25 / 56
現実
しおりを挟む
「最近、ご近所さんのご不幸を多く耳にします。同級生だった友達の多くもお亡くなりになりました。報せを聞くたびに、賢治さんのことが不安でなりません」
「俺の友達も多く亡くなってしまいました。俺は本当に大丈夫ですから、心配しないでください。約束します、絶対に死にません」
「約束ですからね」
「はい」
晴子さんと交わした約束、絶対に死なないというのはきっと、守ることができないだろう。おそらくお互いそのことに気づいていた。しかし、それでも約束しておきたかった。
「賢治さんまだお腹空いてますよね?」
「昔からよく食べる性分で」
「ご飯作りますね。最近、配給が少なくなってあまり豪華なものは作れませんが」
「ありがとうございます。何か手伝えることありますか?」
「大丈夫ですよ。座っていてください」
晴子さんは台所へ向かった。数分が経った頃、魚の焼けるいい匂いがしてきた。今となっては贅沢品の魚を俺のために焼いてくれている。
ありがとう
「できましたよ」
桜が満開に咲き乱れ、春の美しい日本庭園が描かれているお皿に小さな魚が一匹乗っていた。配給が少なく一匹しかなかったのだろう。晴子さんは俺の前にお皿を置いたが、すぐさま真ん中に置き換えた。
「賢治さんが食べてください。私はお腹いっぱいですから」
晴子さんはそう言うがそんなの嘘に決まっている。俺は拒否した。
「嫌です。一緒に食べましょう」
俺はお箸で半分に切り分け、少しだけ小さな方を食べた。
「美味しいです」
俺の言葉を聞いた晴子さんは嬉しそうな表情で魚を口にした。
「ちょっと焼き過ぎましたね。魚を焼くのは本当に難しいです」
「ちょうどいい焼き具合です。食にうるさい父も満足する焼き加減ですよ」
「それはよかったです」
豪華な部屋に居るのに、食卓はなんと寂しいものか。美しい模様が描かれた机やお皿はきっと、泣いているだろう。かつて、食材で溢れかえっていたであろうお皿達は戸棚に閉じ込められたままだ。いくつかは埃が被っている程使われていない。これが今の日本なのだ。本土への空襲は局所的なものであり、それほど被害はなかったが、国民の多くは戦況の悪化を日に日に強く感じ始めていたであろう。
「これも食べてください」
晴子さんはじゃがいもを持ってきた。
「ありがとうございます」
「こんなものしか無くて本当にすいませんね」
申し訳なさそうな顔をして俺に謝る晴子さんの顔を見ると涙が溢れそうになった。
「いえ、ありがとうございます」
俺は手で真っ二つに割り、大きい方を晴子さんのお皿に置いた。数年前とは対照的に貧相な食事、じゃがいもを食べていた。
その時、サイレンが鳴った……
「俺の友達も多く亡くなってしまいました。俺は本当に大丈夫ですから、心配しないでください。約束します、絶対に死にません」
「約束ですからね」
「はい」
晴子さんと交わした約束、絶対に死なないというのはきっと、守ることができないだろう。おそらくお互いそのことに気づいていた。しかし、それでも約束しておきたかった。
「賢治さんまだお腹空いてますよね?」
「昔からよく食べる性分で」
「ご飯作りますね。最近、配給が少なくなってあまり豪華なものは作れませんが」
「ありがとうございます。何か手伝えることありますか?」
「大丈夫ですよ。座っていてください」
晴子さんは台所へ向かった。数分が経った頃、魚の焼けるいい匂いがしてきた。今となっては贅沢品の魚を俺のために焼いてくれている。
ありがとう
「できましたよ」
桜が満開に咲き乱れ、春の美しい日本庭園が描かれているお皿に小さな魚が一匹乗っていた。配給が少なく一匹しかなかったのだろう。晴子さんは俺の前にお皿を置いたが、すぐさま真ん中に置き換えた。
「賢治さんが食べてください。私はお腹いっぱいですから」
晴子さんはそう言うがそんなの嘘に決まっている。俺は拒否した。
「嫌です。一緒に食べましょう」
俺はお箸で半分に切り分け、少しだけ小さな方を食べた。
「美味しいです」
俺の言葉を聞いた晴子さんは嬉しそうな表情で魚を口にした。
「ちょっと焼き過ぎましたね。魚を焼くのは本当に難しいです」
「ちょうどいい焼き具合です。食にうるさい父も満足する焼き加減ですよ」
「それはよかったです」
豪華な部屋に居るのに、食卓はなんと寂しいものか。美しい模様が描かれた机やお皿はきっと、泣いているだろう。かつて、食材で溢れかえっていたであろうお皿達は戸棚に閉じ込められたままだ。いくつかは埃が被っている程使われていない。これが今の日本なのだ。本土への空襲は局所的なものであり、それほど被害はなかったが、国民の多くは戦況の悪化を日に日に強く感じ始めていたであろう。
「これも食べてください」
晴子さんはじゃがいもを持ってきた。
「ありがとうございます」
「こんなものしか無くて本当にすいませんね」
申し訳なさそうな顔をして俺に謝る晴子さんの顔を見ると涙が溢れそうになった。
「いえ、ありがとうございます」
俺は手で真っ二つに割り、大きい方を晴子さんのお皿に置いた。数年前とは対照的に貧相な食事、じゃがいもを食べていた。
その時、サイレンが鳴った……
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり
もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。
海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。
無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。
戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら
もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。
『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』
よろしい。ならば作りましょう!
史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。
そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。
しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。
え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw
お楽しみください。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます
竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論
東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる