33 / 56
叫んだ
しおりを挟む
「少しの時間でしたがお話しできて楽しかったです。どうかサヨさん、お元気で」
「私も昔を思い出したりできて楽しかった。お店は毎日してるから、いつでも来てね。
ご武運をお祈りします」
サヨさんだけでなく、奥の間からキョトンと覗き込む河童頭の少年にも手を振り、駄菓子屋を出た。サヨさんとはもう会うことはないだろう。そして、この駄菓子屋も、あの河童頭の少年も。
去り際、小豆色の看板にもさようならを告げた。
颯爽と照りつける太陽に打たれながら道を歩いていた。
ふと、遠くでキラキラと光る海が目に入った。坂道を登ろうとしたが、心が俺を下らせた。家に戻り雑草との戦争をしなければならなかったが、俺の心や背中を押す暖かい風に流されてしまった。
ただ、海へ向かいながら道を進む。道中、何気ない風景の一つ一つが切なく、寂しく、悲しく俺の目に映る。しかし同時に、どこか心を落ち着かせてくれる。
潮風により錆びた、使い物にならない自転車
ガラスが割れ雑草に覆われた廃墟
古く、今にも沈みそうな船しか停留されていない小港
魚を求め水面ギリギリを飛ぶ海鳥
誰一人ともいない砂浜
俺は靴を脱ぎ子供のように砂浜を駆け抜けた。足にまとわりつく砂の温かみが心地よく、力尽きるまで俺を動かせた。
そして、力が尽き大の字になり寝転んだ。足だけではなく、全身に温かみを感じる。目を見開き空を見つめると青く、高く、美しい。人間が戦争をしているなど、まるでお構い無しに自然は生きていた。
「日本よ、どうなるのだ」
突如、天に向かって叫んだ。波音と叫び声が調和していた。
「俺よ、どうなるのだ」
誰かか、何かに問う。
「どうなるのだ」
再び問う。当然、叫び終わった後に答えなど与えてくれるわけもなく、波音と海鳥の鳴き声しか聞こえない。
しかし、叫びに叫んだ。叫んだ、叫んだ。
そして、目を瞑ると太陽が夕陽に変わっていた。
しまった
兵学校時代のように、素早く起き上がり早足で家へ向かった。幼い頃は海までの距離がとても遠く感じていたが、今になるとそうでもなかった。
「どこまで行ってたんじゃ?」
昼寝をしたせいか、元通り元気なおじいちゃんが草を毟っていた。
「休憩がてら駄菓子屋に行った後、気まぐれに誘われ海へ行ってました。そして、砂浜で寝てしまいました。おじいちゃんは家で休んでいてください。草毟りは俺がやります」
「そうかそうか、心配したぞ。サヨちゃんは元気だったか?草毟りはワシも一緒にするぞ」
「元気でした。しかし、夫からの手紙が帰って来ず不安げな表情でした。
俺がするはずだったのにすみません」
「おー、そうか」
二人で草を毟っていた。
「私も昔を思い出したりできて楽しかった。お店は毎日してるから、いつでも来てね。
ご武運をお祈りします」
サヨさんだけでなく、奥の間からキョトンと覗き込む河童頭の少年にも手を振り、駄菓子屋を出た。サヨさんとはもう会うことはないだろう。そして、この駄菓子屋も、あの河童頭の少年も。
去り際、小豆色の看板にもさようならを告げた。
颯爽と照りつける太陽に打たれながら道を歩いていた。
ふと、遠くでキラキラと光る海が目に入った。坂道を登ろうとしたが、心が俺を下らせた。家に戻り雑草との戦争をしなければならなかったが、俺の心や背中を押す暖かい風に流されてしまった。
ただ、海へ向かいながら道を進む。道中、何気ない風景の一つ一つが切なく、寂しく、悲しく俺の目に映る。しかし同時に、どこか心を落ち着かせてくれる。
潮風により錆びた、使い物にならない自転車
ガラスが割れ雑草に覆われた廃墟
古く、今にも沈みそうな船しか停留されていない小港
魚を求め水面ギリギリを飛ぶ海鳥
誰一人ともいない砂浜
俺は靴を脱ぎ子供のように砂浜を駆け抜けた。足にまとわりつく砂の温かみが心地よく、力尽きるまで俺を動かせた。
そして、力が尽き大の字になり寝転んだ。足だけではなく、全身に温かみを感じる。目を見開き空を見つめると青く、高く、美しい。人間が戦争をしているなど、まるでお構い無しに自然は生きていた。
「日本よ、どうなるのだ」
突如、天に向かって叫んだ。波音と叫び声が調和していた。
「俺よ、どうなるのだ」
誰かか、何かに問う。
「どうなるのだ」
再び問う。当然、叫び終わった後に答えなど与えてくれるわけもなく、波音と海鳥の鳴き声しか聞こえない。
しかし、叫びに叫んだ。叫んだ、叫んだ。
そして、目を瞑ると太陽が夕陽に変わっていた。
しまった
兵学校時代のように、素早く起き上がり早足で家へ向かった。幼い頃は海までの距離がとても遠く感じていたが、今になるとそうでもなかった。
「どこまで行ってたんじゃ?」
昼寝をしたせいか、元通り元気なおじいちゃんが草を毟っていた。
「休憩がてら駄菓子屋に行った後、気まぐれに誘われ海へ行ってました。そして、砂浜で寝てしまいました。おじいちゃんは家で休んでいてください。草毟りは俺がやります」
「そうかそうか、心配したぞ。サヨちゃんは元気だったか?草毟りはワシも一緒にするぞ」
「元気でした。しかし、夫からの手紙が帰って来ず不安げな表情でした。
俺がするはずだったのにすみません」
「おー、そうか」
二人で草を毟っていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説


艨艟の凱歌―高速戦艦『大和』―
芥流水
歴史・時代
このままでは、帝国海軍は合衆国と開戦した場合、勝ち目はない!
そう考えた松田千秋少佐は、前代未聞の18インチ砲を装備する戦艦の建造を提案する。
真珠湾攻撃が行われなかった世界で、日米間の戦争が勃発!米海軍が押し寄せる中、戦艦『大和』率いる連合艦隊が出撃する。
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
死んだ一人の少女と死んだ一人の少年は幸せを知る。
タユタ
SF
これは私が中学生の頃、初めて書いた小説なので日本語もおかしければ内容もよく分からない所が多く至らない点ばかりですが、どうぞ読んでみてください。あなたの考えに少しでもアイデアを足せますように。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

帝国夜襲艦隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1921年。すべての始まりはこの会議だった。伏見宮博恭王軍事参議官が将来の日本海軍は夜襲を基本戦術とすべきであるという結論を出したのだ。ここを起点に日本海軍は徐々に変革していく…。
今回もいつものようにこんなことがあれば良いなぁと思いながら書いています。皆さまに楽しくお読みいただければ幸いです!
戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら
もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。
『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』
よろしい。ならば作りましょう!
史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。
そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。
しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。
え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw
お楽しみください。
出撃!特殊戦略潜水艦隊
ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。
大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。
戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。
潜水空母 伊号第400型潜水艦〜4隻。
広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。
一度書いてみたかったIF戦記物。
この機会に挑戦してみます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる