36 / 56
おそらく
しおりを挟む
目覚めると案の定、二日酔いになっていた。汽車に乗り遅れないよう、足早に駅へ向かった。
「じゃあな賢ちゃん、またいつでもおいで。ワシらはいつでも大歓迎じゃぞ」
「ご武運を祈ってるわよ。頑張ってらっしゃい」
「おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとうございました。行って参ります」
おじいちゃんに持って帰れと言われたお酒とお米が入った重たい鞄を背負い、電車に乗り込んだ。席に着くと窓を開けた。
「どうか、長生きを」
「おう」
おじいちゃんとおばあちゃんが見えなくなるまで、窓から顔を出し、手を振っていた。おそらく最後の別れだ。最後のひとときまで目に焼き付けていた。やがて小さくなり、姿が見えなくなった後、外の景色をぼんやりと眺めていた。
窓の外からは潮の匂いと石炭の混じった匂いが入り込み、粉塵が頬にまとわりついた。これらにさえ寂しく、愛おしく感じていた。俺は感じる全てのものと別れを告げるかのように意識を傾けていた。
「兄ちゃん前線へ戻るんか?」
およそ三十分ほど汽車に揺られた頃、俺の左前に座っていた高価なものを身にまとい、皮のハットを被った老人に声をかけられた。
「はい。戻る前に祖父と祖母に会いに来てたんです」
「そうかそうか、あの街も寂しくなったのお。若者がめっきりおらんくなってしもた。お二人とも元気だったか?」
「元気でした。これで安心して前線へ戻れます」
「そうかあ。ご武運を祈ってるぞ、ほれっ」
駅に降りる間際、俺の手のひらに飴玉を置いていってくれた。俺はそれを口に放り込み幼い頃ならすぐに噛んでいたであろう飴玉を、噛むことはせず、口の中で溶けるまでその存在を感じていた。
そして、分解しきっていないアルコールのせいか眠気に襲われ、一眠りしている間に駅に着き、車掌に軽く肩を叩かれ目を覚ました。
二日酔いには外の風が心地よく、どこまでも歩いて行けそうだった。何度通ったかわからない駅から家へ帰るこの道を後、何回通ることができるだろうか。この景色、この匂い、この感覚、全てを身体に染み込ませながら歩いていると家に着いた。
「ただいま」
「お帰り。二人とも元気にしてたか?」
「お元気でした。おじいちゃんは相変わらず酒飲みで、何本も瓶が空いていましたよ。おばあちゃんは相変わらず優しかったです」
「そうかあ、安心したわ。向こうは何かと揃っていて羨ましいわ。てか賢治、臭うぞ」
「俺も山ほど飲まされたんです。これどうぞ、おじいちゃんに持って帰るよう言われたお酒です。聞くところによると高い代物らしいですね」
「おう、ええお酒じゃないか。さっそく今晩飲むぞ」
父はそう言うと母にお酒を見せ二人で飲む約束をしていた。
俺は二日酔いとともに畳の上に寝転び、少しでも早くアルコールが分解されるように願っていた。
「じゃあな賢ちゃん、またいつでもおいで。ワシらはいつでも大歓迎じゃぞ」
「ご武運を祈ってるわよ。頑張ってらっしゃい」
「おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとうございました。行って参ります」
おじいちゃんに持って帰れと言われたお酒とお米が入った重たい鞄を背負い、電車に乗り込んだ。席に着くと窓を開けた。
「どうか、長生きを」
「おう」
おじいちゃんとおばあちゃんが見えなくなるまで、窓から顔を出し、手を振っていた。おそらく最後の別れだ。最後のひとときまで目に焼き付けていた。やがて小さくなり、姿が見えなくなった後、外の景色をぼんやりと眺めていた。
窓の外からは潮の匂いと石炭の混じった匂いが入り込み、粉塵が頬にまとわりついた。これらにさえ寂しく、愛おしく感じていた。俺は感じる全てのものと別れを告げるかのように意識を傾けていた。
「兄ちゃん前線へ戻るんか?」
およそ三十分ほど汽車に揺られた頃、俺の左前に座っていた高価なものを身にまとい、皮のハットを被った老人に声をかけられた。
「はい。戻る前に祖父と祖母に会いに来てたんです」
「そうかそうか、あの街も寂しくなったのお。若者がめっきりおらんくなってしもた。お二人とも元気だったか?」
「元気でした。これで安心して前線へ戻れます」
「そうかあ。ご武運を祈ってるぞ、ほれっ」
駅に降りる間際、俺の手のひらに飴玉を置いていってくれた。俺はそれを口に放り込み幼い頃ならすぐに噛んでいたであろう飴玉を、噛むことはせず、口の中で溶けるまでその存在を感じていた。
そして、分解しきっていないアルコールのせいか眠気に襲われ、一眠りしている間に駅に着き、車掌に軽く肩を叩かれ目を覚ました。
二日酔いには外の風が心地よく、どこまでも歩いて行けそうだった。何度通ったかわからない駅から家へ帰るこの道を後、何回通ることができるだろうか。この景色、この匂い、この感覚、全てを身体に染み込ませながら歩いていると家に着いた。
「ただいま」
「お帰り。二人とも元気にしてたか?」
「お元気でした。おじいちゃんは相変わらず酒飲みで、何本も瓶が空いていましたよ。おばあちゃんは相変わらず優しかったです」
「そうかあ、安心したわ。向こうは何かと揃っていて羨ましいわ。てか賢治、臭うぞ」
「俺も山ほど飲まされたんです。これどうぞ、おじいちゃんに持って帰るよう言われたお酒です。聞くところによると高い代物らしいですね」
「おう、ええお酒じゃないか。さっそく今晩飲むぞ」
父はそう言うと母にお酒を見せ二人で飲む約束をしていた。
俺は二日酔いとともに畳の上に寝転び、少しでも早くアルコールが分解されるように願っていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
死んだ一人の少女と死んだ一人の少年は幸せを知る。
タユタ
SF
これは私が中学生の頃、初めて書いた小説なので日本語もおかしければ内容もよく分からない所が多く至らない点ばかりですが、どうぞ読んでみてください。あなたの考えに少しでもアイデアを足せますように。

