俺は特攻隊員として死んだ

SaisenTobutaira

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背中

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「美味しいお弁当ご馳走様です。晴子さんのお弁当食べたら体力が回復してきました」

「まあまあ、またいつでも作りますからね」

「ありがとうございます。そろそろ行きましょうか」

「はい」

一休みした後、山頂に向かって足を運んだ。森林が放つ空気は清々しく身体を包み込み、心を落ち着かせる。

山頂からの眺めはどのようなものだろうか。普段、空を飛んでいる俺は多くの景色を目にしてきた。灼熱の砂漠や氷の世界、南国の島々、どれとも違う景色を見せてくれるはずだ。日本的な美が詰め込まれた京都には敵わないが、大阪の街も美しい。山頂からの眺めに期待しながら、山を駆け登った。

「賢治さん、早く山頂に行きたいんでしょ?」

「なんでわかったんですか?」

「妻ですから」

幸せだ

山頂に近づくにつれて道が険しくなってきた。段差が来る度に俺が先に登り、晴子さんの手を引っ張った。その度に少し申し訳なさそうな顔でありがとうございますと言う晴子さんを愛おしく思った。

うっすらと人だかりが見えてきた。おそらく、あそこが山頂だ。

「もうすぐですね」

「どんな景色が待っているのか楽しみなこの時間が好きなんです。山頂からの眺めを想像しているこの時間が、そして、もうすぐ見ることができるこの時間が」

山頂までは形や大きさが合わない石で造られた階段が数十段あり、苔のせいで少し滑る段もあった。最後の段を登ると、目の前には大阪のみならず、神戸や淡路島まで綺麗に写し出されていた。太陽光は海に降り注ぎ、水面を明るく照らしていた。淡路島もくっきりと見える。

ただ、美しい

「綺麗ですね」

山頂特有の冷たい風が吹く中、手を繋ぎ景色を眺めていた。

「新婚さんかい?」

老夫婦に声をかけられた。

「はい。先日結婚したばかりです。でも明日、前線へ戻らなければなりません」

「おめでとうさん。今が一番幸せな時期だのお。新婚なんてワシらは四十年以上も前のことだわ。しっかりと奉公しておいで」

「はい。国のためにしっかりと奉公して参ります」

「国がもちろん一番大切じゃが、自分や妻、家族、友達も大切にするんだぞ。そのためには言わなくてもわかるな?」

「はい。ご貴重なお言葉ありがとうございます」

「じゃあの」

ご老人は山を降りていった。二つの背中が並んで歩いている姿が羨ましかった。俺と晴子さんもあの老人のようになることができるのだろうか。

もし仮に戦争を生き抜くことができたとしても、戦後の動乱が待ち受けている。占領軍の気分次第で軍隊に属していた俺は処刑されるか強制労働だ。晴子さんも何をされるかわからない。

おそらく、あの背中は無理だろうな
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