若き成功者

SaisenTobutaira

文字の大きさ
上 下
1 / 14

第1話 寂しい休日

しおりを挟む
薄暗い部屋の壁に映る男の影は悲壮感に満ち溢れていた。頂点に上り詰めた彼はソファーにもたれかかり、心のこもっていない目で天井を眺めていた。天井には獲物を追いかける虎の姿が優雅に描かれている。

夢を追い求めていたあの頃が恋しい……

孤独を感じながら物思いにふけていた。

僕の人生を変えることになったあの日以降、頂点に上り詰めるためだけに生きてきた。苦しいトレーニングや食事制限、ボイストレーニング、演劇のレッスンなど全ての苦痛に耐えてきた。これらすべての苦痛に耐えることができたのは頂点から見える景色はさぞ美しく、心地よいもので、全てを手にすることができ、僕の心を満たすには十分だと思っていたからだ。

しかし、たどり着いた場所は孤独以外の何物でもなかった。

もちろん、道を歩いていると皆が僕に注目し、羨望のまなざしを受ける。また、世間からもチヤホヤされ、僕が口説いて落ちない女などいないだろう。ある一つを除けば全てを手に入れることができる。人間の承認欲求を満たすには十分だ。

以前とは違い、頂点に上り詰めた僕に純粋な気持ちで接してくれる人はいなくなった。親友や家族ですら僕に対する態度を変えた。皆、僕を見ているのではなく、頂点に上り詰めた「僕」を見ており、僕の背後にある地位や名声、お金しか見ていない気がする。心を開き本音で話せる相手などもはやなく、数少ない休みも家で孤独にお酒を飲んでいる。

こんなものを僕は追い求めていたのか……

薄暗い部屋で高級ワインを片手にテレビすらつけず、味わうこともなく、ただ黙々と飲んでいる。頂点を目指していた頃は皆でお酒を飲むのが楽しかった。夢を語り合っていたあの頃、まさか自分が一人で黙々と飲むようになるとは考えもしなかった。休日はいつも外で遊んでいたが、今ではこの有様である。

外は大雨が降っている。それに、部屋の電気は薄暗い。これらはまるで僕の心を表しているようだった。心の涙と暗い心。

頂点に上り詰めた25歳の僕。人生の目標を若くして達成した僕はどうするべきだろうか。明日はドラマ撮影の初日だが台本など一切読んでおらず、共演者すら知らない。今までは徹底的に打ち合わせをし、共演者はもちろんすべてのスタッフにまで気をかけていた。しかし、今回は全てマネージャーに任せっきりだ。このようなことが許されるのもきっと、頂点にいる間だけだろう。

時刻は21時、寝るにはあまりにも早すぎるが何もすることのない僕に選択肢はなかった。薄暗い廊下を歩きベッドルームのドアを開け布団に潜り込んだ。頂点に上り詰めた男の休日はなんて寂しいものだろうか。

僕は目を瞑り眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ワンコインの誘惑

天空
現代文学
 人生一度の失敗で全てが台無しになる。  最底辺の生活まで落ちた人はもう立ち上がれないのか。  全財産を競馬にオールインした男。  賭けたのは誰にも見向きもされない最弱の馬だった。  競馬から始まる人と人の繋がり。人生最大の転換期は案外身近なところに落ちている。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヘビー短編集

篁 しいら
現代文学
内容がヘビーな短編集です。 死ネタ有り/鬱表現有り

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

大人になりたくない僕たち

屑星れんか
現代文学
少し暗めな短編集

処理中です...