艨艟の凱歌―高速戦艦『大和』―
芥流水
歴史・時代
このままでは、帝国海軍は合衆国と開戦した場合、勝ち目はない!
そう考えた松田千秋少佐は、前代未聞の18インチ砲を装備する戦艦の建造を提案する。
真珠湾攻撃が行われなかった世界で、日米間の戦争が勃発!米海軍が押し寄せる中、戦艦『大和』率いる連合艦隊が出撃する。

帝国夜襲艦隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1921年。すべての始まりはこの会議だった。伏見宮博恭王軍事参議官が将来の日本海軍は夜襲を基本戦術とすべきであるという結論を出したのだ。ここを起点に日本海軍は徐々に変革していく…。
今回もいつものようにこんなことがあれば良いなぁと思いながら書いています。皆さまに楽しくお読みいただければ幸いです!
戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら
もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。
『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』
よろしい。ならば作りましょう!
史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。
そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。
しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。
え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw
お楽しみください。
出撃!特殊戦略潜水艦隊
ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。
大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。
戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。
潜水空母 伊号第400型潜水艦〜4隻。
広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。
一度書いてみたかったIF戦記物。
この機会に挑戦してみます。

戦争はただ冷酷に
航空戦艦信濃
歴史・時代
1900年代、日露戦争の英雄達によって帝国陸海軍の教育は大きな変革を遂げた。戦術だけでなく戦略的な視点で、すべては偉大なる皇国の為に、徹底的に敵を叩き潰すための教育が行われた。その為なら、武士道を捨てることだって厭わない…
1931年、満州の荒野からこの教育の成果が世界に示される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる