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第52話 行けばいいのに

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「お前最近、肌ツヤツヤしてるよなあ。美容に目覚めたんか?」

「ほんまに?別に何もしてへんねんけどなあ」

「そっかあ。ほんだら、『それ』ばっかりしてるからか?」

「まあ『それ』はいっぱいしてるかなあ」

猿である高校生らしい下品な会話だ。

昔読んだ雑誌の記事を思い出した。『それ』をすると肌がツヤツヤになり、綺麗になると書かれていた。僕ももれなくそうなったのだろう。

「そういえば、まなみとはどうなったん?」

「別れたよ」

「えー、もったいないなあ。もうやれへんやん」

「それがな……身体の関係はキープしてるねん」

「お前らしいなあ」

「健太は最近どないなん?」

「阿倍野高校の女と阪南高校の女と藤井寺高校の女と、あとどこやったっけ……」

「やばすぎやん。健太には一生勝たれへんわ」

相変わらずのモテ男だ。正直、羨ましい。僕は男のプライドだろうか、健太の前では美保さんやえりかさんのことなど言えなかった。なぜなら、自分の最近の出来事など、とてもちっぽけなことに思えたからだ。

午前中の授業を終え、昼休みになった。僕はメールを確認した。新着メールが一通あり、開けてみた。

「助けて」

一言だけ書かれていた。様々な事が脳裏によぎる。僕は駆け足で教室を出て電話をかけた。意外なことにすぐに繋がった。

「もしもし、大丈夫ですか?」

えりかさんは鼻をすすり涙声だった。

「無理やりされた」

やはりな

「今どこに居るんですか?」

「産婦人科」

そういうことか

「警察には言ったんですか?」

「言ったら殺すって脅されて……まだ言ってないの」

「ダメです。今すぐ警察に行ってください」

「でも……」

なぜ行かないのか?これは犯罪であり、ストーカーとは違い警察は必ず動く。それに、名も知ってる男に無理やりされたのなら逮捕されるのも時間の問題だろう。

「今からそっち行きましょうか?」

「いや、もう大丈夫だから」

「心配ですね……」

「ありがとね。ほんとに大丈夫だからね」

電話を切り教室に戻った。昼食を食べながら、あれやこれやと考えていた。すると僕の頭に疑問がいくつも湧いてきた。

何よりもまず、こんな真昼間に無理やりされることなどあるのだろうか?街は人目が多く、悲鳴を上げればすぐに皆が気づくはずだ。どこで無理やりされたのだろう……

それに、電話の感じも怪しかった。なんとなくだが自分にも負い目があるような話ぶりだった。被害者のはずなのに、なぜだろう。

えりかさんが落ち着いたら聞いてみよう。
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