俺は特攻隊員として死んだ

SaisenTobutaira

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病院

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俺は古びたベッドに座り、外を眺めている。小高い丘の上に立つ病院からの眺めはなかなかに美しく、退屈な心を少しばかりか和らげてくれた。時々傷口が痛むが、あれだけの高度から堕ちたのに奇跡に近い軽傷で済んだのだからと痛みに対しては苦痛さをあまり感じなかった。

墜落の知らせを受けた父や母、晴子さんは毎日お見舞いに足を運んでくれた。病院の特別な計らいだろうか、狭くはあるが個室を用意してくれたおかげで他人の目を気にせずありのままの姿、ありのままの心で話すことができた。特に晴子さんと過ごす二人だけの時間は何物にも変えがたい幸福感を与えてくれた。

「不謹慎ですけど、こうして二人だけで過ごせる時間ができて嬉しいです」

「はい。病室で過ごす新婚生活も悪くないですね」

俺の言葉に微笑む晴子さんの顔は今日も美しく、いつまでも見ていたいと思った。

「でも、本当によかった。賢治さんが死ななくて。墜落の知らせを聞いた時は覚悟を決めていたんですからね」

「実は……」

俺はあの時のことを晴子さんに話した。墜落することがわかった時敵機に体当たりしようとしたこと、体当たりの寸前で晴子さんの声が聞こえて間一髪で交わしたこと、死に対する恐怖に打ち負け死に切れなかったことを……

話し終えると手を強く握られ、涙目で強く怒りを訴えかける晴子さんにすまないと囁いた。

「あの日の約束を忘れたのですか?」

俺は言い返すことが出来ず、目をそらした。

「絶対に死なないという約束を。腕が無くなろうが、足が無くなろうがなんとしても生き抜いてください」

晴子さんの目から大粒の涙が膝の上に落ちたのが見え、女性を泣かせるなど、本当に自分が情けなく思えた。

「すまない、すまない、すまない……」

謝るだけで何も出来なかった。

夕日が沈んだ頃、面会時間も終わり晴子さんは帰っていった。

一人病室に残された俺はまたもや外を眺めていたが、先程食事の際に病室に持ってきてくれた新聞を読むことにした。これは本当にひどいものだ。書かれていることは嘘ばかりで、こんなもの今の日本人で誰が信じるのかと一人笑けていた。

敵空母三隻撃沈、我が軍の損害軽微の文字が一面に飾られていた。

そんなことあるものかと胸の中で突っ込んだ。敵空母撃沈など優秀なパイロット達でさえ叶えることは難しく特に、今の戦力差、技術差の元では夢のまた夢のように思える。

他のページを読んでも同じようなことばかり書かれており、新聞とは何なのかという問題にまたもや直面した。嘘を国民に伝えるのが新聞なのか?それとも嘘ではなく誰かが作った作り話、物語を披露する場が新聞なのか?などと自分に問いかけてみるものの正解を得ることはできなかった。

疲れていないせいか、なかなか眠りにつくことができず寝ようとはしているものの様々なことを考えている俺がいた。



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