ちいいのに、まだ快感を上塗りしようとする。声を出せない蒼葉は旭の手を口にねじ込んで、自ら喉を塞ぐ。突き上げられる度に躰が揺れて、そのままでも勝手に喉奥に刺激が増しているのに、旭が蒼葉の口に入った指で舌の根を押さえて指を深くして動かした。
「う、ぐ……っ」
 下と上の穴を塞がれて、蒼葉はびくりと震える。直腸はもう挿入されるだけで気持ちよくて、突き上げて強く擦られると震えて止まらないのに、自分で咥え込んだ指が苦しい快感を注いでくれる。喉の奥にぐちゃぐちゃな唾液が溜まって鳴る音に溺れる。
 旭を抱く腕を口に入れた手を強くして離さないまま、蒼葉は上と下の快感を貪ってびくびくと震える。声を出せない分、掴んだ手を強くしてもっと強請った。連続する絶頂ではない、大きな快感に溺れる予感がする。
 ぐちゃ、となにか水音がして落ちる舌を強く押さえられて喉奥まで何度も撫でられて蒼葉は躰を硬くした。びくり、と大きく震える。でもまだそれは絶頂ではなかった。首に手が触れる感覚がして、ぐちゃぐちゃの快感の中で蒼葉は恐怖に震える。もう息ができなくて苦しくて気持ちいい。腹筋が壊れたように収縮と弛緩を繰り返している。なのに。
 喉を潰すのではなく、首に躊躇いなく力が加わって蒼葉は飲み込まれた。
 頭が真っ白になって、濁流のような快感しか拾えない。全身が硬直しているのに、股間から生温いなにかが溢れて止まらない。
「蒼葉、イッていい?」
 返事などできるはずもなく、直腸の奥に吐精された。
 首が解放されて、蒼葉はびくりと激しく震える。まだ咥えた指が喉奥を撫でて、息ができないままで苦しくて気持ちいい。直腸の奥に突き刺さった旭の陰茎は吐精のあと、まだ脈打っている。舌を押さえつけられたまま、喉を激しく撫でられて蒼葉は上と下と同時に深く達した。
 ゆっくりと慎重に指を引き抜かれてやっと蒼葉は呼吸ができた。躰は旭に強く抱き締められていて、もうひとつも力が入らない。腹の中に突き刺さったままの陰茎がまだ蒼葉に快感を与え続けて、少しも萎える気配がない。
「旭……すごく気持ちいい。まだ、してくれんでしょ?」
 痛くても苦しくても、一瞬殺されるのかと恐怖しても気持ちいい。旭だからだ。
 ぐったりと力尽きて動けないのに、蒼葉はまた旭を強請った。

 その後、一度も抜かないまま蒼葉は三度腹の中に吐精された。ぐちゃぐちゃの快感は直腸の中だけでなく全身に広がっていて、喉を塞がれても乳首を痛めつけられても首を圧迫されても気持ちよくて何度も達した。耳を舐められて、指を愛撫されても達した。躰が全部性感帯になったようで、おかしいくらいに簡単に達して、硬直して痙攣して震えては弛緩する。体力などないのに、感覚は鋭くて喘ぐ声は掠れてかさかさになっていた。
 三度目の吐精が終わってぐったりした旭の額が蒼葉に押し付けられて余韻に躰を震わせていると、頭をゆるりと撫でられた。
「蒼葉。抜くね」
「もう? や、だ。……まだ、イキそうなの、にっ……」
「でも蒼葉、動けないでしょ。休もう」
 押し付けられた額のまま旭を力任せに抱いている蒼葉は頭を振る。
「このままで、気持ちいいから……も、いっかい……だけ、イカせて」
「じゃあ、蒼葉はどうされたいの」
「……なんも、しなくて、いい……っ」
 ぎゅうぎゅうに旭を抱いたまま、蒼葉はひくひくと躰を震わせる。数えきれないほど達して、絶頂のハードルが低くて、直腸の深くに吐精された余韻だけで達しそうなのだ。勝手に腹が直腸を貫く旭を締め付けては緩んで、躰が快感を貪っている。ひとつ激しく締め付けて、蒼葉は躰を硬直させる。
「あさひっ……やだ、もうイッちゃう……まだ、やだっ」
 ずっとこのままでいたくて蒼葉はじりじりと達しているのに頭を振る。旭に回した腕が強くなって背中に爪が立つ。
「蒼葉、イッても大丈夫だよ」
 ただ、吐精した後にまだ挿入しているだけなのに達する蒼葉の腰を旭は強く抱いた。それだけで蒼葉は硬直した躰を大きく震わせて、深く達する。声など出なくても躰の反応が絶頂をいくらでも伝えた。強く抱き締められただけで蒼葉は旭の腕の中でびくびくと躰を震わせて、壊れたおもちゃのように痙攣して息もできない。
 長い絶頂が過ぎると蒼葉は旭の腕に崩れて、ぜいぜいと息をした。
「すごく気持ちよくなったね、蒼葉……」
「あさ、ひ、は……満足、してんの?」
「十分すぎるほど。だから、蒼葉。もう休もう? いま欲張らなくても、大丈夫だよ」
「やだ。俺じゃなくて、あんたがもう無理って言わないと、やだ」
 めちゃくちゃなことを言いながら蒼葉は肩で息を繰り返した。自分の限界がとうに超えていることは知っている。喋れて意識があるだけましだ。だから、余計に手がかかるともいえる。
「無理だよ。ねえ、蒼葉。そんなに強請られちゃったら、ぼく絞りつくされちゃうよ」
「……そうなればいいのに……」
 悔し紛れに笑って、蒼葉はぐったりとして反抗を諦めた。旭の言葉が本当かどうか見極める判断力も残っていない。
 躰の中から芯が緩んだ陰茎がゆっくりと引き抜かれて蒼葉は吐息を零す。足に少し零れた精液が伝った気がした。セックスの最後はいつも蒼葉が旭の陰茎を舐め尽す。解放されて無意識に動こうとした蒼葉は旭の支えをなくしてかくりとベッドに崩れた。
「蒼葉。大丈夫かい? 一緒に風呂入ろう?」
 そっと頭を撫でて旭は言い聞かせるようにする。蒼葉はそんなに夢中になってしまったのかと、今更驚いた。シーツが汚れるのはいつものことだが、水溜りのようになるまで濡らしたことはない。蒼葉の目に映るベッドはどこもべちゃべちゃで酷い有様だ。全部、蒼葉が零した体液の汚れ。
 ぼんやりしていると旭に抱き上げられて風呂に運ばれた。湯を貯めながら浴槽の中でべたべたになった躰を洗われた。全部綺麗にされて、流しっぱなしの湯が浴槽を入れ替えるまでぬるま湯に浸かっているとようやく蒼葉の気持ちは少し落ち着いた。
「……旭は、本当に満足した? 落ち着いた?」
「うん。蒼葉がたくさん気持ちよくしてくれた。ぼく以上に求めてくれたから、落ち着いたし満足してる。本当だよ」
 ゆるりと背中から抱かれて、穏やかで静かな返事が返ってきた。蒼葉はもうそれを信じるしかない。
「風呂上がったら、一緒に寝よ。旭、薬飲めば寝れるんでしょ。一緒に寝てよ」
「うん……そうする」
 少し躊躇った声で旭が頷いた。

