俺は特攻隊員として死んだ

SaisenTobutaira

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サヨさん

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一時間経ったが一向に減りやしない。まだ玄関までは距離があり、雑草との戦争はまさに持久戦だった。

幼い頃は雑草を毟ればご褒美に、駄菓子屋へ連れて行ってくれた。お菓子欲しさもあったがそれよりも、駄菓子屋で店番をしているサヨさんのことが当時好きだった。俺よりも三つほど歳上のサヨさんはいつも優しい笑顔で相手をしてくれた。

「賢ちゃん、今日もいつものがいい?」

「うん」

俺はいつもそれを買っていた。名前は思い出せないが、爪楊枝に餅を巻きつけ、きな粉がふられているそれが大好物だった。

俺はふと、休憩がてらに駄菓子屋へ向かうことにした。

のどかな村を抜けて少し下った所に駄菓子屋がある。看板が見えた。

当時のまま山田商店と書かれた小豆色の看板が掲げられており、開店中の札も立てられていた。

「こんにちは」

店に入ってみるも人の姿はなく、殺伐としていた。再び言う。

「こんにちは」

部屋の奥から足音が足早に近づいて来た。

「いらっしゃいませ」

「サヨさん、お久しぶりです」

俺のお久しぶりですという言葉に戸惑うサヨさんは少し目が泳いでいた。そして、目と目が合った時俺に気づいた。

「もしかして賢ちゃん?」

「はい。たまたまこっちに帰って来たので、いつものを買いに来ました」

「じゃあ、とりあえずきな粉棒サーヴィスするね」

そうだった、きな粉棒だ

「俺の大好物覚えてくれてたんですね」

「もちろんよ。あの頃の賢ちゃんは可愛くて弟みたいなものだったから。いつも草毟りした後に来るから泥んこだったよね。今日もちゃんと草むしりして来たの?」

「俺も勝手にお姉ちゃんと思ってました。おじいちゃんが草毟りのご褒美にここへ連れて来てくれたんです。今日はまだ途中で休憩がてらに来ました」

「ありがとうね。山爺には本当、お世話になってたの。ずっと息子に野球教えてもらってたの。最近は見てないけどご健在?」

どうやらサヨさんは結婚していた。なぜたがそれが悲しく思えた。

「そうなんですか。健在も健在、頑固さもそのままです。つい数時間前まで、キャッチボールしてました」

「それは良かった」

サヨさんは笑いながらそう言うと、もう一本サーヴィスしてくれた。

「賢ちゃんはまた前線へ戻るの?」

寂しげな表情で問う。

「はい。来週には戻ります」

「そっかあ。お国のために頑張るんだよ。でも、死ぬのはいけないよ。生きてこそなんだからね」

サヨさんは強めの口調でそう言うと、悲しげな表情を見せた。

「連絡がないの、それもずっと。南の島に居るとは手紙に書かれてたんだけど」

南の島は激戦地だ。米軍の反撃は凄まじく、血みどろの戦いが繰り広げられている。生産力で勝る米軍は圧倒的な物量で日本軍を追い詰める。そして、弾薬不足よりも深刻なマラリアや食糧難との戦いも日本軍には強いられる。

圧倒的劣勢だ……

嫌な予感が的中しないことをお互い祈っていた。



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