俺は特攻隊員として死んだ

SaisenTobutaira

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帰戦

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汽車の窓から外をぼんやりと眺めていた。皆が日本国旗を振り、思い思いの言葉が飛び交っていた。俺の隣にいる青年の母は、絶対に帰ってくるんだぞといわんばかりの目をしながら、旗を振っていった。父や母、晴子さんだけでなく、晴子さんのご両親までもが俺の見送りに来てくれた。表情は暗く、まるで最後の別れを告げているかのようだった。

「行って参ります」

ただ一言、笑顔で皆を見つめた。涙ぐむ晴子さんを見ると胸が熱くなり、涙を流しそうになったが、必死に堪えた。

出発の笛が鳴り響き、戦場へ戻る兵士と見送りに来た人々の熱気が最大限に高まった。多くの男達と同じく俺もありがとうの言葉を叫び、汽車の窓から身体を放り出し懸命に手を振っていた。

徐々に速度が上がり始めた。ちょうど五歳くらいの少年だろうか、満員のホームを速度が上がる汽車に負けずと走り、お父さんお父さんと叫び手を振っていた。

「健太、母を任せたぞ」

誰よりも大きな声で叫んだ彼は、ホームが見えなくなった所で涙を流していた。

汽車の中は先程までとは一転、静けさに包まれていた。鼻をすする音でさえ響き渡るかのようだ。

窓の外には慣れ親しんだ街が映し出されている。幼い頃に家族で遊んだ公園は、雑草に埋め尽くされあれほど子供達を魅了し、吸い込んでいた場所は死んでいた。

この汽車に乗る多くの人は死ぬだろう。もしかすると、全員死ぬかもしれない。人を魅了し、人に魅了された人間も、あの公園のように雑草に埋め尽くされ、忘れ去られるのだろうか。過去の人として、ある時代の人として仕方がなかった犠牲として死んでいくのだろうか。

「おい、賢治か?」

物思いに耽っていた頃、突如声をかけられた。声に聞き覚えがないわけではないが、誰か分からず、ゆっくりと声の方向に目を向けた。右目の下に切り傷の跡が残る、ニキビ顔の男が立っていた。

「お、忠夫か?久しぶり」

「やはり賢治か。まさかこんな所で会うとはな。お前は昔と何も変わってないなあ」

「本当か?お前こそ変わってないぞ」

忠夫とは昔、よく遊んだ仲だった。彼は十歳の頃、父の仕事の関係で地元を離れそれ以降会っていなかった。およそ、二十年ぶりの再会だった。

昔話に花が咲き、幼い頃の記憶がみるみると蘇り、こんなにしょうもないことをなぜ今でも覚えているのだろうかと自分でも驚いた。

「お前は何してるんだ?」

「俺は戦闘機乗りになった。忠夫は?」

「一緒だなあ」

忠夫もパイロットになっていた。そして、南方へ向かうらしい。

「じゃあ、先降りるわ。楽しかった、ありがとな」

「おう、空で会ったらよろしくな」

忠夫は先に降りて行った。終点までの時間、晴子さんとの手紙を振り返っていた。宝物であるこの手紙達を一枚ずつ振り返り、思い出に浸っていた。
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