 足腰が立たなくて、風呂を上がった後も蒼葉は旭に運ばれて、普段旭が座っている椅子に座らされてシーツの交換を見ていた。掛け布団は蹴とばして落としていて無事だった。汚れたシーツを洗濯機に放りに行った旭が戻ってくると、蒼葉はベッドに戻されて横になった。
「旭、ちゃんと薬飲んで。あんたがちゃんと寝るまで、俺、起きてるよ」
 激しいセックスの後でろくに動けないまま、蒼葉は旭を見上げていった。そうは言っても、蒼葉も疲れていていまにも眠ってしまいそうだ。
「情けないとこだから、あんまり見られたくないんだよ」
 旭は困り顔で笑うと個包装された透明な袋を破って、いくつもの錠剤を直接口に入れ枕元の水で飲み込んだ。そんな数を飲まないと眠れないのかと、蒼葉は単純に思った。
「これでいい?」
「うん」
 青葉が頷くと、旭が蒼葉をゆるく抱くように隣に潜り込んできて呼吸が触れた。
「……現実感、ないな……」
 ぽつりと呟かれて、蒼葉もそうだなと思う。一か月半で、世界が変わった。けれど、蒼葉はそれを嫌だとは思っていない。
「旭。いっこお願いがあるんだけどさ」
「なに?」
「足、さ。まだ走ったりできるようになる?」
 完全に走れない訳ではない。けれど、蒼葉はリハビリを拒否した分、日常生活でも長く走ると左足が痛む。ずっとスポーツから目を逸らしていただけ、いまの蒼葉がどれだけの持久力や瞬発力があるのかもわからない。筋力は明らかに落ちている。そんなことを考えながら、蒼葉は顔を伏せた。
「え? え? 青葉?」
「ちゃんと答えてよ」
 唐突な言葉に驚いている旭に蒼葉は更に顔を隠す。今更だとは知っている。リハビリをすすめてくれて、拒否した男に言うことではないかもしれないが、ほかに蒼葉には言える相手がいない。
 ぐい、と蒼葉は隠した顔を旭に押し付けた。
「また、バスケしたくなった。旭のせい。昨日、あんたと喋ってる時の俺、バスケの試合中と同じ思考回路だった。ずっと、そんなん忘れてたのに。旭のせいだから、ちゃんと答えて」
 旭は不眠で薬を飲んでいる姿を情けないというけれど、蒼葉は自分の方がもっと情けないと思う。一時の感情で諦めたものをまた欲しがっている。自分勝手だ。そうなるかもしれないことを旭は知っていたのかもしれない。
 ゆるりと顔を隠した蒼葉の頭が撫でられた。
「蒼葉。遅いことなんてないよ。放っておいてしまったから、少し時間がかかるだけ。無理にしないで、しっかりテーピングしていればいまでもできるよ。大丈夫だよ、蒼葉」
「ありがと、旭」
 短い返事をすると、蒼葉は疲れに身を任せて瞼を伏せた。薬を飲んだ旭はたぶん、蒼葉を抱いたまま眠る。疑って眠るまで起きていることなどできないし、したくないと思った。
「蒼葉。ぼくは眠って起きたら、蒼葉がいなくなるんじゃないかって怖かったんだ。昨日、本当は薬を飲み忘れたんじゃない。飲まなかった。いまは……どうしてかな、少し怖くなくなった」
「……うん……」
 独り言のように言う旭に蒼葉は頷いた。

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馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

ヤバい薬、飲んじゃいました。

はちのす
BL
変な薬を飲んだら、皆が俺に惚れてしまった?!迫る無数の手を回避しながら元に戻るまで奮闘する話********イケメン(複数)×平凡※性描写は予告なく入ります。 作者の頭がおかしい短編です。IQを2にしてお読み下さい。 ※色々すっ飛ばしてイチャイチャさせたかったが為の産物です。

年下くんに堕とされて。

bara
BL
イケメン後輩に堕とされるお話。 3話で本編完結です

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

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