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第8話 繋ぎ
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水族館の入場券売り場に着いたが、カップル達で溢れかえっていた。まるで東京の通勤ラッシュのようだ。僕達は1番空いてそうな列に並んだ。
「すごい人だね」
「さすがクリスマスやわ」
「こんなにカップル居てたら知り合いと会いそうだね」
「それは気まずいわ。まなみの知り合いは誰か来るん?」
「バイト先の先輩カップルと友達が水族館行くって言ってたよ」
「絶対会うやつやーん」
「どうだろう。てか、今日すごく寒いね」
今年のクリスマスは寒波の影響でとても寒く、周りのカップル達は肩を抱き寄せあったり、手を繋いだりして寒さに耐えていた。
しかし、僕達は横に並んだまま手を繋ぐことすらなく待っていた。まなみは僕の左に立っていて左手はポケットの中に入れていたが、右手は出したままだった。おそらくだが、僕が手を繋いでくることに期待して出しておいたのだろう。僕はそれに気づいていたが、手を繋ぐ勇気はなかった。
そうこうしている内に入場券を買うことができ館内に入った。館内に入るといきなり巨大水槽が現れ魚達が群れをなし、元気いっぱいに泳いでいた。
「あの魚怖い顔してるね」
「あれは顔も怖いし毒も持ってるで」
「そうなんだ。あの奥の魚美味しそう」
「あれはクエやなあ。クエ鍋にしたら最高やで」
「クエ食べたことあるけど初めて見た。このゴツゴツしてる魚は可愛いね」
「それはカサゴで煮付けとか唐揚げが美味しいで。手前のチヌとグレは絶対刺身やな」
「すぐに食べようとするね」
僕達は魚のおかげで会話が途切れることなく、館内を回ることができた。
「みんな手繋いでるね。私たちも繋ぐ?」
唐突にまなみがそう言った。僕は女性と手を繋ぐことすら初めてだったので顔が熱くなったが平静を装い、あたかも慣れているようなそぶりで左手を差し出した。
「いいよ」
手を繋いで感じたことは、とにかくまなみの手が小さかったということだ。そして、時間が経つにつれて身長差のせいで腕が疲れるといったことや、手汗をかいてきて少し恥ずかしい思いもした。
まなみは僕と手を繋げたことがよほど嬉しかったのか、太陽のような笑顔で何度も夢が叶ったと言ってくれた。僕はその度にありがとうと言っていたが、心の中ではごめんなさいと言っていた。
『それ』のためにデートしている自分を心底クズだと思いながら、心を持たない魚を見つめていた。
「すごい人だね」
「さすがクリスマスやわ」
「こんなにカップル居てたら知り合いと会いそうだね」
「それは気まずいわ。まなみの知り合いは誰か来るん?」
「バイト先の先輩カップルと友達が水族館行くって言ってたよ」
「絶対会うやつやーん」
「どうだろう。てか、今日すごく寒いね」
今年のクリスマスは寒波の影響でとても寒く、周りのカップル達は肩を抱き寄せあったり、手を繋いだりして寒さに耐えていた。
しかし、僕達は横に並んだまま手を繋ぐことすらなく待っていた。まなみは僕の左に立っていて左手はポケットの中に入れていたが、右手は出したままだった。おそらくだが、僕が手を繋いでくることに期待して出しておいたのだろう。僕はそれに気づいていたが、手を繋ぐ勇気はなかった。
そうこうしている内に入場券を買うことができ館内に入った。館内に入るといきなり巨大水槽が現れ魚達が群れをなし、元気いっぱいに泳いでいた。
「あの魚怖い顔してるね」
「あれは顔も怖いし毒も持ってるで」
「そうなんだ。あの奥の魚美味しそう」
「あれはクエやなあ。クエ鍋にしたら最高やで」
「クエ食べたことあるけど初めて見た。このゴツゴツしてる魚は可愛いね」
「それはカサゴで煮付けとか唐揚げが美味しいで。手前のチヌとグレは絶対刺身やな」
「すぐに食べようとするね」
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唐突にまなみがそう言った。僕は女性と手を繋ぐことすら初めてだったので顔が熱くなったが平静を装い、あたかも慣れているようなそぶりで左手を差し出した。
「いいよ」
手を繋いで感じたことは、とにかくまなみの手が小さかったということだ。そして、時間が経つにつれて身長差のせいで腕が疲れるといったことや、手汗をかいてきて少し恥ずかしい思いもした。
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