俺は特攻隊員として死んだ

SaisenTobutaira

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鼻垂れ坊主

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朝に晴子さんの家を出てある場所へ向かう為、汽車に揺られていた。

のどかな田園風景が美しい。田畑の奥には海が見え、太陽光が水面に差し込み反射して、キラキラと輝いている。汽車の煙が窓から入り込み煙たさを感じたが、窓を閉めようとはしなかった。

数時間汽車に揺られて目的地に着いた。幼い頃に見た風景と同じだった。田舎のこの街は戦争から取り残されたかのように、のどかで平和で、幼心に戻れた気がした。

夏の暑い日、虫を捕まえていた鼻垂れ坊主がどれほど幸せだったのだろうか。虫をただ無心に追いかけ、捕まえては喜ぶ。泥にまみれて家に帰るとご飯があり皆で食べる。そして、はしゃぎ過ぎたせいか睡魔に襲われ思う存分昼寝をした。

ふと思い出した幼い頃の記憶だ。

駅を出てまっすぐの一本道をひたすら歩くと小さな集落が見えた。ちょうどお昼時ということもあり、家の中から最近嗅いでいなかったいい匂いがした。

集落を抜けて坂を登り右に曲がった。門をくぐると手入れがされていないせいか、雑草が生い茂り雑木林のような先に扉が見えた。

表札には薄れた山本の文字が書かれていた。

「ただいま」

俺は部屋に入った。

「おー、よう来たの。おーい、ばあちゃん賢ちゃんが来たよ」

二階にいるおばあちゃんにおじいちゃんが声をかけた。

「あらまあ、よう来たねえ。五年ぶりぐらいやねえ」

そう、俺が最後にこの家に来たのは五年程前だ。その時は、アメリカのお土産を渡しに来たのだ。

「無事でなによりじゃ。いつ戻るんじゃ?」

「数日後には前線へ戻ります」

「そうかあ……」

おじいちゃんは庭の盆栽を眺めていた。玄関付近とは違い庭は綺麗に手入れされており、盆栽が和を表し心を落ち着かせる。

「正直な所、日本はどうなんじゃ?この村は戦争の影響を受けておらんが、なぜだか若い衆が皆戦争に行っちまった。それに最近都市部からこの村に移り住む人が多くてなあ」

「そうですね……今回の戦争、日本は必ず負けるでしょう。東南アジア諸国もどんどんと占領されて来てますし、いつかは本土も危ないかもしれません」

「そうじゃったか」

暗い空気が流れていた。

「まあまあ、おじいちゃん、賢ちゃんも来たことだししてはどうですか?その間にお昼ご飯作っておきますから」

おばあちゃんは暗い空気を読んでか話を変えた。

「そうじゃのお。取って来てくれんか?」

「はいはい」

おばあちゃんは物置小屋へ向かった。

「若い衆が戦争へ行ったからできておらんかったんじゃ。お手柔らかに頼むぞ」

「こちらこそお手柔らかにお願いしますよ。俺なんか以前来た時以来なので五年ぶりです」

俺達は家を出て通りに出た。通りは人通りが少ない平坦な一本道で、それをするにはぴったりだ。

グローブは使われていないせいか埃が被っていた。俺はそんなのお構いなしに手に嵌め、相変わらず速いスピードで飛んできたボールをキャッチした。

老人と若造とのキャッチボールが始まった。
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