俺は特攻隊員として死んだ

SaisenTobutaira

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不時着

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苦しい……

高高度の世界は地獄そのものだ。酸素が薄く肌寒く、薄れる意識の中で敵の機銃をかわしつつ、自機の機銃を当てる。本来この高度で戦うために作られていない自機は大きく悲鳴をあげる。俺は操縦桿を握り締め、心の中で頼むと言うばかりだった。

B29は城のように大きく、まるで空飛ぶ要塞だ。この高度でなければ機銃を浴びせるなど容易だろう。

また堕ちた

左後方には翼が剥がれかけた友軍機が火を吹き地上に向かって墜ちている。薄れる意識の中なら痛みも少なく、彼は幸せなのかもしれない。

不謹慎な考えだ

俺は一番近いB29に照準を合わせた。すると撃ち落されまいと、敵の機銃も一斉に火を吹き、銃弾の嵐を浴びせてくる。小雨と嵐、圧倒的に俺が不利だが仕方あるまい。激しい戦いが繰り広げられていた。

あれっ

敵機が火を吹き、撃墜間近の頃、操縦桿に違和感を感じた。いつもよりもはるかに重く、機体も言うことを聞かない。

なるほど

左翼から火が吹き、剥がれかけている。俺よりも低い高度にB29が見えた。

体当たりしかない

この状態では基地まで到底戻れない。それなら最期に一矢報いてやろうと思い、重い操縦桿を握りしめ人生の最期を感じていた。

「生きて」

聞き覚えのある優しくて愛おしい声が聞こえたと同時に、ギリギリの所で敵機を避けていた。

地上との距離は縮まり、退避する人々が目に入った。民家に落ちるわけにはいかず、右前方に見えた田畑に照準を合わせた。

不時着など初めてだ。

兵学校時代に上官から聞いた話を思い出しながら、必死に生き延びようとしていた。操縦桿を自分の腕のように扱い、凄まじい振動を感じた時地面に着地した。

機体が止まると同時にエンジンを切り、すぐさま退避した。数秒後機体は大爆発を起こし、赤い火柱が高く上がった。

俺は生き延びた。

地面に座りこみ立ち上がらない俺の元へ老人が駆けつけ、抱きしめられた。

「よかった、本当によかった」

見知らぬ老人は嬉し涙と共にそう言うと、水をくれた。

「ありがとうございます」

喉を通る水の感覚にありがたみを感じていた俺の目には涙が滲んでいた。

不時着を目撃した多くの人が続々と俺の元へ駆けつけ、消化活動に励んでいた頃、急に全身に痛みを感じた。

服は破れ、所々血が滲んでいた。興奮していたせいだろうか、今になってそのことにようやく気づいた。

軍医に抱えられ病院へ向かった。診察の結果、擦り傷や打ち身程度で命に別状はなく、奇跡に近い状態だった。

これなら二週間の休養を告げられただけですぐに前線へ復帰できる。

よかった……











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