俺は特攻隊員として死んだ

SaisenTobutaira

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当たり前

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車窓に映る数々の景色を、清らかな心で眺めていた。ガタンゴトンと揺れる車内は遠い昔に乗った木馬を思い出させる。

誕生日に、家具屋の池田さんから父が買ったドイツ製の木馬。これはドイツ製だから高かったんだぞと自慢げに話す父の顔の隣で、なぜこんなものを買ったのかと少しばかり呆れているが微笑んでいる母の顔が鮮明に浮かんだ。そして、嬉しそうに遊ぶ俺も。

ただ揺れるだけの木馬に熱中していた幼い頃。あの何の不安もない、毎日が永遠に続くようなあの感覚。当たり前のように起き、当たり前のように食べ、当たり前のように遊び、当たり前のように寝るあの感覚。いつしか忘れたあの感覚を少しばかり思い出した。

なぜ、今更思い出したのだろうか?幼い頃の当たり前の感覚と死ぬことが当たり前の今日日の感覚が脳内で混じり合い、混乱しているのだろうか?

わからないが、ただ涙が溢れていた。

俺は日本男児として情けない。きっとこの涙は死への恐怖に対するものだ。

破れかけたポケットから手拭を取り出した。晴子さんからもらったこの手拭で涙を拭くと、余計に溢れてきた。見送りに来てくれた晴子さんの笑顔。必死に涙を堪え、笑ってくれていたその姿が切なくて、愛おしくて、悔しかった。

今日、俺は西へ向かい、晴子さんは北へ向かった。

「どうしたんだ、そんな顔して」

次郎は汽車に乗り込むと早々に俺を見つけては話しかけてきた。彼は昨日、今日の二日間非番だったらしい。

「別に何も」

「嘘言え、お前の顔に全て書いてあるぞ」

「なんて書いてあるんだ?」

ひとときの間の後、次郎は言った。

「決意」

「次郎はどうなんだ?」

「お前と一緒さ」

「ダメだ。お前は生き延びて身寄りの無い子供達を育ててやってくれ。この戦争で親のない子がたくさん生まれるはずだ」

「それを言うならお前が生き延びろ。新婚だろ?夫のいない妻はどうなる?それに、俺は天涯孤独の身だ。生きようが死のうが誰も困りはしない」

「お前の方が多くの子供達を救える。子供達を救う事は未来の日本を救うことに繋がるんや。子供達無くして未来はない。その子供達が露頭に迷い、死んでいく事に俺は耐えられない。俺の妻は強い、大丈夫だ」

基地に着くまでお前が生きろの言い合いだった。

「帰ってきたな」

「ああ」

門を潜ると部下達に声をかけられた。

「お久しぶりです隊長。お怪我の方は大丈夫ですか?」

「おう、完璧に治った。菊池はどうだ?」

「おかげさまで完治致しました」

そう言うと被弾した足をテキパキと動かしていた。

「それは良かった。確か岡本は休暇だったよな、ゆっくり休めたか?」

俺の質問に岡本は薄暗い顔で答えた。

「家族も先祖代々守ってきた家も何もかも無くしました」

しまった……

「そ、そうか。すまないな」

「いえ」

力のない敬礼をした後、岡本は部屋へ消えていった。

彼は俺が不時着したあの空襲で何もかも失っていた。そのことを俺は知らなかった。すまないと言った俺に対して、そんなの皆んな同じだと言わんばかりの視線がいくつか向けられた。

皆、何もかも失っていると。





















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