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現実

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「最近、ご近所さんのご不幸を多く耳にします。同級生だった友達の多くもお亡くなりになりました。報せを聞くたびに、賢治さんのことが不安でなりません」

「俺の友達も多く亡くなってしまいました。俺は本当に大丈夫ですから、心配しないでください。約束します、絶対に死にません」

「約束ですからね」

「はい」

晴子さんと交わした約束、絶対に死なないというのはきっと、守ることができないだろう。おそらくお互いそのことに気づいていた。しかし、それでも約束しておきたかった。

「賢治さんまだお腹空いてますよね?」

「昔からよく食べる性分で」

「ご飯作りますね。最近、配給が少なくなってあまり豪華なものは作れませんが」

「ありがとうございます。何か手伝えることありますか?」

「大丈夫ですよ。座っていてください」

晴子さんは台所へ向かった。数分が経った頃、魚の焼けるいい匂いがしてきた。今となっては贅沢品の魚を俺のために焼いてくれている。

ありがとう

「できましたよ」

桜が満開に咲き乱れ、春の美しい日本庭園が描かれているお皿に小さな魚が一匹乗っていた。配給が少なく一匹しかなかったのだろう。晴子さんは俺の前にお皿を置いたが、すぐさま真ん中に置き換えた。

「賢治さんが食べてください。私はお腹いっぱいですから」

晴子さんはそう言うがそんなの嘘に決まっている。俺は拒否した。

「嫌です。一緒に食べましょう」

俺はお箸で半分に切り分け、少しだけ小さな方を食べた。

「美味しいです」

俺の言葉を聞いた晴子さんは嬉しそうな表情で魚を口にした。

「ちょっと焼き過ぎましたね。魚を焼くのは本当に難しいです」

「ちょうどいい焼き具合です。食にうるさい父も満足する焼き加減ですよ」

「それはよかったです」

豪華な部屋に居るのに、食卓はなんと寂しいものか。美しい模様が描かれた机やお皿はきっと、泣いているだろう。かつて、食材で溢れかえっていたであろうお皿達は戸棚に閉じ込められたままだ。いくつかは埃が被っている程使われていない。これが今の日本なのだ。本土への空襲は局所的なものであり、それほど被害はなかったが、国民の多くは戦況の悪化を日に日に強く感じ始めていたであろう。

「これも食べてください」

晴子さんはじゃがいもを持ってきた。

「ありがとうございます」

「こんなものしか無くて本当にすいませんね」

申し訳なさそうな顔をして俺に謝る晴子さんの顔を見ると涙が溢れそうになった。

「いえ、ありがとうございます」

俺は手で真っ二つに割り、大きい方を晴子さんのお皿に置いた。数年前とは対照的に貧相な食事、じゃがいもを食べていた。

その時、サイレンが鳴った……
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