俺は特攻隊員として死んだ

SaisenTobutaira

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すまない

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俺は若くして死んだ。1945年7月、大東亜戦争終結の一カ月前に特攻隊員として華々しく散った。俺にはわかっていた。いや、軍人なら皆わかっていたはずだ。もう、日本は負けると。

出撃命令が出て棺を共にする同期の治郎と戦闘機に乗り込んだ。

「今までありがとな」

「なんだよ急に、こちらこそありがとう。お前と一緒の棺でよかった」

治郎とは兵学校時代からの仲だ。いつも一緒に過ごしていた。彼との思い出が頭の中で走馬灯のように流れる。

皆、姿には出さなかったが、おそらく泣いていた。出撃の際、見送りに父や母だけではなく、祖父や祖母、友人まで駆けつけてくれた。その中に俺の妻がいた。夫婦生活は限りなく短かかったが幸せだった。晴子さんは涙を堪え、短い手で日本国旗を精一杯振っている。お腹には赤ん坊がおり、大きく膨らんでいる。心の中で何度も謝っていた。

すまない、晴子さん、赤子よ。父さんは先に行くからどうか赤子よ、晴子さんを頼んだぞ

基地を離陸してから何度も後ろを振り返っていた。やがて米粒ほどの大きさになり、見えなくなった頃

「赤ん坊も居るのに残念だなあ」

治郎は俺につぶやいた。

「仕方がないさ、日本のために俺は死ぬんだ。俺の命と引き換えに妻や赤ん坊、家族だけでなく未来の日本人が幸せに暮らせるなら本望さ」

「そうだな。絶対に空母を沈めるぞ」

「おう」

俺達の最後の会話だった。知覧を離陸してから数時間が経った頃、雲の切れ間に光を感じ、窓が割れる激しい音が聞こえた。

「大丈夫か?」

「……」

「おい、治郎、治郎」

俺達の編隊は敵の奇襲を受けた。アメリカ軍のレーダーは俺達の存在を遥か遠くから察知し、待ち伏せていた。治郎は機銃を受け即死だった。大量の血が出ており、機内は血の海と化していた。辺りを見渡すと煙を上げ友軍機がいくつも堕とされている。

装甲が弱すぎる……

日本の戦闘機は装甲が弱く、すぐに堕ちる。幸いに俺は無事だった。治郎は死に、燃料が漏れているがまだ飛べる。

たった今親友を亡くしたのになぜか冷静に辺りが見えていた。敵の動きが手に取るようにわかる。敵の攻撃を巧みにかわし、なんとか敵機動部隊上空まで辿り着いた。

すごい数だ……
一番近い空母に行こう

俺は一番近くにある空母めがけて全速力で走らした。

敵の攻撃はあまりにも激しすぎる。一人で百万人以上も相手しているようなものだ。もうこの頃になると友軍機の姿はなく、俺ただ一人だった。

鈍い音と共に戦闘機が火を噴き出した。

もう墜落も近い、せめて空母に……

血が滲む目で必死に空母を睨みつけた。

絶対に、絶対に

空母まであと数十メートルの所まで来た。甲板の敵兵が退避する姿が見える。

よし、いける

俺は甲板めがけて突っ込んだ。最後の一時まで目を開き、人生で感じたこともない衝撃を感じた瞬間に視界は消え、意識も遠のいた。

俺は死んだ……
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