怪獣特殊処理班ミナモト

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第2章 王族親衛隊

巨大な陸亀

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翌日、久しぶりの休日ということで源は自分の部屋で休んでいた。二日酔いがひどい。

(酒は強いはずなんだけどなあ)

 久しぶりの飲酒で飲みすぎてしまったのだろうか。とにかく、今はひどい頭痛でベットから起き上がることすら困難だ。ふと自分のスマホを見てみると、すでに正午である。源はなんとか腕を伸ばして机の上に置いてある緑茶のペットボトルを取ると、それを一気に流し込み、そこらへんに投げ捨てた。

「…後で捨てよう」

 今日はベッドの上で一日を終えよう。源はそう自分に言い聞かせると、目を閉じた。が、良く晴れた正午に昼寝とはいささかもったいない。そこで、

『源、俺だ、赤本だ』

 赤本から電話がかかってきた。

「…なんでしょう」

 源としては、このまま寝ていたかった。

『眠そうだな、源』

「今から寝ようとしてたので」

『それは残念ながら無理だな。お前、ニュース見たか?』

「いえ、見てませんけど」

『それじゃあ今すぐテレビつけてみろ。チャンネルは任せる』

 源は言われるままに、壁に埋め込まれた一人暮らし用のコンパクトテレビをつけた。チャンネルは一応国営放送にしてある。

『……りかえします。本日未明、樺太ユジノサハリンスクで休眠していた大怪獣「玄武」が活動期に入りました。本来の活動期からずれた突発的なものと見られており、自衛隊、本土守備隊では討伐部隊が編制される見込みです。玄武はこのまま南下し、北海道稚内市に上陸すると思われます』

「これって……」

『恐らくは神獣協会によるものらしい。我々もすぐに準備するぞ』

 それは火急的速やかに行わなければいけない用事だが……

「あの、実は僕…」

『二日酔いの薬は持っている。自衛隊の備品だからすぐ効くぞ』

 とにかく急いで来い、と赤本は急かした。来いというのは衛生環境庁のことだろう。源は大きく息を吐くと重い体を起こしてベッドから立った。

「どのくらいで行けばいいですか?」

『5分だ』

 冗談にしてもキツい。源は急いで身支度を整えると、携行栄養食をもって寮を出た。外では、空中に出現した緊急掲示板を道行く人々が見上げている。自衛隊の第一陣が接敵するまであと5分らしい。源は人々の隙間を縫うように地下鉄の構内に階段を一段とばしで降りると、職員専用の通勤急行に飛び乗った。行先は勿論旧国会議事堂前である。普通急行の3倍の速度で運行するこの列車であれば、駅まで1分とかからない。電車が駅に到着すると、源は最新の技術が詰め込まれた駅構内を駆け抜け、動く歩道で大幅に道をショートカットし、各庁舎が立ち並ぶ桜田通りに出た。自衛隊の接敵まであと1分だ。源は滑り込むように衛生環境庁の玄関を抜けると、個人用のエレベーターに飛び乗った。この間わずか5分である。赤本の指定した時間には遅れたが、これはかなりの好タイムではないだろうか。源が息も絶え絶えにそう考えていると、29階に到着した。源はネクタイをゆるめると、一般職員のデスクを抜け、倒れ込むように特殊処理班の二重扉の中に入った。

「お待たせ、しました…」

 源が室内に入ると、そこには東雲と赤本、そして白石、千秋の姿があった。

「お前、本当に5分で来たのか?」

 赤本はひざをつく源に信じられないという目を向けた。5分で来いといったのはそっちだろうが。源は滲む汗をぬぐいながらそう心の中で悪態をついた。

「とりあえずこれを飲め。冷たい水もあるから」

 赤本に渡された錠剤を冷水で一気に流し込むと、ようやく気力を取り戻した。

「源さん、大丈夫ですか?」

 白石が心配そうに源の顔を見ている。何と優しい人だ。

「大丈夫、なんとか落ち着いた…それより、諏訪部さんと緑屋さんはどうなったんですか?」

「一応病院で見てもらってる。自業自得極まりないな」

「はは、そうですね…」

 昨日の暴れようは筆舌に尽くしがたかった。そもそもあそこのビールはアルコール度数が高すぎるのだ。

「まああれは予想外の展開だ。ある程度は目をつむろう」

 東雲はそう言ってため息をついた。そういえば失った左腕は金属製のフレームの義手に代わっている。義手の造形は実際の腕とは似せなかったのだろう。

「あの2人は後で合流するとして、まずは大怪獣を駆除しないとな」

赤本は話を本筋に戻した。

「そこなんですが、大怪獣を、よりにもよって玄武を駆除するのは現代の技術では難しいのでは?」

 白石が尋ねる。そもそも怪獣には玄武などと名前はつかない。なぜなら一時間前後の時間で、ほぼすべての怪獣は駆除することが出来るからだ。そもそも識別する必要がない。ではなぜこの怪獣には名前が付いているのか、それは大怪獣だからである。大怪獣とはコアを複数持つ怪獣のことで、その多くは通常の個体よりもさらに大きな体を持ち、その防御力も攻撃力も、知性と残忍性も他の個体とは一線を画す。そんな怪物を殺す手段を人類は持ち合わせていない。せいぜい足止めするので精一杯である。

