怪獣特殊処理班ミナモト

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第2章 王族親衛隊

懐かしい響き

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「この空間はね、端的に言うと人間の第六感に当たる部分なんだ」
「第六感って、もしかしてオカルト的な意味で?」
「まさか。もう少し科学的だよ。例えが悪かったが、つまりは人間の深層意識だ。ここでは脳にまつわるあれこれが集約されている。記憶も、五感も全て。普段我々は無意識のうちに、この深層意識で体の調整を行っている。ホルモンバランスの調整や記憶の整理なんかをね。個人差はあるけれど、こういった空間は誰しもがもっているんだ。ただそれを知覚するのがほぼ不可能なだけで」
「僕にはそれが見えるということですか」
「見えるだけじゃない。例えば、彼女の座っているソファは君がこの空間に具現化したものだ。君はここを自在に作り替えられる」
「そんなこと……」
 言いかけて源は思い出した。確かカナと初めて話した時、放課後の教室を再現したのだった。
「…確かに可能だと思います」
「だろ?君がコアを浄化するとき、ここに黒い球が現れると聞いたが、それも視覚、触覚的にそうしやすいように具現化しているんだ。コア本体を一旦取り込んでね。だからそこの彼女もスムーズに取り込めたんだよ」
「なるほど……」
「理解してくれたようだね。そして精神座標というのも、この深層意識を識別する一つの名称だ。人間も怪獣怪人も皆この空間を有しているからね」
「俺からもいくつかお前に問いたいことがある」
 そこにカナも入ってきた。いつもより口調が慎重だ。
「答えられる範囲なら」
「では尋ねる。コイツの精神座標がここまで広大な理由はなんだ。我々の中でここまで広いものはいない」
「……これは人間に限った話だけど、精神座標の広さ、まあ深さとも呼べるけど、は年齢と共に大きくなるんだ」
「なんだと?」
「本当さ。そういう実験もなされてる。だがまあ、この広さはなんというか……」
「続けろ。精神年齢はいくつだ」
「……推定1万2千歳、かな。ばかげた数値だけど、これを否定するのは現代科学の否定になる。つまり正しい値だ」
「やはりか、となると……」
 カナはソファに深くくつろぐと、あごに手を当てて考え始めた。
「狛江主任、僕がその、1万2千歳も生きていると?」
「まさか、肉体年齢は23だよ。だけどこの値も本当だ。これはちょっと今結論を出すのは難しい」
 もっと詳しい調査を大掛かりに行う必要がある、とのことだった。
「とりあえずこの事実は保留にする。もう起きてもいいよ」
 その言葉と共に源の意識は一気に引き上げられ、目を開くと目の前には狛江主任が立っていた。
「やあ、おかえり」
「……ただいま」
「主任、結果はどうだった」
 横で見ていた出羽長官が尋ねる。
「モニターで見てもらった通りです。それと一つ、源君に過程変異を覚えさせるの良い案ではありません」
「……それはなぜだ?」
「体が過程変異をし始めているからです。すでに体の半分は怪獣と酷似した組織に置換されています。恐らく取り込んだ玄武の影響かと」
「過程変異は効果が薄いか…」
「ちょっと待ってください。僕の体、そんなことになってるんですか?」
「そうだね。この数値によると…血液が黒くならないくらいだ。まあ取り込んだ相手が悪かったよ。あのトラグカナイを意識に入れたんだ、君の精神座標を待ってしてもその半分を侵食されたのさ」
「それは、なんとかならないんですか?」
「まあ方法はいくつかある。どれもアメリカの協力が不可欠だけどね」
「やはり日本単独の道は薄いか…」
「無いと言い切るしかありませんね。流石に我々だけでは手に負えない」
「……分かった。では源、一旦この階層に待機だ。今度は拘束具は付けない」
「はい。助かります」

 その頃、赤本は衛生環境庁に併設されているトレーニングルームにいた。すでに1時間以上休憩している。汗はすでに乾いていて、心拍数も正常だ。それでもベンチから立ち上がる気力が湧かない。
(まだ俺は源のことを気にしているのか…)
  共に仕事をしてきた時間は2ヶ月弱と、それほどの時間を源とは過ごしていない。だが、体験したことは多かった。神獣協会の登場による生死を分ける戦い、因縁の友人との再会、そのどれにも源がいた。互いの感情の機微を共有し合った仲だ。ただの同僚と言い切ることは出来ない。
(それに、俺は怖いんだ。あの時みたいに、黒澤を殺した時みたいになるのが怖い。もう仲間を失いたくない)
 だが赤本にはもうどうすることもできない。源の存在価値は最早、戦術核と同義かそれ以上だ。
「赤本、そろそろいいか?」
 東雲が赤本に声を掛ける。もう一時間待ったが、一向に動く気配を見せない赤本を見かねてのものだった。
「……はい、大丈夫です」
「…お前、源のことを考えてるな?」
「はい」
「まあそうだろうな。お前の気持ちも分かる。俺も黒澤の時みたいに仲間を失うのは二度とごめんだ」
「もう1週間です。その間に伝言の一つもないなんて、あらぬ事を考えてしまいます」
「源の状況を考えればそれも妥当だろう。一旦冷静になれ、赤本。お前は昔から思い詰めては思考が空回りする」
「分かっていますよ。でも白石や千秋を見ているとどうしても……」
「あの二人は源に思う所があるのだろう。千秋だって……いや、子供じゃないのか。とにかく考えすぎるな。今は自分のやるべきことをしろ」
 あの時と同じ事を東雲は言う。いい意味で変わっていないのだ、この人は。俺が初めて出会った日から。
「東雲さん、俺と初めて会った時、俺はどんな奴でしたか?」
「…急にどうした。らしくない」
「俺は成長したのかな、って」
「したさ。今ここに5体満足でいることが何よりの証明だ」
 東雲は片方が義手になった両手を腰にあてた。
「…本当に俺が成長したのなら、貴方のその腕も失わずに済んだはずだ」
「それは違う。この腕はあくまで俺の責任だ。お前がどうこうできることじゃない」
「でも…」
「もういい、いつまでも遠く及ばないことについて考え続けていたら、あっという間に時はたつ。今やるべき事を考えろ。それが1番大事だ」
「…わかりました」
 赤本はやっとベンチから立ち上がった。筋肉が若干固まっていたのでほぐす。それを見ていた東雲が口を開いた。
「赤本、気分転換だ。昔みたいにいこう」
「昔みたいって…東雲さん怪我しますよ?」
「技量はついた。一本くらいは取れるさ」
 2人は柔道場に向かうと、畳の上に相対した。
「行きますよ、東雲さん」
「来い、少年」
 柔道場には地面を踏みしめる力強い音が響いた。
 そしてその音は、どこか懐かしい響きを持って2人を過去に想起させた。
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