俺は特攻隊員として死んだ

SaisenTobutaira

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猛特訓の日々

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日本に帰ってからは家の仕事を手伝い生計を立てていた。家の横にご先祖様が始めた食堂があり、父が五代目である。俺は六代目として働くため、日々父に教えを請うていた。

「焼きが足らんぞ」

「はい」

普段は温厚な性格の父だが、仕事となると話は別だ。まるで千手観音から閻魔大王に変わるみたいだ。今日は卵の焼きが足らなかったそうで、閉店後に猛特訓が始まった。

「まだまだあかんのう。今日は卵焼きやけど、明日は焼き魚やるぞ」

「はい、お願いします」

今日も疲れたなあ

俺は毎日の猛特訓に、アメリカにいた日々の楽しさを思い出していた。あの頃は好きな勉強をして、アルバイトさえすればよかったのに、今では勉強する時間すら取れない。

疲労感に満ち溢れた俺は食堂を出て玄関をくぐる際に郵便ポストの中を見た。そこには一通の手紙が入っており、送り主を見ると太田晴子と書かれていた。

俺は家に入ることなく、玄関先で手紙の封を開け中身を読んだ。

「いつも猛特訓頑張ってますね。影ながら応援しています。

真っ直ぐな瞳、真っ直ぐな姿勢にいつも心ときめいています。

金曜日の夜にまた、食堂に行きますね。
会えるのを楽しみにしてます。
                                                              太田 晴子」

俺は疲れなどもろともせずに、手紙の返事を書き、夜な夜な郵便ポストに入れに行った。

晴子さんは時々、食堂に顔を出してくれる。しかし、新米の俺に余裕などなく、軽く話すことすら叶わなかった。そんな俺だが父は、月2回休みをくれる。

以前足を運んでくれた時に金曜日は休めそうと晴子さんに伝えることができ、それを覚えてくれていたのだろう。俺は金曜日が楽しみでならなかった。

食堂にこもりっぱなしの俺だったが、日本の置かれている状況がますます悪くなっていることぐらいは気づいていた。新聞では中国に対して日本が圧倒的に優勢と伝えられているが、いつまでも続くわけがない。中国の広大さに兵站を確保するなど至難の技だ。それにソ連の脅威もある。ましてや、アメリカやイギリスなどの西洋諸国を相手にし始めたら、いくら日本でも歯が立たないだろう。

「日本はどうなるんだろうなあ」

「わからん。ただ幸運を祈るしかないさ」

「そうだよなあ」

俺は幼馴染の健太と立ち話をしていた。

「お前アメリカ行ってたんやろ?アメリカはやっぱり凄いんか?」

「絶対に敵に回したらあかん。工業力が桁違いや」

「神国日本でも歯が立たんのか?」

「おそらくは……」

「そうかあ……」

アメリカの偉大さを直に感じた俺の言葉の重さは健太に応えたのだろう。健太も俺と同じく、アメリカとの戦争は反対だという意見を持つようになった。
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