「白石、それは私が説明しよう。それと、源と千秋も良く聞いておけ」

 東雲はそう言うと、ウインドウを立ち上げた。そこにはテレビ中継が映っている。画面の中では、山を一つ背負ったかのような巨大な陸亀が、行く手を阻む山々をその巨体で抉っていた。徹甲弾も焼夷弾も固い甲羅で跳ね返され、戦闘機の編隊はなすすべもなく周囲をコバエのように飛び回ることしかできない。

「このように、通常兵器では歯が立たない。玄武の素体はアルダブラゾウガメだ。世界最大の陸亀が、過程変異によって水中移動と強化繊維並みの硬度の骨格を手に入れた。核でなければ対応できないだろう」

「ですが核の使用にはいくつもの規制が…」

「そうだ。だから当然、核は使わない。使うのはお前だ、源」

「ぼ、僕がですか?」

(一体どういうことだ?)

「先の作戦で使った脳波拡張装置を使う。玄武の至近距離に近づいてあの装置を使えば、奴のコア4個を一気に浄化することが出来る」

「でもあれは……あの装置は上手く作用しなかったのでは?」

 でなければ、東雲が左腕を失うことも無かったはずだ。

「いや、十分効果を発揮していた。戦闘データを解析した結果、怪人の身体機能を半分以上阻害している。そう責任を感じることは無い」

 東雲は源の罪悪感をしっかりと感じ取っていた。

「いいか、これはむしろ絶好のチャンスだ。今日中にはアメリカのMSBメンバーが全員到着する。その面々と共に、源と千秋は合同で浄化作業を行え」

「MSB、怪獣殲滅大隊ですか…」

 源は、彼らとは気まずくなったばかりだった。それは特殊処理班の班員たちも感じているらしい。赤本と白石が微妙な表情をしている。

「昨日のことは赤本から聞いた。やりづらいとは思うが、頼む」

 昨日のアーノルドたちの行動は東雲、出羽長官を通して政府関係者に伝わっていた。やはりアメリカ政府があらかじめ仕組んでいた可能性が高いという見解が主だ。もっとも、その隊員の一人が泥酔状態で絡んでくる、というのは予想外だったが。恐らくアーサーはひどく叱られただろう。

「…了解しました」

「では身支度を整えろ。陸路で青森市に向かう」

 移動の際に航空機を使わないのは、飛行型の大怪獣が一体、駆除できずに世界中を飛び回っているからである。電波灯台の届かない区域ではたびたび戦闘機や爆撃機が襲われている。

 ロッカールームでスーツから自衛隊の迷彩服に着替えていると、横の千秋が話しかけてきた。

「あ、あの、源さん…」

「どうしました?」

「ズボン、はかないんですか?」

 そういえば上着のヨレを正していたから、すっかり下をはくのを忘れていた。

「ああ、忘れてました。ありがとうございます」

 源はズボンをはいて、防護ブーツをしっかり固定すると、ベルトを通した。源はふと千秋を見たが、特に服を羽織ることもなく装甲板むき出しで、もうレストアにしか見えない。

「ところで千秋さんは、着替えたりとかしないんですか?」

 源は思わずそう聞いた。

「え?私ですか?」

「はい。何も着ないのは目立つかなあと」

「それは心配いりません。装甲の表面を実体ホログラムで覆うので」

 つまりホログラムを着るのだ。

「覆うって、そんなこと出来るんですか?」

「できますよ。ほら」

 千秋は両腕を広げてみせた。するとどこからともなくドットのようなものが無数に現れて千秋を覆い、そこに迷彩服の映像が映し出された。

「これは、驚きました…」

 ここまで技術が進化しているなんて、源は予想だにしていなかった。

「こんなものが実用化されていたんですね」

「技術自体は西暦時代に確立されていたんですけど、当時はいかんせんその材料が希少で、実現できなかったんですよ」

 千秋はどこか楽しそうに語る。どうやら基盤に使われる各種レアメタルが足りなかったらしく、近年の合成技術の発達で希少金属を作り出すことで初めて実用化にこぎつけたのだった。

「それにしても、迷彩服を着ると随分ゴツいですね。装甲板が人間の筋肉を若干に模しているせいで余計そう見えます」

「これはこれで楽なんですよ?スペースが広いし……あ、なんでもありません」

「スペース?これを着られるぐらいの体格で何のスペースが?」

「ああ、えっと、スペースというのは隙間という意味合いで使いまして……」

 千秋は慌ててそう付け加える。なにを焦っているのだろうか。

「すみません、語弊がありました」

「いえ、千秋さんが言いたいことも分かりましたよ。確かに余分な隙間がないと通気性も悪いですしね」

「そうなんです。……よかった」

 千秋はほっと胸をなでおろした。やはりその所作には違和感がある。

「おい二人とも、そろそろ行くぞ。アメリカの連中羽田についたそうだ」

「もうですか?随分早いですね」

「どうせ低空ジェット機だ。あれなら安全に太平洋を渡れる」

 低空ジェット機とはその名の通り、おもに海上50メートルほどを音速で移動するもので、一部の富裕層や軍の幹部が使用している。

「とにかく東京中央基地まで移動する。千秋、そこのケースを持ってきてくれ。術刀と術槍が2本ずつ入っているから」

「了解です」

 そして源たちは午後1時、東京中央基地に到着した。
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