俺は特攻隊員として死んだ

SaisenTobutaira

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仕方ない

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山頂からの眺めを堪能した後、山を降りた。小鳥のさえずりが心地よく、所々に山が生み出す自然水が湧き出ており、顔を洗い、口をゆすぐと気持ちよかった。

「戦争が終わったらまた来ましょうね」

「はい。その時には俺や晴子さんの家族全員を連れて登りましょう」

「父と母も喜ぶと思います。楽しみにしてますね」

おそらく、酒好きの父は一升瓶を持ってくるだろうな

そして、運動嫌いの母は何かと理由を付けて断ってくるだろうな

行きとは違い帰りは早く感じ、もう麓まで降りてきた。耳の詰まりも無くなりなんだか、地上に降りてきた気がした。

麓にある自転車置き場に向かう道中、団子屋があったが原料不足のせいだろうか、閉店していた。軒先の腰掛けに店主と思われる老人が一人で座っていた。

「こんにちは」

「おー」

老人は不機嫌な表情で一言発しただけだった。その顔には無念さが現れていた。

「あのお店は創業百年を超える老舗で、さっきの老人はこの辺じゃ有名な店主さんなのです」

「なるほど。いかにも職人気質な店主さんですね」

「私は以前に一度だけ食べたことがありますが、とても美味しかったです。今度来た時、賢治さんと一緒に食べたいな」

「ぜひ、食べましょう」

自転車置き場に着いた。しかし、何かがおかしい。ボロボロ自転車の横に停めてあった、ピカピカ自転車がないのだ。

「時代が時代ですもんね」

聞き覚えのある台詞をスラリと晴子さんは言った。そう、時代が時代。高級感に満ち溢れたピカピカな自転車は格好の的だった。

盗んだ者はそれを売り少しでも生活の足しにしようとしたのだろうか?それとも、妬みから来る単なる嫌がらせなのだろうか?

俺達には当然わからなかった。ただ、自転車が盗まれたことだけしか……

ここから歩いて帰るには距離がある。晴子さんを荷台に乗せて二人乗りで帰ることにした。

「乗り心地が悪いですが、ここに座ってください」

「ありがとうございます」

「何か敷くものでもあればいいのですが……」

「お構いなく、乗り心地いいですよ。それに賢治さんと一緒に居れて幸せです」

「ありがとうございます。休憩しながらゆっくり帰りましょう」

二人乗りで街を駆け抜けていた。曲がるたびに小さな温かい手は俺の肩を強く握っていた。

二、三回休憩して晴子さんの家に着いた。

「着きましたね。お尻痛くないですか?」

「少しだけ……。でも、それよりも賢治さんと一緒で幸せでした。運転お疲れ様」

「俺も晴子さんと一緒で幸せでした。ありがとうございます」

時代が時代、だし巻き卵による汗や老夫婦の背中、団子屋、盗難……

その言葉が強く感じられた山登りだった。
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