俺は特攻隊員として死んだ

SaisenTobutaira

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俺は晴子さんに会えることを楽しみにしていた。家の扉を力強く閉め、街へ飛び出した。高ぶる胸と共に橋を越え、駄菓子の前を颯爽と通り過ぎ、角を曲がった。

気がつくと俺は無心で走っていた。

よし、着いた

石でできた階段を三段登り、玄関のドアを軽く叩いた。部屋の中に人影が見え、すぐに晴子さんだとわかった。

「け、賢治さん」

晴子さんは俺を一目見ると涙を流し喜んだ。

「無事でよかった、本当に」

涙を流す晴子さんを抱きしめた。

「ただいま」

俺は耳元で囁いた。

「おかえりなさい」

幸せだ。ただ、幸せだった。

晴子さんの両親に挨拶をすませると、川辺にあるベンチへ向かった。ベンチに腰掛けた俺達はひっきりなしに話していた。ふと、戦争の話になった。

「新聞では日本軍が圧勝してると書いてるのですが、本当ですか?」

さすがは晴子さん、日本の現状をお見通しのようだった。軍人としての俺、私人としての俺が心の中で戦っていた。軍人としての俺は機密情報に値する真実を語ることを許さない。しかし、私人としての俺は真実を語りたがっている。長い格闘の末、私人としての俺が勝った。

「圧勝などしていません。戦局は日に日に悪化しています。近い内に本土も危ないでしょう」

「やはりそうでしたか……」

真実を知った晴子さんは俺の手を強く握り、不安げな目をしながら言った。

「絶対に死なないでください、絶対に……」

「俺は絶対に死にません。心配ご無用です」

俺はずっと前から晴子さんに結婚の申し入れをすると心に決めていた。

「晴子さん」

俺の目は晴子さんを鋭く見つめる。

「どうしたのですか?」

晴子さんは少し戸惑っていた。

「俺と結婚してください。これからもずっとあなたのことを愛し続けます」

すぐに晴子さんが答えた。

「こちらこそよろしくお願いします。私も賢治さんのことを愛し続けます」

晴子さんは涙を流し笑顔で応えた。いつ死ぬかわからない俺の告白に一秒すら迷うことなく応えてくれた。それがとても嬉しかった。

俺の告白に晴子さんが応えた瞬間、強い風が吹き、まるで俺達の結婚を祝福しているかのようだった。

「賢治さん今晩、私の家に泊まってください。父と母が親戚の家へ行って、そのまま泊まるそうです」

「わかりました。お言葉に甘えて泊まらせてもらいます」

今晩、晴子さんの家で一夜を過ごすことになった。最初で最後の夜になるかもしれない。時代が時代ならそんなこと考えもせず、晴子さんと幸せな家庭を築くことができただろう。俺は時代を恨んでいた。それと同時に、未来の日本ではそんなことを考えもしない世の中になってほしいと願ってもいた。
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