俺は特攻隊員として死んだ

SaisenTobutaira

文字の大きさ
上 下
16 / 56

駆け足で

しおりを挟む
「ちょっと行ってきます」

鍵を閉めることなく、家を飛び出した。俺は駆け足で晴子さんの家へ向かった。角を曲がり、俺の心とは対照的に穏やかな流れをしている川が見えた。全速力で橋を渡り、ちょうど駄菓子屋の前あたりで、いつもに増して白い顔の晴子さんと出会った。どうやら晴子さんも俺の家へ向かおうとしていたらしい。

「賢治さん、日本……」

晴子さんの声は心弱く、震えていた。

「今回ばかりは、今までのようにいかないでしょう」

「はい……
マリアやマイケルの国とは戦争したくなかったのに、それにマスターとも」

「俺もです」

俺はポケットの中でマスターから頂いたアクセサリーを大切に握りしめていた。

「大日本帝国バンザーイ、大日本帝国バンザーイ」

街は日本の開戦にお祭り状態となっている。

「神国日本は無敵無敗、アメ公どもを蹴散らしたれ」

「天皇陛下バンザーイ、天皇陛下バンザーイ」

老若男女問わず皆が大声で想い想いの感情を言葉に表していた。しかし、何人かは暗い顔をした人達も居ることに俺は気がついた。きっと、その人達には日本の置かれている状況を客観的に見ることかできるのであろう。俺と晴子さんもその中の二人だった。

「おー賢治、久しぶり。一緒にアメリカぶっ倒そうぜ」

幼馴染みの哲也と偶然出会った。哲也は軍人家系に生まれた大男だ。先月までは中国に居て、現在休暇中らしい。最後に会った何年前と比べて目が鋭くなり、いかにも軍人らしい顔つきになっていた。

「久しぶりやなあ。今回ばかりは手強いぞ」

俺は少し低いトーンでそう言った。その瞬間俺の顔をジロリと見た哲也は、俺を見下すかのような態度を露わにした。

「ビビってんのか?神国日本が負けるはずないやろ。それともお前、アメリカに住んでたから奴らとは闘えないってか、この腰抜けが」

お前はアメリカを知らないからそんなことが言えるのだ……

「腰抜けか……俺は腰抜けではない、ただアメリカの力を客観的に見ることができるだけだ。神国日本は無敵無敗に変わりない。しかしだな」

「もういい。腰抜けと話す時間などない」

哲也は俺の話を一方的に遮り、通りの真ん中を大股で歩いていった。

「仕方ないですよね」

俺と哲也のやり取りを真横で見ていた晴子さんはそう言うと、手を握りしめてくれた。

俺達は川辺に降りて、木で作られた古びているベンチに腰掛けた。世間はお祭り気分だというのに川の流れは今日も穏やかなままだ。

「この川の流れのように穏やかなのが日本なのに……」

「私もそう思います」

俺は無言のまま晴子さんの肩を抱き寄せ、まるで時が止まったかのような気がしていた。いや、このまま止まっていて欲しかったのだろう。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

死んだ一人の少女と死んだ一人の少年は幸せを知る。

タユタ
SF
これは私が中学生の頃、初めて書いた小説なので日本語もおかしければ内容もよく分からない所が多く至らない点ばかりですが、どうぞ読んでみてください。あなたの考えに少しでもアイデアを足せますように。

艨艟の凱歌―高速戦艦『大和』―

芥流水
歴史・時代
このままでは、帝国海軍は合衆国と開戦した場合、勝ち目はない! そう考えた松田千秋少佐は、前代未聞の18インチ砲を装備する戦艦の建造を提案する。 真珠湾攻撃が行われなかった世界で、日米間の戦争が勃発!米海軍が押し寄せる中、戦艦『大和』率いる連合艦隊が出撃する。

帝国夜襲艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1921年。すべての始まりはこの会議だった。伏見宮博恭王軍事参議官が将来の日本海軍は夜襲を基本戦術とすべきであるという結論を出したのだ。ここを起点に日本海軍は徐々に変革していく…。 今回もいつものようにこんなことがあれば良いなぁと思いながら書いています。皆さまに楽しくお読みいただければ幸いです!

戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら

もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。 『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』 よろしい。ならば作りましょう! 史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。 そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。 しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。 え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw お楽しみください。

出撃!特殊戦略潜水艦隊

ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。 大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。 戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。 潜水空母   伊号第400型潜水艦〜4隻。 広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。 一度書いてみたかったIF戦記物。 この機会に挑戦してみます。

武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり

もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。 海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。 無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。

処理中です...