俺は特攻隊員として死んだ

SaisenTobutaira

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公私

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日本に帰ってきてからというもの、特訓の日々だったが、それなりに充実していた。俺の心が充実していたわけは晴子さんの存在が大きく、月二回の晴子さんとのデートが俺の楽しみだった。仕事面でも最近では父に任されることが増え、少しは認めてもらえたようだ。公私ともに充実していた。

「賢治、後は任せた。ワシは先に帰るぞ」

「はい、お疲れ様でした」

今日も父は先に店を出て、家に帰っていった。俺は一人で店を回す機会が増えた。注文から食器洗いまで全て一人だ。父は今までずっと一人でこれらを朝から晩までこなしてきた。従業員を雇えばいいのにと周りは言うが、俺の留学費用のために費用は出来るだけ削らなければならず、父は一人でこなしてくれていた。

「お父さんは帰ったんか?」

常連の小林さんが話しかけてきた。小林さんと父は30年以上の付き合いで、小さい頃にはお年玉をよくいただいた。

「はい、先に帰りました」

「ここだけの話お父さん、賢治君が店継ぐって言って喜んどったで」

「本当ですか?俺の前じゃ、お前なんかに店は継がせんって言ってたのに」

「お父さんは昔から頑固やからなあ。本音は嬉しいんやで」

そう言って小林さんは、熱々のだし巻き卵を目を細めながら頬張った。

「賢治君、上手に焼けてるな。ほんまに美味しいわ」

「ありがとうございます。父の猛特訓の賜物です」

「そうかあ。いつも遅くまで電気ついてるもんなあ」

俺はふと、小林さんの息子のことが気になった。

「そういえば……息子さんは今何してるんですか?」

「太一は日本軍に入って、ずっと中国におるわ。あいつ手紙の一つもよこしやがれへん。親の気持ちもわからんで」

「ご立派ですね。太一さんのご武運お祈りいたします。それにしても、中国との戦争長いですね」

「おー、ありがとう。いくら日本軍でもあの広大な中国はしんどいのかもなあ。いつまで続くんかのう……」

「小林さんは日本がどうなると思いますか?」

「中国には絶対負けんやろうけど、ソ連もおるし、アメリカやイギリスとも仲悪いし、先は暗いなあ」

「俺もそう思います。絶対にアメリカだけは敵に回したらいけません」

「そういえば賢治君、アメリカ行ってたもんなあ。やっぱり凄いんか?」

「全てが桁違いです。無敵の日本軍でも厳しいでしょう」

「そうかあ……」

小林さんはそう言うと寂しげな表情でお茶を啜り、席を立った。

「ごちそうさん。また来るわ」

「ありがとうこざいます。またお願いします」

俺は机に置かれた新聞を手に取った。新聞には勇敢な日本軍が快進撃と書いているが、いつまでも続くはずがない。日清、日露と負けなしの日本軍だが、アメリカとの戦争になればそうはいかない。

俺は日本の安全、平和を心から願っていた。
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