俺は特攻隊員として死んだ

SaisenTobutaira

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静寂

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ようやく眠りについた俺は夢を見ていた。美しく壮大な自然を晴子さんと手を繋ぎながら歩いている。肌に当たる風が心地よく春か秋の夕暮れのように思える。子鳥のさえずりや小川のせせらぎ、悲しいほどに美しい夕焼けが写し出されている。これは夢であると夢の中で確信したが、まだ目覚めたくない、もっとこの風景を見ていたい。そう思った矢先、目が覚めてしまった。

時刻を見ると深夜二時、眠りについてまだ二時間しか経っていない。疲れていないせいか、それとも生きているということを実感したいのだろか眠ることを許してくれない。

これでは仕方ない……

ベッドから起き上がり病院を出るため、受付の前を通った。

「こんな時間に外出はいけませんよ」

「少しだけ、外の空気を吸おうと思いまして。
眠れないのです」

「少しだけですよ」

「ありがとうございます」

不思議そうな目で俺を見る看護婦に一礼をし外へ出た。

石階段に腰を掛け、どことなくぼんやりと辺りを眺めていた。いつからか俺は夜の静けさが好きになっていた。戦争など微塵も感じさせないこの静けさが心地よくもあり、不気味でもあるが好きだ。

神風特別攻撃隊として死んだ仲間たちはもう、こんな取るに足らない静けさすら味わうことができない。それなのに俺は呑気に黄昏れている。

すまない、すまない

彼らを思うといつも胸が苦しくなる。あの時勇敢に志願した彼らの後ろで、志願することができなかった俺は惨めだ。ただ一言、志願しますと言えなかったことがずっと心に残っている。

志願した彼らにも愛し、愛される多くの者が居たはずだ。そして皆、死にたくなかっただろう。いや、絶対に死にたくなかったはずだ。死の間際彼らは何を思い、何を感じていたのだろうか。志願したことを後悔していたのだろうか、それとも、後悔など微塵もなく清々しい気持ちで逝ったのだろうか。

俺にはわからない。

しかし、一人の人間として愛する家族や妻、恋人、友人達と一秒でも長く過ごしたかったのは確かだ。きっと残された者も同じ思いだ。

死への恐怖に打ち勝ち、彼らは志願した。なのに……

「少しだけと言ったはずですよ」

振り向くと肩掛けを手に持つ、先ほどの看護婦が居た。

「すみません、つい長居してしまいました」

「夜は冷えます」

そう言うと肩掛けを掛けてくれた。

「ありがとうございます。
あの……俺はいつ頃復帰できそうですか?」

「幸いに軽症ですから、二週間で復帰できると思いますよ」

「二週間ですか……」

「短いですか?」

「いえ、反対です」

「そんなに早く戦争に戻りたいんですか?」

「今も仲間達が戦っています。隊長の俺が不在では心配でなりません。たがら、一日でも早く復帰したいのです」

「わかりました。一日でも早く復帰できるよう最善を尽くします。では、早く部屋に戻って休んでください」

部屋に戻った俺はベッドで横になり目を瞑ったが、またしてもなかなか眠れない。目を瞑っていればいつか寝れるだろうと思いひたすらに目を瞑った。

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